組み合わせは40通り以上。自由に重ね着を楽しめるコレクション
クレア・ワイト・ケラーが、帰って来た! クロエで自由な女性のワードローブを刷新し、ジバンシィではウィメンズ、メンズ、オートクチュールのすべてで幅広いクリエーションを見せた彼女が〝メゾン〟を後にしたのは、3年半前。ヨーロッパが、コロナ禍によるロックダウンに入った頃だ。デザイナーの座を退くと虚無感に悩まされるものと聞くが、彼女はこの時期をリフレッシュの好機に変えた。クレアはこう回想する。
「突然ファッション界を外から眺めることになったわけですが、当面のプロジェクトを持たず、自由を満喫して結果的にはとても素晴らしいリチャージの時期でした。ものごとを熟考し、インスピレーションの吸収力が高まったんです」。こうして行き着いたのが、彼女が〝偽りのない装い〟と呼ぶ概念だ。
「服はステータスやトレンドを表す媒介ではなく、まっすぐな気持ちで着る女性に、自信と喜びを与えるものでなければ、と考えるようになりました」。この間、フリーの彼女にはいくつかの仕事のオファーが来たが、どれも最適とは思えずに断り続けた。そしてアプローチされたのが、ユニクロだったのだ。
「それまでまったく縁がなく、漠然とした概念しか持てなかったこの価格帯。これは私にとって新しい視点での新しい試みを意味していました。しかも私は自分のブランドを持ちませんから、名前を出してこれだけ大規模なプロジェクトを受け持つことは、大きな〝挑戦〟だったんです」
折しも〝ルックのおさらい〟をしていたというクレア。自身の写真を整理して過去のルックを振り返り、クローゼットを見直すと、驚くほどの一貫性があった。カシミヤのセーター、ナイロンのロングコート、しなやかなシルエットのドレス、柔らかなブラウス……。彼女のクローゼットにいくつかバージョン違いで並ぶこれらのアイテムを基本に、UNIQLO:C ファーストコレクションの輪郭は、自然と描かれていった。軽やかで、何枚もの重ね着が可能な、〝ワードローブ・エッセンシャル〟である。
「最初は一人で、今度はユニクロのチームと一緒に私自身の定番を再考するのは、とても興味深い仕事でした。リアリティよりもビジョン、つまり現実からはかけ離れた世界を見せるハイエンド・ブランドと違って、ユニクロは日々のワードローブへの解決策。どのアイテムも、デザイン、フィット、そして長持ちする素材のすべてにおいて、真の意味でグローバルでないといけません。それで、誰にも似合うタイムレスで実用的なキーアイテムに、フォーカスしたんです」
コンセプトをこうまとめるクレアが、コレクションの立ち上げにあたり具体的な着想源としたのはロンドン郊外、ハックニー・ウィックの建築や雰囲気だ。
「再開発が進み、若い世代でにぎわっているこの地区はクールで、常に動きがあります。特に好きなのは駅の銅と新しいビルのコンクリートと空とのコントラスト。今回のカラーパレットは、ここの風景からとったんですよ。以前、私のコレクションづくりの出発点は歴史やミューズでしたが、今はリアルな場所や人々。それをモダンなやり方で、モダンな女性たちのために、実際のファブリックや形に落とし込んでいく。今私はとても現実とつながっていると感じるんです」
またメンズウェア・デザイナーとしての経験から特にこだわったのは、コートやジャケットのカッティング。特に、定番アイテムであるトレンチコートが象徴的だ。イージー・フィットで、肩はややルーズ。クレアいわく、クラシックながらちょっとだけエッジがきいている。
「一つ大きめのサイズだと、クールに着られます。逆に小さめなら、スリークでスタイリッシュに。ロゴは使わないものの目印としたのは1940年代のブラウンのチェックのライニング。とても長いベルトで、結んだり巻いたり、自由な着方が楽しめるんですよ」と、クレア。
ちなみに彼女がユニクロに興味を持ち始めたのは、10年以上も前のこと。
「2009年秋にジル・サンダー氏とのコラボレーションについて知って、ユニクロ+Jのローンチと同時にブティックに駆け込んだのを覚えています。それ以来ユニクロのシンプルさと洗練、機能性が好きで、今日もメンズの定番Vネックセーターを着てるんですよ」
そして’21 年末、UNIQLO:Cのためにコロナ禍の規制をクリアにして日本に行き、チームと働き始めてからは、さらにブランドへの信頼感が高まった。
「人々の気遣い、そして何よりも仕事上での細かさと完璧主義。これは日本の特徴でしょうね。しかもここではブランドのDNAという型にはめられず、自由にパーソナリティを表現できます」
ユニクロでの仕事自体を、日々のエネルギー源とするクレア。自身のデザインを世界中でたくさんの人に着てもらうのが本当に楽しみだ、と言う。