可愛い上に、サステイナブル! 【受注生産】4ブランドに密着

近年、受注生産で小規模な服作りを行うインディペンデントブランドの存在感が増している。在庫を持たず、注文を受けてから裁断に取りかかり、生産分は売り切って余剰を出さない。そんな環境にも人にもやさしい服作りを行う各国のデザイナーに密着した

近年、受注生産で小規模な服作りを行うインディペンデントブランドの存在感が増している。在庫を持たず、注文を受けてから裁断に取りかかり、生産分は売り切って余剰を出さない。そんな環境にも人にもやさしい服作りを行う各国のデザイナーに密着した

Maison Cléo(メゾン クレオ) / フランス

Marie Dewet(マリー・ドゥエ)プロフィール画像
Marie Dewet(マリー・ドゥエ)

ファッション業界でPRやコミュニケーションに従事。古着販売サイトVestiaire CollectiveでVIP部門の責任者を務め、2017年、リールで縫製師の母ナタリーと「メゾン クレオ」を設立。

家族、地域と作るフレンチロリータ服

Maison Cléo(メゾン クレオ) フランス

1 最新コレクションをまとったデザイナーのマリー。アトリエの壁に立て掛けられているのは、ニットの柄や編み地の試作、それからパターンメイキング用紙、反物など

過剰生産、大量廃棄に反旗を翻すハンドメイド

「購入する人のサイズや寸法がわからないのに、事前に大量の商品を作るのはナンセンス。在庫を持たず、オーダーメイドでのみ服を仕立てて販売することは私にとって至極当然のことです。母、祖母、曾祖母もそうやって注文を受けながら製作するアトリエで働いてきました。環境問題を考えてということもあるけれど、何より昔から、歴史があるものや丁寧に作られたものに惹かれるんです」

自らをエコロジストだというマリー・ドゥエは、10年前にパリのデザインスタジオでインターンシップに参加した際に見た光景に、愕然とした。
「服の裁断や縫製は機械が行い、アトリエは窓のない地下室。買いたいと思える服もありませんでした」

そこで自ら生地を購入し、プロの裁縫師である母に仕立ててもらうことに。手作りの服を着てインスタグラムに投稿するとたちまち話題になり、このブランドを立ち上げるに至ったのだ。 初めはシルクのタンクトップのみ販売し、徐々にドレス、シャツと展開していった。有名ブロガーのレアンドラ・メディーンに紹介され、セレブリティのエミリー・ラタコウスキーが着用。インスタグラムのフォロワーは爆発的に増え、売り上げも伸びていった。

「ブランド名に〝メゾン〟をつけたのは、『メゾン クレオ』が家族の物語だから。親族の女性はみんな、裁縫師かレース産業で働いています。 私はデザイナーとして、生地や付属品を探し、図面を引く。裁縫師と編み手は、オーダーが入ったサイズのパターンで商品作りを行います。デザインのヒントは、祖母のワードローブから。主にパフスリーブや花柄、’70 年代の要素で構成されています。ほかにも、毎日街中で見かける女の子たちや、古い映画、自然の中に身を置く時間も服作りのインスピレーション源です」

生地は、クチュールハウスや生産量が多すぎて過剰発注した若手デザイナーブランドのデッドストックを使用。
「この世界には手つかずの生地が多数存在し、使われるのを待ちながら保管されています。『メゾン クレオ』はこのような生地の、量に限りのある点を逆手に取って、限定コレクションという付加価値をつけて販売しています」

服を生産する上で、新しく作るものは三つだけ。自社工場の近辺で作られているゴム糸、同じくフランス北部で生産されているレースや刺しゅう入りのバンド、家族経営の会社でオーダーメイドで作られているボタンだ。
「創業以来、パフスリーブのブラウス(8)は、毎月ベストセラーとなっているヒットアイテム。このフロントのリボンとオーバーサイズのコットンホワイトブラウスで、ブランドは有名になりました。何種類ものパターンと生地で展開しています」

フランスでは現在、マリーのように昔ながらのスタイルで服作りを行う家族経営のアトリエは珍しい。多くの量を生産することは今後も考えず、裁断からパターン・メイキング、組み立て、仕上げまで、裁縫師と編み手が一枚一枚作る。 目標は「美しいものを美しい場所で、美しい人々のために作ること」。2022年から「メゾン クレオ」はパリでランウェイショーを開催。マリーの快進撃は続く。

Maison Cléo(メゾン クレオ) フランス

2 縫製工場の番人、黒猫の姿も
3 リールの田舎町にあるアトリエ。エントランスには、3月に参加したパリ・ファッションウィーク用のポスターが貼られている
4 ブランドを象徴するのは、無地やチェック柄のコットンにフリルやレースをあしらったブラウスやワンピース

Maison Cléo(メゾン クレオ) フランス

5 オーダーを受け付けるのは週に一度だけで、SNSやオンラインで告知したデザインのアイテムが公式ウェブサイトより購入可。パーツのカスタマイズが相談できるアイテムもあり、約2週間後には完成品が注文者に届く
6 曾祖父の代から家族で受け継いできた縫製工場内。織み機でニットを制作中のスタッフ
7 地球環境に配慮して、洋服につける留め具もデッドストックを活用。できるだけ新品を生産しないことがモットーだ

Maison Cléo(メゾン クレオ) フランス

8 ブランドのヒットに貢献したコケティッシュなパフスリーブのブラウス€230
9 フリルブラウスを作成中。メイド・イン・フランスを掲げ、すべてのアイテムが手作り。自社工場以外にも、国内の工場や職人とのコラボレーションを大切にしている

Maison Cléo(メゾン クレオ) フランス

縫製工場のスタッフは13名。会社の透明性を重視し、各アイテムに、材料費、人件費、税金、送料、マージンを表示

Maison Cléo(メゾン クレオ) フランス

LOOKBOOK:
(左)ベビードールドレス€265
(右)パフスリーブのオーバーサイズブラウス€185、イギリス風の刺しゅうをあしらったミッドレングススカート€190

UNTITLED CO.(アンタイトルド コー) / インド

Shenali・Rinzing(シェナリ&リンジン)プロフィール画像
Shenali・Rinzing(シェナリ&リンジン)

シェナリはインド国立デザイン研究所でテキスタイルデザインを学び、セント・マーチンズへ。2020年にリンジンとブランドをスタート。リンジンはインド国立ファッション技術研究所卒業後、パターン作成と繊維の加工に従事。

刺しゅうや染めの伝統を新しい表現方法で

UNTITLED CO.(アンタイトルド コー)  インド

1 インドの産業都市、ノイダ。天然繊維を手織りでカディという布地に仕上げたり、織機でオリジナルの生地を生み出すことも

工芸品への理解と持続可能性がファッションを豊かに

幼い頃からアートやテキスタイルに魅了されていたシェナリと、レタリングやスケッチに興味があったリンジンのデザイナーデュオが手がける「アンタイトルド コー」。意味は「無題」だ。これには、自分たちのデザインに対する考えは常に進化し、名もない未完の芸術作品のように成長の余地があること、さらにはブランド自体が思考のプロセスを育む場でありたいという願いが込められている。

展開するアイテムは、肌ざわりのいいコットンをピンクやグリーン、イエローに染めたドレスやブラウスなど。こまやかな刺しゅうを施した透け感のあるカットソーやロングドレスも人気だ。インドの強い日光にさらされたようなアーシーな色みや柄と、モダンかつフェミニンなデザインが掛け合わさり、比類ないスタイルを生み出している。

「ブランドの特長は、インドの伝統的な技術や生地の加工などを改めて解釈して、デザインに落とし込むことです。その根底には、ファッションで、歴史ある工芸や技術を称賛したいという思いがあるんです。シンプルな素材をベースに刺しゅうしてから、さまざまな染色技術やウォッシュ加工を施し、ユニークなテクスチャーを生み出しています。ほかにも、服に視覚的なレイヤーをもたらすパネル染色や、洋服を縫い上げてから染めるガーメント・ダイも天然染色で行なっています。シーズンを問わないアイテムの提案を続けてきたことも、私たちのユニークな点。季節の変わり目にセールを開催する必要もありません。それに、過去のアーカイブスからデザインを選んで注文することもできるんですよ。タイムレスであることも重視しています」とシェナリ。

オーダーが入ると職人が作業に取り掛かり、3〜5週間後を目安に、特別な一着が縫い上がる。購入者は辛抱強く待つ必要があるが、それも醍醐味。
「自分のためだけに作られたというスペシャルな体験をきっかけに、スローな購入が世の中に広まり、地球環境に配慮した消費行動が根づいていったらうれしい。良識的なライフスタイルが主流になれば、世の中の消費速度を落とすことができるはず。不必要な生産や廃棄も減ります。それから、私たちは労働搾取の根絶に全力で取り組んでいます。そのために、インドのすべての労働法を遵守し、労働環境に配慮しています。ファッションに関わる人々、みんなが持続可能なビジネスモデルに移行していくことを願っています」

UNTITLED CO.(アンタイトルド コー)  インド

2 自社工場にて、少数精鋭で勤務するパタンナー

3 インドの職人によるクロシェ編みのアイテムも展開
4 デザインのインスピレーション源は常にテキスタイルから。コットン、リネン、シルクなど、シンプルな天然繊維を採用
5 エンブロイダリーを全面に施したアイテムも多数。生地の加工と刺しゅうは、他社が真似できない独自の技術を持っている

UNTITLED CO.(アンタイトルド コー)  インド

デザインが好きで、ブランドを始めたシェナリ(右)とリンジン(左)。問題解決の手段としてファッションの力を信じている

UNTITLED CO.(アンタイトルド コー)  インド

LOOKBOOK:
オーバーサイズのリネンシャツRs. 28,000、手刺しゅうがされたショーツRs. 18,000

Cawley Studio(コーリースタジオ) / イギリス

Hannah Cawley(ハナ・コーリー)プロフィール画像
Hannah Cawley(ハナ・コーリー)

キングストン大学卒業。イギリスのブランドYMCに勤務し、ブランドの運営のノウハウを学ぶ。2017年に「コーリースタジオ」をスタート。ウェアのほか、ホームライン、ブライダルも。

英国クラシックを気軽にロマンティックに

Cawley Studio(コーリースタジオ) イギリス

1 山積みになったファブリックと愛用している工業用ミシン

アシスタントから転身して自分のブランドをスタート

光沢を放つデュピオニシルクに、手縫いのスモッキングやラッフルをぜいたくに施したドレスで知られる「コーリースタジオ」。デザイナーのハナ・コーリーは「デザイン用の資料として〝歴史的な衣服〟は欠かせません。毎晩、オンラインでヴィンテージ品を検索することが日課なんです」と語る。

ロマンティックなヴィンテージウェアから着想を得つつ、ボーイッシュなツイストをきかせて、現代の日常に溶け込む、時代性を問わない服へと昇華する。根底にあるのは、持続可能で実用的な服作りへの思い。そんな彼女が、受注生産という生産形態を選んだのは、現実的な理由から。

「自己資金のみで運営しているため、ブランド設立から4年間、ビジネスを維持し成長させるためにフルタイムの仕事をしていました。衣料品を作って在庫を保管する余裕もなければ、商品を確実に売り切るだけのベースとなる顧客もいなかったので、オーダーメイドという形態は理にかなっていました。注文に応じて物を作ることや、新たなアイデアに対する顧客の反応を確認できるので、とても素晴らしいシステムだと思っています。現在は、受注生産のほか、一部ホールセールで商品の開発を行い、販売しています」

原動力となっているのは、英国の製造業を存続させ、高いクオリティを誇る職人技に敬意を表したいという思い。
「イギリス国内で製造を行うことは、ブランドの重要な核。スタジオでは主にデザインとパターンの製作を行い、生産はロンドンにある二つの工場で行なっています。手作業で生地の裁断を行い、一つひとつ縫い上げています」

素材のよさと丁寧な生産プロセスが、購入者が一着をより長く大切に愛用する理由になるとハナは信じている。
 「服作りの出発点は、生地選びです。生地見本からカラーパレットを作り、前シーズンを応用してデザインのアイデアがまとまったら、パタンナーと協力してトワル地に展開します。その後、自社工場でサンプルを作成、それを撮影して、公式HPに掲載してオーダーを受け付けています。5〜7週間後には工場で完成し、購入した方の元へと届くのです」

ブライダルのオーダーメイドやオリジナルの陶器、オブジェも人気。今後のブランドの展開が楽しみだ。

Cawley Studio(コーリースタジオ) イギリス

2 ロンドンにあるアーティスト向けのシェアアトリエ「コックピートアーツ」に拠点を構えて活動中。大きな窓から自然光がたっぷり入る、アットホームな雰囲気だ
3 クラシックなアイテムに、パッチワークや布組、トリミングなど、遊び心のあるファブリック使いのディテールを加えるのが得意
4 今年の秋冬シーズンに向けた、ムートンコートやバッグなどのサンプルが

Cawley Studio(コーリースタジオ) イギリス

5 アクセサリー製作の必需品。留め具や丸カン、ペンチ、ピンセットなどのツール
6 コレクションの要であるパターンカッターも自社チームの一員
7 コレクションを展開する上で欠かせないムードボード。フェミニンで繊細なヴィンテージウェアの写真に、メンズウェアや子ども服、アンダーウェア、パジャマなども混ざっているのが「コーリースタジオ」らしい

Cawley Studio(コーリースタジオ) イギリス

LOOKBOOK:
(右)ウールのカーディガン£375(参考価格)、ドライオイルスキンのコート£540(参考価格)
(左)シルクのラッフルドレス£750

Sophia Khaled(ソフィア カーレド) / デンマーク

designer:Sophia Khaled(ソフィア・カーレド) Katrine Nørskau(カトリーヌ・ノールスカウ)プロフィール画像
designer:Sophia Khaled(ソフィア・カーレド) Katrine Nørskau(カトリーヌ・ノールスカウ)

ソフィアは、デンマーク王立アカデミーで建築とデザインを学ぶ。コロナ禍のロックダウン中に編み物に可能性を感じ、自らの名前を冠したブランドをスタート。カトリーヌは、デザインをともにする右腕。

ニットで紡ぐ甘美でダークなおとぎ話

Sophia Khaled(ソフィア カーレド) / デンマーク

ソフィア(左)とカトリーヌ(右)。引っ越したてのスタジオの壁は、DIYでピンクと紫にペイント。クリエイティビティが発揮できる夢の城がかなったばかりだ 

正しいと思う方法で作るマイノリティのための服

風変わりなニットブランドとしてファッションフリークたちの間でじわじわと話題になっている「ソフィア カーレド」。ロックダウン中に編んだ、キャンディカラーのニットベストをインスタグラムに投稿すると、世界中から反響があり脚光を浴びた。すべてオーダーメイドの生産形態や、自ら定めたガイドラインに沿って取り組むサステイナビリティへのストイックな姿勢が、デンマークのみならず西欧でも共感を呼び、カルト的な愛好家を獲得している。モデル、水原希子がファンを公言して以来、アジアでも人気。

デザイナーのソフィア・カーレドはブランドのコンセプトについて、「古い工芸品の手法を用いて、頭の中にあるイメージや物語を世間に伝えたい。素材やプロセス、モチーフにおいて、二面性を意識するようにしています。善と悪、夢と現実、バルキーなニットに対するごく薄いニットというように。おとぎ話も、光と闇の両面が描かれるからこそ刺激的なんです」と語る。

ファンシーな白馬や邪悪な猫、宇宙にいるイルカなど、毛糸で編まれるモチーフには、懐かしさと真新しさが同居する。それは、ポップカルチャーのムーブメントからゴシック様式のオブジェ、幼少期の思い出の品に至るまで、あらゆるものからのインスピレーションを集約しているからだろう。

「受注生産にこだわる理由は、業界の構造を変えたいから。おそらく私は、小学生のときに、『何かを変えなければ地球は終わる』と教えられた最初の世代。昔のように何も考えず新しいものを作っていては、もうファッションは持続可能ではないのです。たとえば毛糸はアップサイクルしたものを採用したり、主に年配の方が長年所有していたものを買い取っています。好きな色の糸を手に入れるときは、服作りで一番わくわくする瞬間ですね」

ニットはすべてハンドメイド。ソフィアと数人の女性によるチーム、地域の職業支援会社との協業で製作している。小規模ながら地元で生産することは、大きな喜びだという。もう一つ、彼女が使命感を持っていることがある。

「どのアイテムも、高揚感や悲しみ、友情、そして孤独など、私の心に湧き上がる、リアルな感情に基づいて作られています。自分自身を見つめながら、孤独を感じている人たちの魂に話しかけ、どんな感情も抱きしめられるような居場所を作りたいのです」

Sophia Khaled(ソフィア カーレド) / デンマーク

1 アトリエの棚にはデッドストックの毛糸が並ぶ。年配の女性の家から買い取ることが多い
2 2024年-’25年秋冬コレクションで登場した、コウモリのモチーフつきのファーアクセサリー
3 ブルーのラメの毛糸を手編みで仕上げたプリンセスセットはブランドの世界観を象徴する大事なピース

Sophia Khaled(ソフィア カーレド) / デンマーク

4 ソフィアが幼少期に夢中になったおもちゃ「エンジェルポケット」と、中世風のワイングラス。どちらも製作の着想源
5 手際よく編み進めるソフィア。アイテムによっては、最短12時間で完成。編み物は、瞑想効果もあると語る

Sophia Khaled(ソフィア カーレド) / デンマーク

LOOKBOOK:
ドルマンスリーブのセーター€470、シアーなニットスカート€201、ニットのテニスソックス€269

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