椎名直子と佐藤栞里「これからのモード」を考える。好きな服でなりたい私になるために

SPURフレンドとして連載中の佐藤栞里さん。10代からモデルのキャリアを積み重ね、幅広いファッションのテイストに向き合ってきた。そんな佐藤さんがかねてより憧れていたのが、椎名直子さんのスタイリング。ふたりは対話を通して、自身のスタイルやありのままの個性を問い直す。"何を選び、どう着るか"、自分らしく装うための哲学を学びたい。

佐藤栞里プロフィール画像
佐藤栞里

2001年にモデルデビュー。『MORE』や『LEE』など数多くの女性誌を経て、現在は『SPUR』フレンド、『BAILA』レギュラーモデルとしても活躍。真摯な人柄も多くの人に愛される。

椎名直子プロフィール画像
椎名直子

スタイリスト。モード誌や広告をはじめ、アーティストのスタイリングなど幅広いフィールドで活躍。着る人のパーソナリティを活かしながら内なる魅力を引き出す手腕にも定評がある。

「個性」を着る

佐藤栞里
ポロシャツ¥140,800・デニム¥308,000・ベルト¥84,700(すべて予定価格)/ミュウミュウ クライアントサービス(ミュウミュウ) ネックレス¥5,346,000/チェリッシュ インク(ソフィ ビル ブラーエ) メガネ¥25,630/ルックスオティカジャパン カスタマーサービス(レイバン)

ボタンを開け、襟を立てたポロシャツはアクセサリーが要に。「アイウェアは選び方次第で今のムード、そして"個性"をつくれるアイテム。すらりと首が長い栞里さんのチャームポイントに光を当てて、スポーティなポロシャツにあえてミスマッチなダイヤモンドを合わせたのもポイントです」(椎名さん)

「これまでメガネはアイメイクアップの延長のようにシンプルなものを選んでいましたが、こちらは逆に"印象づける"メガネ。存在感のある小物使いに負けないよう自分の個性も磨きたくなりました。ハイジュエリーをファッションの一部としてラフに纏うのも素敵です」(佐藤さん)

等身大な装いは、ひとさじの工夫でぐっと新鮮に。

「スーパーポジティブ」に着る

佐藤栞里
ポロセーター¥117,700・デニム¥137,500・リング¥402,600・靴¥234,300/ロエベ ジャパン クライアントサービス(ロエベ)

これまでタイトなデザインを積極的に選ぶ機会が少なかった佐藤さん。椎名さんが持ち前のスタイルのよさを活かしたい、とあえて選んだのはボディフィットなロエベのルックだ。

「ビューティシルエットな服は多くありますが、SPURならちょっと誇張するくらいが面白い。モデルとして多様な服を着こなす栞里さんだからこそ、モードのフィールドで提案できるものを選びました。"スーパーボディポジティブ"がテーマです」(椎名さん)

大胆なハイウエストのデニムは、実は中にコルセットが仕込まれている。「プロポーションが印象的だと褒めていただいた上でこのルックを着て、とても新鮮でした。こういうものを選んでもいいんだな、という気持ちで新しい自分を発見したようです」(佐藤さん)

「私らしさ」を着る

佐藤栞里
佐藤栞里
Tシャツ¥97,900・デニム¥174,900・靴¥284,900/ザ・ロウ・ジャパン(ザ・ロウ) ブレスレット¥153,900・リング¥89,610(ともに参考価格)/エドストローム オフィス(シャルロット シェネ)

「栞里さんのワードローブに欠かせないと聞いた白Tシャツで提案しました。ザ・ロウのTシャツは毎シーズン仕様がアップデートされていて、今季は肌なじみのいいエクリュカラー。カッティングは腕のラインをきれいに見せてくれますし、襟もとのゆったりした設計は着たときに心地よくいられる。やわらかな栞里さんらしさがありながら、洗練されている一着です」(椎名さん)

「これまではシーズンや年ごとに買い替える、洗濯して形が崩れてもそれが味、という向き合い方でした。でもこんなにも袖を通した瞬間に気持ちがリセットされて、癒やされるTシャツは初めて。大事に育てて、おばあちゃんになるまで愛用したいですね」(佐藤さん)

デニムとさらりと着こなしたら、弾けるような自然体の笑顔がよく似合う。

「遊び心」を着る

佐藤栞里
オーバーオール¥55,000・ベスト¥37, 180・靴¥80,300/CINCH(オブラダ) ソックス¥46,200(参考価格)/ジルサンダージャパン(ジル サンダー バイ ルーシー アンド ルーク・メイヤー) ネックレス(リボン)¥1,100,000・(パール大)¥792,000・(パール小)¥533,500・イヤリング(両耳セット)¥258,500/チェリッシュ インク(ソフィ ビル ブラーエ) リング/本人私物

「サロペットやオールインワンもずっと大好きなアイテム。ただ年を重ねて大人らしく着るバランスを模索していました。今回、ベストの上にオーバーオールという斬新な組み合わせにびっくり。ただ、カメラの前に立つとそれがすっかりなじんでいました。魔法みたいです」(佐藤さん)

「最後まで悩んだのがこのスタイリングです。Tシャツでも、タンクトップやベアトップでもなく。あえてスーチングのメンズライクなベストを選びつつ、Vラインからの肌の見せ方で少しセンシュアルさも引き出して。さらにソックスとゴールドの靴、ジュエリーの重ねづけで楽しく振りました。本来は上に重ねて着るベストを中に仕込むという、ちぐはぐな遊び心も持っていたい」(椎名さん)

「何げなく」を着る

佐藤栞里
ジャケット¥602,800・デニム¥181,500・(中指)シルバーリング¥53,900・ゴールドリング¥53,900・イヤリング(両耳セット)¥107,800/ジルサンダージャパン(ジル サンダー バイ ルーシー アンド ルーク・メイヤー) タンクトップ¥34,100/ステラ マッカートニー カスタマーサービス(ステラ マッカートニー) リング(人さし指)/本人私物

「栞里さんとお会いしたときに、体のラインもとても美しいなと思いました。タンクトップにオーバーサイズのブレザージャケットのスタイルは、さらりと羽織るくらいのバランスで。メンズライクなテイストにセンシュアルなムードを忍ばせました」(椎名さん)

ほどよく素肌を見せて、解放的なムードもプラスする。

「今回の特集で一番お気に入りのスタイリングです。ありのままの自分らしさがありながら、カメラの前に立ったときに自信も湧く。水泳経験があるので肩のラインは自信があるパーツではなかったのですが、椎名さんが新たなチャームポイントとして見出してくれて。個々のアイテムは日常的に好きなものばかりなのに、フォルムや見せ方でモダンに導くことができることを学びました」(佐藤さん)

「憧れ」を着る

佐藤栞里
シャツ¥187,000・パンツ¥194,700・ブーツ¥223,300/マルジェラ ジャパン クライアントサービス(メゾン マルジェラ)

日常とは一線を画した存在感が際立つ。シャツはランダムに生地を折り畳み、ステッチで留めてユニークなフォルムを形成。

「クチュールピースのようなシャツは、丹念な仕事が光る構築的な一着。個性をもって着こなしながら、育てていく服です。これから先の栞里さんの未来も、きっと自分自身をつくり上げ積み重ねていく、長い旅。時間をかけて着たいものに自分を合わせていくように、ファッションを思い切り楽しんでほしいというメッセージを込めて」(椎名さん)

「モードなアイテムを纏うと人格や言葉遣い、所作のひとつまで変化するし、背筋がすっと伸びます。SPURでの連載もそうだったのですが、この服も新しい場所に飛び込む"挑戦"を後押ししてくれる一着でした」(佐藤さん)

「自由」を着る

佐藤栞里
トップス¥139,700・デニム¥156,200/ステラマッカートニー カスタマーサービス(ステラ マッカートニー) リング/本人私物

「テーマはボーダーレス。素肌が引き立つエレガントなトップス。そこに、メンズライクなムードの日常的なデニムで裏切りを加えました。さらにウエストには正装を象徴するカマーバンド。男性・女性というイメージ、カジュアルとドレスアップ。さまざまなボーダーを横断して、固定観念を軽やかに超えていけたら素敵ですよね」(椎名さん)。首もとからタイが揺れるトップスは、背面にV字のカッティングが施され、バックスタイルを美しく演出する。「私ならドレッシーなデザインはさらっと一枚で着て、足もとをカジュアルにはずすくらい。カマーバンドやデニムの合わせは自分の引き出しにはなくて、発見でした! "これは足し算するべきではないのでは?"などルールに縛られなくていいんだと教えてもらいました」(栞里さん)

「これからのモード」ってなんだろう?

今回、事前ミーティングから撮影当日まで対話を重ねたふたり。着る人の本質的な魅力を大事にする椎名さんと、モードとの向き合い方を改めて考える。

自分らしいと思える ファッションを探して

佐藤栞里
写真やカメラにも精通する椎名さん。撮影終了後に、佐藤さんの背後からパシャリ!

——今回の特集は、佐藤栞里さんがかねてより椎名直子さんのつくるスタイルが好きだった、という話から実現しました。

佐藤栞里(以下S) 女性像を想像してカメラの前に立つモデルとしてだけでなく、〝佐藤栞里〟としてメディアに出ていく機会が増えて。そのときに椎名さんが手がけたスタイルを参考にさせてもらっていました。個性を活かしながらも品があって、憧れです。

椎名直子(以下N) 究極は、いつも着る人が心地よくいられるかどうかが大事だと思っているんです。今回は、モデルとしてさまざまな服を着こなしてきた栞里さんに提案できるものはなんだろうと。お会いしたときに、身長や手足の長さなど、持ち前のスタイルのよさがとても印象的でした。バランスや素肌を活かした“解放感”を思い描きました。

 椎名さんが私のために考えてくださるだけでも幸せなのに、今回は事前の打ち合わせで、年齢を重ねて変わる服との向き合い方や、私の好きなものを話す機会があって。旅先でいつもより細いストラップのキャミソールを着たらとても解放的な気持ちになった、というお話からタンクトップの装いをつくられたと知り、うれしかったです。

 会話からたくさんヒントをもらいました。実は栞里さんが普段からはき慣れている「デニム」も、軸となる裏テーマなんです。スタイルがあるからこそ、ベーシックなアイテムが輝きますよね。

 デニム、どれも本当に素敵でした! もともと雑誌『PINKY』でモデルを務めていたとき、私は“スウィート派”担当だったんです。でもその後、髪をバッサリ切ったことをきっかけに、テイストが変わりました。変遷があって、自分もいまのボーイッシュ・カジュアルなスタイルがしっくりきます。

 栞里さんの伸びやかさを何かで固めることがないように意識していました。身に纏うものだから、最終的にはその人がリラックスできて快適で、楽しいことが大事です。

 モードは遠いものだと感じていたけれど、すべてが日常で着たい、欲しいという気持ちになったことも新鮮でした。

 「これからの服」というキーワードと、心地よさ、それをモードでどう表現するかを突き詰めましたね。あと、打ち合わせのときにとても印象的だったのが「落ち込むことがあっても、なりたい自分を想像したらすぐに乗り越えられる」という栞里さんの言葉。

 わあ、ありがとうございます!

 なりたい自分を考えたら進める、ってとても素敵ですよね。若いときってそうだったなと。理想とする夢があって、そこにたどり着くために頑張っていました。ファッションにもそんな力があると思うんです。

 まさに、モードを纏う機会をつくっていただいて「私でも、ちょっと触れてもいいのかな?」と欲が出てきたんです。

 たとえばエルメスのコートは無理だなあ、と感じる20歳がいても、思い描く姿があれば少しずつ近づいていくものなのだと。栞里さんは本当に謙虚だけど輝いていて、もっと貪欲な姿も見てみたい、と思ってしまいました。

 うれしいです。遠く感じるコレクションやパリに行く、ということも心のどこかで願ってみてもいいのかも……。お客さんとしてショーを見るだけではない関わり方の模索にも興味が出てきました。

 ぜひ、ハングリー精神を世界に向けてほしいです。ファッションは「You can wear anything you like」! 突き放しているわけではなく、自分の個性ととことん向き合いながら、「好き」という気持ちを何より大事に。それを抜きにしては成り立ちませんから。

 今回、知らなかった自分の魅力や、新たな道筋を示していただいた感じがします!

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