最新のクチュールコレクション「Viv’ Choc Pièce Unique」。ゲラルド・フェローニが頭に描く夢のようなイメージを具現化するのは、優れた職人技。メゾンの世界観をこよなく愛するマドモアゼル・ユリアとアルチザンのアトリエを訪ねた ロジェ ヴィヴィエのオフィスにて2ショット ゲラルド フェローニ イタリア・トスカーナ州出身。2018年3月よりロジェ ヴィヴィエのクリエイティブ・ディレクターに。愛らしくエレガントな世界にファンが多い。 マドモアゼル・ユリア DJ、着物スタイリスト、クリエイティブ・ディレクターなど幅広く活躍。自身のYouTubeチャンネル「ゆりあの部屋」では、ファッションや着物にまつわる内容の動画も配信中。 アナリザ・ダラ・リベラの美しい刺しゅうと 「トリアノン」 右からアナリザ、ゲラルド、ユリア。手前に広がるのは膨大なアーカイブスの一部。ロジェ ヴィヴィエで過去に発表された図面もある イマジネーションを広げて刺しゅうで豊かな世界を表現 まずは刺しゅうを担当するイタリア出身の職人、アナリザ・ダラ・リベラのアトリエへ。朗らかでチャーミングな彼女とゲラルドのつき合いは長い。 「刺しゅうを始めて40年以上。アトリエ修業などの経験はなく、初めは趣味として独学で技術を習得したんです。イタリアとマダガスカル、パリにアトリエがあり、ここでは主にミーティングや製作をしていますね」と、アナリザ。 二人のデザインは、数々のブランドと協働してきたアナリザの膨大なアーカイブスが着想源。分厚いブックは、クリスタルやビーズがきらめくパターンの宝庫だ。ゲラルドはこう語る。 「アナリザは、まさしくスペシャリスト。ここに来て過去の作品を見ながら『この要素を取り入れたい』『ディテールはこうしたい』と相談するんです。一緒に創作する上で大事なのは、同じカルチャーを共有していること。だからすぐ理解し合える。彼女は歳を重ねているマスターであり、ここにあるアイデアはほんの一部なんですよ」 マークしたステッチに沿って、ビジューを手作業で留めていく。型紙の下に敷かれているガーゼの裏布は、作業を終えたら1本ずつ糸状にほぐして抜いていく そんなプロセスを経て生まれたのが、トリアノン宮殿の美しい庭園や壁の模様などをモチーフにしたジオメトリックなバッグ「トリアノン」。「この宮殿を知ったきっかけは漫画『ベルサイユのばら』。マリー・アントワネットが過ごした離宮がプチ・トリアノンなんですよね」と、ユリアさん。 アナリザの「やってみますか?」の一言でレクチャーがスタート! 見えない裏側から、針を刺した同じ位置に打つのが難しい。「ちょっとずつ慣れて、うまくできるようになってきました」(ユリア) 線状のビーズやスパンコールを配し、14時間ほどかけて完成する。緻密な工程のため、3年の修業を経て、初めて針を刺せるようになる。 「石はそれぞれ形やサイズが異なります。ビーズに合わせて縫い留めるテグスの太さや強度を変えることで、壊れにくく、丈夫に。またスネークレザー素材はとても上質で繊細なので、一度穴を開けてしまうと、丸ごと使えなくなってしまう。表裏ともに完璧に同じ位置に針を刺すことも、美しい仕上がりには不可欠です」 パーツは整然とオーガナイズされ、チェストにも大量に収納されている そうアナリザが話すように、卓越したサヴォアフェールこそが、ロジェ ヴィヴィエのクチュールに欠かせない。 「9歳のとき、孤児だった私に修道女たちが刺しゅうを教えてくれた。その経験があるから、今は長男がいるマダガスカルで次世代に刺しゅうを教える学校を始めようとしています。私のような境遇の子たちにも、この技術を伝えていきたいんです」 象徴的な「ヴィヴ ショック」バッグをベースに 作業は1日5時間ほどで、撮影時も集中力が途切れない バッグ「トリアノン」のムードボード。宮殿の内観や装飾がデザインのインスピレーションに クリエーションの過程は、まさにゲラルドとの"コラボレーション"なんです Annalisa Dalla Libera エリック・チャールズ・ ドナティアンが手がける 「コリブリ」のフェザー ピンセットを用いながら、丁寧に貼りつけていくエリック。「ひとつのバッグを仕上げるのに4日ほど。けれど大事なのはかけた時間ではありません。機械ではなく、人が手を動かして作っていることが大事なのです」 デスクにはユニークで美しいフェザーが。適切な羽根を選び、バランスよく配置するのも熟練の技 次に足を運んだのは、パリ19区。“プルマルシェ”(装飾用の羽根を扱う職人)であるエリック・チャールズ・ドナティアンのもとへ。アトリエには、オブジェや衣装、マネキンや模型が所狭しと並んでいる。 1880年にパリで創業した、羽根細工のアトリエ、ルマリエにて13年にわたりクリエイティブ・ディレクターとして活躍したエリック。創業者の孫、アンドレ・ルマリエの最後の弟子でもある。ゲラルドも、その手腕を「『誰も作れない』と言われていた羽根細工のビジョンを、彼に会って実現できることを知ったんです」と称賛する。 「コリブリ」バッグ。最後の仕上げに、クリスタルがきらめくバックルを装着する 「私がキャリアを始めた30年前より、フェザーは高価なものになっています。でもそれは、鳥たちがより大事に、適切な形でケアされているから。私たちはワシントン条約に則って取引をしています。使用用途を明らかにしたうえで、許諾を取得するんです。フェザーワークには目的と意義、生き物へのリスペクトがないといけません。鶏やガチョウなど、食用の鳥から抜け落ちた羽根を調達することも。人間の髪の毛が日々抜けるように、羽根も日々生え変わりますから。決して彼らを傷つけることはありません」 弾力のある糊はツールでフェザーの根元にのせていく ロジェ ヴィヴィエの靴とカチューシャを着用したユリアさん。「日本でも数々の職人を取材してきましたが、アーティスティックな世界観を持つ方の話は、本当に面白い。美しい手仕事に感動しました」(ユリア)。インタビュー終了後は、日本ならびに着物が好きなエリックが私物を披露して、話が弾むワンシーンも 「コリブリ」のインスピレーション。ハチドリの美しいグラデーションの模様がバッグにも落とし込まれている ハチドリを意味する「コリブリ」は、1959年にムッシュ ヴィヴィエがオートクチュールのフェザー装飾の技法を初めてアクセサリーに取り入れた「ショック ヒール」の靴が由来。現代的に蘇ったデザインは、自然のままの羽根の色と、異なる濃淡で染め上げた美しいブルーをミックスしている。 「フェザーを柔らかいバッグに接着するには、糊も重要です。人の肌のように、フレッシュで弾力性があるテクスチャーですね。とても速く乾燥してしまうので、暑い夏は特に大変です!」 一枚ずつ個体差に気を配り、繊細な手つきで貼り重ねていく。その仕事をエリックはこう捉える。 「フェザーを扱うには、平面ではなくて“奥行き”を理解しなければなりません。そもそも人生だってフラットなものではないでしょう? 完璧な技術よりも、自然と関係を築くことが大切。同じものはひとつとしてない。だからこの仕事が好きなんです」 ひとつとして同じものはない羽根を通じて、自然とつながることができるんです Eric Charles Donatien ロジェ ヴィヴィエの関連記事はこちら SPUR LOVES BAGS & SHOES! 【2025年トレンド靴】華麗なハイヒール5選。サンローラン、ミュウミュウ、マノロ ブラニクetc... 昼下がりのごきげんワードローブ 防寒・可愛げ・プレシャス感、全部盛り。【ロジェ ヴィヴィエ】のイヤマフ vol.896 ファッショントピックス 【ディオール】【ミュウミュウ】【トッズ】etc... クラシックな定番ローファー&パンプス6選