鏡リュウジさん、山崎まどかさんほか識者とともに【赤色】の魅力を紐解く!

2023-’24年秋冬のランウェイで、鮮烈な印象を残した赤。ファッションはもちろん、映画や文学などさまざまなカルチャーのキーカラーとなる色は、いつの時代も人を惹きつけ、ときに惑わす。そんな赤が持つ魅力の秘密を、各分野の識者の言葉とともに解き明かしていく。

クリスチャン・ルブタンの「レッドソール」

クリスチャン ルブタンのレッドソール
靴¥183, 700/クリスチャン ルブタン ジャパン(クリスチャン ルブタン) 靴下¥2,750/ぽこ・あ・ぽこ

アイコニックな赤として誰もが思い浮かべる「レッドソール」。靴のデザインに物足りなさを感じたクリスチャン・ルブタンが、真紅のマニキュアから着想を得て誕生させたのは有名な話だ。新作のサンダルはアッパーからストラップまで赤いパテントレザーを採用。ヒールはリップスティックシェイプ、というメゾンのアイデンティティを詰め込んだ一足。

ロマンス映画を彩る燃ゆる色

ドルチェ&ガッバーナの赤いコート
コート¥715,000・パンプス¥118, 800・グローブ¥63,800/ドルチェ&ガッバーナ ジャパン(ドルチェ&ガッバーナ)

改めてフェミニニティに着目したブランドは、本能的な情熱や無条件の深い愛を表現するレッドをフィーチャーした。ラミネート加工を施したハンサムなシルエットのトレンチコートに配し、ドラマティックな一着に。グローブもパンプスも赤でまとめれば映画の主人公のような装いが完成する。大胆にコートを翻して闊歩する先に始まるのは、どんな物語だろう。

映画における赤の色は愛情と情熱、欲望を表すカラーだという。この三つが合わさって生まれるのが切ないロマンスだ。(ホラー作品でなければ)映画のシーンにぱっと目を引く赤い色があったとしたら、それは恋の炎が、登場人物が誰かに寄せる気持ちがどこかでまたたいているというヒントなのかもしれない。

『アメリ』(2001)のキュートさの秘密は赤の使い方にある。子ども時代のアメリが指にはめたラズベリーや、大人になった彼女が暮らすアパートの壁紙。夢見がちで自分の世界に閉じこもっていたアメリにとって恋をすることはロマンティックな冒険だ。赤は彼女の心の奥底に潜むその冒険への願望を表す色なのだ。赤はヒロインを輝かせる。

『トリコロール/赤の愛』(1994)でイレーヌ・ジャコブ演じるヒロインは愛のシンボル的な存在。彼女が赤のインテリアや小物に囲まれるとき、その色を反射させた温かな光が彼女を照らし、まるで天使のように見える。

そして赤が揺らめく恋愛といえば何と言ってもウォン・カーウァイの『花様年華』(2000)だ。1960年代の香港。アパートで隣同士になった男と女。彼らはお互いの配偶者同士が関係を持っていることに気がつく。そこから二人は不思議な絆を結んでいく。直接的なラブシーンはないが映画を覆う赤のイメージが二人の秘めた情熱を物語っている。タイトなチャイナ服の上に真っ赤なコートを着たマギー・チャンが、赤いカーテンの揺れるホテルの廊下を歩いていく後ろ姿は忘れられないものがある。最後に彼女は男の部屋に赤い口紅の跡がついた煙草を残して去っていく。赤は、まるで恋の残像だ。まぶたを閉じてもその色は消えず、鮮烈な思い出となって心の中で炎のように燃え続ける。

山崎まどかプロフィール画像
コラムニスト・翻訳家山崎まどか

著書に『優雅な読書が最高の復讐である』(DU BOOKS)、訳書に『ありがちな女じゃない』(河出書房新社)などがある。

ファッション史に息づくロッソ ヴァレンティノ

ヴァレンティノのドレス
ドレス(ヴィンテージ商品)¥735, 240/The Vintage Dress(ヴァレンティノ)

現在クリエイティブ ディレクターを務めるピエールパオロ・ピッチョーリが、初めて単独で手がけた2017年プレフォールコレクション。誰もがアメリカンドリームを夢見て訪れるNYが舞台だった。華やかなドレスが多数登場する楽観主義的なランウェイの中で、ひと際存在感を放っていたのが真紅のエンパイアドレス。総スパンコールで仕立てられた一着は、まさに夢とロマンを具現化したよう。

ファッション史に息づくロッソ ヴァレンティノ

「メゾン ヴァレンティノにとってレッドはただの色ではない」とかつて語ったヴァレンティノ・ガラヴァーニ。1959年にアトリエをオープンし、デビューコレクションでこの色を採用。同時代に撮影されたローマのアトリエでの写真にも、赤いアイテムが印象的に写り込んでおり、メゾン設立初期から特別な存在だったことを物語る。

その後もほぼ毎シーズン登場し、1985年には「ロッソ ヴァレンティノ」と名付けられ名実ともにシンボルカラーに。2013年に発表されたエクスクルーシブな上海コレクションや、東京で開催された2019年のプレフォールコレクションでも多用されたのは記憶に新しい。メゾンに残る赤いアーカイブスは膨大な量に上るが、すべてが同じトーンではない。色合いは550種類以上に及び、各コレクションのテーマに合わせて繊細に色みの異なる赤がそれぞれの世界観を表現してきた。ヴァレンティノにとって赤とは、永遠に色褪せないアイコンであり、アイデンティティ。そして半世紀以上にわたる足跡そのものなのだ。

情熱と炎の石、ルビー

フレッドのリング
リング〈ルビー、ダイヤモンド、ホワイトゴールド〉¥18, 316,000/フレッド カスタマーサービス(フレッド)

フレッドの創業年を冠した「1936コレクション」より。メゾンの象徴的なモチーフである第一号店のファサードを飾ったアーチをリングのシェイプに落とし込んだ。ホワイトゴールドを埋め尽くすのは、315個に及ぶブリリアントカットとバゲットカットのダイヤモンド。中心には、1.61カラットのオーバルカットルビーが鎮座し、魅惑の輝きを放つ。

宝石が宿す赤として、真っ先に思い浮かぶのがルビー。何しろこの貴石の名称そのものがラテン語の赤、すなわち「ルベド」に由来する。ルビーは赤の代名詞と言ってもいいのだ。そしてこの色はある種の炎だという説もあった。宝石の伝承を幅広く渉猟したジョージ・フレデリック・クンツの著書『図説 宝石と鉱物の文化誌』(原書房)には、布で包もうがルビーから放射される炎の色は隠せない、あるいは水に入れるとその熱で湯に変わるという興味深い話が収められている。ルビーの赤には単なる色彩を超えた力があるとされていたのだ。

美しく輝く貴石に心をつかまれてやまないのはいつの時代も同じだろうが、捉え方は近代以前と以降で大きく異なる。古来、人々は宝石は単なる物質ではなく、長い年月をかけて地中深くで育つ生命体であると考えていたのだ。卑金属を黄金に変容させる「錬金術」も同じような思想に基づいている。自然界では何万年もかかる鉛が黄金へと成長するプロセスを、人の手で加速させる研究だったわけだ。そのために錬金術師は天と地の理に奥深く分け入り、自らの魂も向上させる必要があった。黄金錬成の成功は単なる一攫千金のための卑しい詐術ではなく、自然の秘密に分け入った「達人」であることの証しだったのだ。

そしてここでも「赤」が重要なファクターとして登場する。さまざまな書物をあたると、おおよそ錬金術のプロセスは三つの段階に分かれていることが多い。まず元の素材は解体され黒くなり、次に浄化され白くなり、ついには赤くなり黄金ができるというのだ。心理学者のユングは錬金術は単なる物質変容ではなく、精神の成長や変化の過程でもあると見なした。人の心は情熱に燃え、エネルギーに満ちるとき「赤」く輝く。ルベドの石、ルビーは魂の内に眠る深く強い感情の象徴であり、その眠れる炎をかき立てもするのだ。

鏡リュウジプロフィール画像
占星術研究家・翻訳家鏡リュウジ

英国占星術協会会員。ポピュラーな星占いから学術書の翻訳まで幅広く活躍、日本の占星術シーンを長年牽引する第一人者。

名著に登場する魔性の色

プラダのジャケット
ジャケット¥1,023,000・スカート¥572,000(ともに予定価格)/プラダ クライアントサービス(プラダ)

昼下がりの読書は、装丁と同じ赤のナッパレザーのセットアップで。メンズのワードローブにあるトラッドなシングルブレストジャケットを再解釈。特殊なタンブリング加工でランダムなシボ感を出し、経年変化のような自然なシワと革なじみをかなえた。首もとは、ポプリンとシェットランドウールによる取りはずし可能な襟で飾って。クリーンなシェイプとひねりのきいたディテールの融合で、クラシックなウェアにプラダのモダンな美学が宿る。

フランス文学者の蓮實重彦は、なぜ物語には「赤」が氾濫するのか、それは偶然か必然か?という問いのもとに、『「赤」の誘惑』(新潮社)と名付けた書物を書いた。童話の『赤ずきん』や『赤い靴』をはじめ、森鷗外の『かのように』の冒頭に現れる小間使いの女性が灯す火鉢の小さな火に至るまで、文学に登場する「赤」の魅力と禍々しさを解き明かしていく。

たしかに、夏目漱石のリアリズム小説『それから』のラストで、友人の恋人を略奪して妻にした代助が、裕福な親や社会とのつながりを断絶し、その不安感からとつじょ町にあふれる赤いもの──郵便ポスト、風船、傘ばかりを見て、目の前が真っ赤になるシーンは、幻想的であると同時に、赤色でしかありえない不穏さに満ちている。

色に注目して文学を読む。トルコのノーベル文学賞作家オルハン・パムクには『わたしの名は赤』(ハヤカワepi文庫)という小説がある。オスマン帝国時代のイスタンブールを舞台に犯罪と恋愛が描かれる。細密画師のおじの求めに応じ、青年カラは装飾写本の挿絵の世界に戻った。かつて恋した美しい従妹のシェキュレは今や人妻だ。絵師の殺人事件が起き、皇帝の命により製作されていた写本に謎があると踏んだカラは、犯人捜しにいそしむのだ。短い章ごとに語り手がスイッチされる不思議な小説で、画材の「赤」がみずから語るくだりもある。〈赤たることは幸いかな! 赤の優美さは惰弱と無力によってではなく、ただ決意と強い意志によってのみ実を結ぶ〉。東洋と西洋の画法の狭間で絵師たちが技術を磨き、赤を輝かせようとするスリリングさが読みどころだ。

トマス・H・クックの『緋色の記憶』(ハヤカワ・ミステリ文庫)もまた、色が強烈に脳裏に浮かぶミステリーの傑作といえる。1926年8月、女性教師のミス・チャニングは村に着任する。緋色のブラウスを着て……。平穏な田舎に波紋を起こした彼女と、その悲劇的な出来事の顛末を主人公ヘンリーが回想するのだが、〈時よ、どうか止まってくれ〉との彼の願いはもちろんかなわない。ときに残酷な宿命に向かって、時間は流れ続ける。その無情さの中で、一瞬、チャニングの赤いスカーフは煌めくのだ。白い紙の上の黒い文字でしかない書物が、鮮明な色彩をたたえている。とりわけ「赤」は物語の傷口のように、読者に強い印象をもたらすだろう。

江南亜美子プロフィール画像
書評家江南亜美子

京都芸術大学准教授。新聞や文芸誌で主に日本の小説と翻訳小説を評する。共著に『世界の8大文学賞』(立東舎)がある。

激しさを赤に託すガレージロック

ルイスレザーズのジャケット
ジャケット¥217,800/ルイスレザーズ ジャパン(ルイスレザーズ) Tシャツ¥37,990/VOSTOK ロングTシャツ¥10,450/セント ジェームス代官山店(セント ジェームス)  レギンス¥13,200/Little $uzie 帽子¥62,700/アオイ(エムエスジーエム) ネックレス¥38,000・ボディチェーン¥35,000/マーランド・バックス

紅のライダースジャケットは、1960年代のアーカイブスをベースに瓶ビール用の内ポケットをつけた。ギターウルフのセイジとルイスレザーズの代表デレクのアイデアだ。ロックTとキャッチーなパーツを連ねたアクセサリーで反骨心が加速する。

熱く粗削りなエネルギーの爆発。ガレージロックのルーツは60年代、北米各地から出現したバンドの数々にある。プロフェッショナルな音楽産業や伝統的な教育の場とは別に、ガレージすなわち家の車庫で練習を始めた彼らは、シンプルで激しく生々しい表現の可能性を切り拓いた。彼らはレニー・ケイが編纂したコンピレーション『ナゲッツ』などを通してたびたび再発見され、70〜80年代のパンク/ニューウェイヴをはじめ後世の音楽に多大な影響を与えている。2000年代にはホワイト・ストライプスやストロークス、リバティーンズらが人気を集め、ガレージロック・リバイバルと呼ばれた。

そうした音を出すバンドがジャケットや衣装に赤い色をよく選ぶ理由は、当然ながら人それぞれ。50年代の不良のスタイルへの憧れからのこともあれば、共産主義への関心からかもしれない。とはいえ一つ確かなのは、それが血と情熱の色だということ。大胆に浮かび上がる赤は、限られた手札で最大限の効果を生むガレージの美学に通じているのだ。

野中モモプロフィール画像
ライター・翻訳家野中モモ

訳書に『世界を変えた50人の女性科学者たち』(創元社)、『音楽のはたらき』(イースト・プレス)など。

コム デ ギャルソンの赤

コム デ ギャルソン Tシャツ・ジャンパースカート
Tシャツ¥25,300・ジャンパースカート¥81,400/コム デ ギャルソン

布を幾重にも重ね、ときに裏返し、ランダムに縫いつけた真っ赤なジャンパースカート。白いライニングや縫い目が大胆に露出する様が、コム デ ギャルソンが得意とする「破壊」と「再構築」を感じさせる。トップスには、あえて軽やかなTシャツをチョイス。ボトムスとの間に質感やボリュームのコントラストが生まれ、ひと筋縄ではいかないムードがいっそう加速してやまない。

1980年代初頭のデビュー時に「黒の衝撃」と世界中で話題になったように、コム デ ギャルソンといえば、モノトーンのイメージが強い。しかし実は赤色も、折に触れて使われてきた欠かせない色だ。血、戦争、女性、花、生と死、性、破壊と再生、パンク、混沌、解放……さまざまなもの、ことを表す切り札として、強烈な印象を残してきたのだ。

たとえば、1997年春夏コレクションの「ボディ・ミーツ・ドレス、ドレス・ミーツ・ボディ」に登場したいわゆる"こぶドレス"や、英国調を取り入れたタータンチェック、「PLAY」のロゴマークのハート。そして1996年に華道家の中川幸夫とコラボレーションしたときの朽ちかけた花も印象的だった。中でも赤が極めて強く押し出されていたのが「薔薇と血」をテーマにした2015年春夏コレクション。会場はパリ市内の廃屋で、服はすべて鮮血のように真っ赤。布で身体を拘束したドレスや、血しぶきがはねたような柄は、一見グロテスクにも感じられるが、造形は優美だった。そのインパクトたるや、ショーを見ていて胸の鼓動が止まらなくなるほどだった。そのときにショーのバックステージで川久保玲は「昔から政治や宗教、戦争に登場した、血を伴うバラを念頭に置いた。いま人それぞれが"重い物を持っている"ことを表現したかった」と語った。そのシーズンは、今は亡きカール・ラガーフェルドが率いるシャネルも「自由」や「男女平等」を掲げてモデルがデモをするフィナーレを見せた。コム デ ギャルソンは赤を用いて社会不安など"重いもの"に対して、人々に寄り添い、鼓舞しているように思う。

コム デ ギャルソンの赤は、意味が深く、強度の高い赤。常に、これまで目にしたことのないものを作ろうとしてきたブランドによる提案だ。その魅力は、着ることで自分の新しさに出合えそうなところ。生きることや生きていることを実感する、わくわくすることへと誘う感覚がコム デ ギャルソンの赤にはある。

スタイリングにきく多様な赤

シックなバッグ

ミュウミュウ「マテラッセ」
バッグ〈H13×W19×D6〉¥330,000(予定価格)/ミュウミュウ クライアントサービス(ミュウミュウ)

アイコニックな「マテラッセ」のトップハンドルバッグを、深いレッドで彩った。クラシックなシェイプとゴールドトーンのディテールの掛け合わせが、エレガントなムードを放つ。取りはずし可能なショルダーストラップつき。

センシュアルなボディスーツ

クレージュ ボディスーツ
ボディスーツ¥93,500/エドストローム オフィス(クレージュ)

さりげなく肌が透ける、シアーなボディスーツはレイヤリングスタイルで重宝する。フロントにはアイコニックなブランドロゴを、同色の赤い糸で刺しゅうしワンポイントに。へその部分にぽっかり開いたホールがチャーミングなニュアンスを添える。

パワフルなニット

フェラガモ ニット&ショーツ
ニット¥264,000・ショーツ¥84,700/フェラガモ・ジャパン(フェラガモ)

1950年代のハリウッドスターのワードローブがテーマの今季。ウエストのシェイプや袖のボリュームなど、ボディラインを誇張したような曲線を肉厚のニットで描き出した。ショーツを合わせることで、一気に今のムードを捉えた装いに。

カジュアルなシューズ

エーグルの「コーレイ」
靴¥11,000/エーグル カスタマーサービス(エーグル)

天然ゴムによるクロッグシューズ「コーレイ」。本格的なガーデニングシーンが想定されており、柔軟性の高いアッパーと頑丈なソールを持つ。インソールには吸水性の高いコルクを採用し蒸れ感を軽減。パプリカを意味するポワブロンカラーは差し色としても優秀だ。

高橋牧子プロフィール画像
ジャーナリスト高橋牧子

国内外の有名デザイナーを取材。ジャーナリストとして数多くの媒体に寄稿しながら、国際ファッション専門職大学の客員教授も務める。

FEATURE
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