今こそ、学びたい。ファッションとスポーツの関係

オリンピックを控え、パリ装飾芸術美術館ではファッションとスポーツの関係を解き明かす展示が開催中だ。そこで、今の目線から見て"かわいい"19世紀から1920年代のヴィンテージフォトをセレクト。現代のエッセンスを吹き込んでスポーツスタイルを再解釈。モードなレトロ回帰が今、始まる!

テニス

ステラ マッカートニー オールインワン
オールインワン¥261,800/ステラ マッカートニー カスタマーサービス(ステラ マッカートニー) 中に着たジャケット¥19,800/オルゴー 帽子¥28,600/スグリ つけ襟(上から)¥4,200・¥4,830/ブティック ジャンヌ バレ 靴¥13,970/BRACKETS 帽子につけたレース・腰に巻いたレース/スタイリスト私物

もともとは裕福な貴族たちのたしなみとして愛されたテニス。1900年代初頭は、ドレスでのプレーがスタンダードだった。

かつてのロングドレスを現代的に解釈するなら、快適なリネン素材のオールインワンを選びたい。トップ部分は体にフィットする、コルセットのような設計。高い襟やつばの広い帽子など、当時らしいエレガントな意匠から引用しつつ、大胆なレース使いで味つけを。

19世紀半ば テニスをする婦人
Photograph by Jacques Henri Lartigue © Ministère de la Culture (France), MPP-AAJHL

テニスが始まったのは、19世紀半ば。当時は上流階級の"遊戯"として、ご婦人たちはレースをあしらったくるぶしまでのコットンのデイドレスにつば広の帽子、という装飾的ないでたちでラケットを握っていた。それは動きを捉えるのを得意としたジャック=アンリ・ラルティーグの写真でも顕著だ。1921年には、女子世界チャンピオンのスザンヌ・ランランが、ジャン・パトゥがデザインしたプリーツの膝丈スカートと袖なしカーディガンでコートに立ってテニス界に革命を起こした。また1933年にルネ・ラコステが自身のために作ったポロシャツは、今ではすっかりなじみのある日常着に。

フットボール

ロエベのセーター
セーター¥122,100・タンクトップ¥55,000・ショーツ¥327,800/ロエベ ジャパン クライアントサービス(ロエベ) ネクタイ¥3,300/ジャンティーク ソックス¥3,680/オルゴー 靴¥9,900/BRACKETS

イギリスから発展したサッカー。チームごとのユニフォームの概念は、この競技が広がる過程で生まれた。

主役は、ロエベのウール素材のポロセーター。ユニフォームライクなストライプと、クロップド丈で都会的なムードに。ショーツがただカジュアルに転ばないのは、しっとりと上質なスエードの素材感ゆえ。仕上げにネクタイをスカーフのようにキュッと結んで。

ボッテガ・ヴェネタのシャツ
シャツ¥844,800/ボッテガ・ヴェネタ ジャパン(ボッテガ・ヴェネタ) 肩にかけたセーター¥24,800/オルゴー ショーツ¥6,600/ジャンティーク

一見ネルシャツのようでありながら、レザーで仕立てたボッテガ・ヴェネタのシャツ。鮮やかなブルーのセーターを羽織り、勝利の一瞬に華やかさを添えて。

19世紀 サッカー
photo: © Bibliothèque nationale de France

サッカーの起源も、19世紀。ボーディングスクールの歴史を持つイギリスにて、チームワークの精神を養うために発展した。当初チーム間の共通アイテムは、ハンチングとスカーフのみ。だがサッカーが広まると、観客からチームのメンバーをひと目で見分けたい、との声が高まった。そこで保温性も通気性も高いウールのニットジャージ素材を用い、鮮やかな色で目立つロゴを添えた長袖Tシャツにソックス、そしてフランネルのクロップドパンツが、ユニフォームの原型に。20世紀初頭にはコットンジャージの長袖Tシャツとショーツに移行。化学繊維が取り入れられたのは、1960年代以降だ。

フェンシング

フェラガモ ジャケット
ジャケット¥396,000・パンツ¥275,000/フェラガモ・ジャパン(フェラガモ) セーター¥18,700/HOOKED キャップ¥25,300・ネットカチューシャ¥13,200/スグリ グローブ¥2,310/ブティック ジャンヌ バレ

美しい剣技には、モードな装備で臨みたい。しなやかな体を守る胴着やグローブにインスピレーションを探して。

スポーティなボンバージャケットは、フェラガモの新作アイテム。キルティング加工されたテクニカル素材が立体的な質感を生み出す。腰まわりをシェイプしたシルエットとボリュームが、胴着のムードとリンクする。仕上げにグローブも忘れずに。

フェンシングをする女性
photo: Alamy/アフロ

戦士たちの一騎打ち="剣技"にさまざまなルールがもたらされてフェンシングとなったのは、19世紀末。そのユニフォームはマスクと手袋に加え、ニッカーズとジャケット、そして胴着。いずれも白が定番なのは、かつては剣先にインクが塗られていて、リードを取った側が相手方の胴着に剣で触れると染みがついて勝ち負けがひと目でわかるから。胴着の心臓位置にある赤いハートマークは、敵方に示す標的として。この一式は肖像画のモデルの衣装に使われることもあった。その優雅さに魅了されたマリア・グラツィア・キウリは、2017年にディオールでのプレタポルテの初のショーで、フェンシングにインスパイアされたコレクションを発表。

グッチのスパンコールトップス
トップス¥544,500・グローブ¥299,200・ブーツ(参考色)¥302,500/グッチ クライアントサービス(グッチ) フリンジスカート¥48,400/HOOKED 中にはいたパンツ¥18,700/ジャンティーク

シルバーのスパンコールを全面にちりばめたグッチのトップスとグローブ。袖や指先の黒いトリミングが、着こなしをモダンに引き締める。ボトムスにはレザーのフリンジスカートを選び、ニュートラルカラーで揃えた。まばゆいきらめきを放ちながら、試合の準備は万端。

ミュウミュウのトップス
トップス¥203,500(予定価格)/ミュウミュウ クライアントサービス(ミュウミュウ) ショーツ¥4,950/ジャンティーク チュールフード¥13,200/スグリ

コットンドレスからワンピース、ビキニへ。女性の活躍とも密接な、水着の歴史をさかのぼる。

かつてはコットンやウールなど、日常着だったスイムウェアにヒントを得て。軽やかなボーダーのポロシャツはミュウミュウのリゾートから。オレンジのショーツは色調をリンクさせた。チュールフードを水泳帽のように装ったら、温故知新なスタイルが完成。

エルザ・スキャパレリ
Bettina Jones, Beachwear by Schiaparelli © George Hoyningen-Huene Estate Archives

水着の前身は"水浴びの衣装"と呼ばれた19世紀末のパンツつきコットンドレス。当時はまだ、女性たちは服を着て海水浴をしていたのだ。ほどなく水泳はスポーツとして認められ、そのコスチュームはニットを素材に、よりボディフィットなシルエットになり、肌の露出も多くなってワンピースが定着。1926年にアメリカの水泳選手、ガートルード・イーダリーが女性で初めてドーバー海峡を泳いで横断すると、彼女が着ていたビキニが市民権を得るようになった。ただし、脚はまだ大腿部まで覆われていた。この頃いち早く水着をモードのアイテムとして提案したのが、ジャン・パトゥやエルザ・スキャパレリだ。

知らなかった! モードとスポーツ

今夏のオリンピックを前に、服と運動の関わりを改めて学びたい。本テーマのインスピレーションとなったパリ装飾芸術美術館の展覧会を訪ねた

 『ファッションとスポーツ』展 展示会場の入り口
展示会場の入り口。天井には五輪を思わせるサークル、正面には裸体のアスリートの彫刻が

ブルジョアの余暇の服から、スポーツウェアの概念へ

パリ五輪を前にスポーツへの関心が高まる今。時期を合わせて開催されているのが、『ファッションとスポーツ』展だ。ここでは社会学的な観点も含め、スポーツにおいて服がどんな意味を持つか、モードがどのようにスポーツから影響を受けてきたか、またその関係が時代を経てどう発展したのかを探っている。服、小物、写真、スケッチ、絵画、ビデオなど展示品はなんと計450点。入り口でビジターを迎えるのは、肉体美を顕わにしつつ円盤投げの準備態勢のポーズを取った、古代ギリシャの男性裸体像だ。奥のウィンドウには、同時代の、裸で走る人々を描いた壺が。

「古代ギリシャでは陸上競技がすでに盛んで、全裸で行われていました。本展では裸で競技する最大限の動きやすさ、心地よさから、スポーツに関連する快適なモードへの発展を語っています」

こう説明してくれたのは、本展のキュレーター、ソフィー・ルマユー。彼女の案内で展示室に歩みを進めると、時代は一気に19世紀へ。まだスポーツと社交的レジャーとの境界線が混沌としていた時代だ。狩猟の核である乗馬が単独のスポーツになり、女性用キュロットも考案された。またがずに横向きに馬に座る〝アマゾン〟の姿勢では、アシンメトリーな脚のポジションに合わせてオーダーメイドを必要としたから、当然裕福な女性に限られたコスチュームだ。とはいえ、これは女性の解放の序章でもあった。

『ファッションとスポーツ』展 "水浴びの衣装"のウィンドウ
 "水浴びの衣装"のウィンドウ。中央の黄色の一体は、世界初のビキニ(1930年)。左手前はエルメスのスカートが取りはずせるドレス(1935年)

「19世紀末〜20世紀には医者たちがこぞって体を動かすことを奨励したので、スポーツはますます盛んになったんですよ」。こう言いながらソフィーが見せてくれたのは、コーチの指導でジムナスティックを試す女性たちを捉えた、ジャック=アンリ・ラルティーグによる写真。

「一方ゴルフやテニスは、ブルジョアのスポーツとして確立しつつありました。勝つことよりもマナーや装いが重視されていたんです。テニスではボールを入れるエプロンも人気でした」

『ファッションとスポーツ』展 テニスウェアの展示
テニスウェアの展示。左手前はジャン・パトゥによるアンサンブル(1930年)。その右は、元祖ラコステのポロシャツ(1933年)

ラルティーグは動きのある瞬間を好み、運動のシーンをいきいきと撮影。アカデミックで裕福な家庭に生まれた彼は上流階級の女性たちに囲まれていた。だからこそ、スポーツに興じる時間と経済的余裕に恵まれたモデルには事欠かなかったのだ。

「1920〜30年代にはスポーツがモードに及ぼす影響が明確になり、素材やデザインのうえで〝スポーツウェア〟の概念ができました。そこでは快適さに加え、エレガンスが必要不可欠だったのです」

この流れに先んじて、ガブリエル・シャネルは伸縮性のあるジャージ素材で仕立てたジャケットやスカートを提案。スポーツウェアの父といわれるジャン・パトゥが女子テニスチャンピオンのために衣装をデザインしたのは、1921年だ。エルザ・スキャパレリやジャンヌ・ランバンも〝スポーツウェア合戦〟に参加。

『ファッションとスポーツ』展 現代のスポーツウェアのインスタレーション
競技トラックにて展開されているのは、現代のスポーツウェアのインスタレーション

「これが1920年、最初のフランス版『VOGUE』の表紙です」と彼女が指差すほうを見ると、ラケットを持ち、テニスコートに立つふたりの女性が描かれている。これ以降、展示はテクニカル素材で発展したスキーやスケートのウェア、ダンスやスケートボードのブームとともに発展したストリートウェア、過去数十年のオリンピックのユニフォーム、そして現代のデザイナーの作品やアスリートが着た衣装など、目にしたことがあるルックへとつながる。

 「スポーツウェアの素材がオートクチュールをインスパイアした例もあります。1966年にピエール・カルダンが発表した、蛍光色のドレスは革新的でした」。今後も、スポーツとモードはますます影響し合うだろう。かつて、ルネ・ラコステは言った。「プレーをして勝つだけでは十分でない、スタイルがものを言う」

information

 『Fashion and Sports: From one Podium to Another』展は4月7日まで開催中。

Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli 75001 Paris
電話番号:01-44-55-57-50
メトロ:Palais Royal
開館:11時〜18時・木曜〜20時(時間は変更の可能性あり・サイトにて要確認)
休館:月曜

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