ガブリエル・シャネル、山本耀司、カール・ラガーフェルドなど、伝説的デザイナーの名言と名作

世界中で愛されるスタイルを生み出してきた偉大なるクリエイターたち。それぞれの世界観を表現しながら、心に響くメッセージを残してきた。装うことへのヒントとなる、作り手からの金言とマスターピースをお届け

世界中で愛されるスタイルを生み出してきた偉大なるクリエイターたち。それぞれの世界観を表現しながら、心に響くメッセージを残してきた。装うことへのヒントとなる、作り手からの金言とマスターピースをお届け

自分らしく生きるヒントに

モードのレジェンドたちは、どのように世界を見たのか。その視点に息づく言葉をセレクト

ガブリエル・シャネル

ガブリエル・シャネル

つねに取り去ること。
決してつけ足さないこと。
自由に動く身体より美しいものはないわ。
- ガブリエル・シャネル

(『CHANEL 自分を語る』パトリック・モーリエ著 ジャン‐クリストフ・ナピアス編 小沢瑞穂訳 さくら舎/1、980円 )

20世紀を代表するデザイナーで、現代ファッションの基礎を築いたガブリエル・シャネル。フランスの田舎の孤児院育ちという不遇な境遇から、世界的なブランドを作り上げた。上記は1971年に87歳で亡くなるまでに残した数々の名言のひとつ。生き方も装いも、なるべくそぎ落とすほうが、より効果的だと。女性用のジャケットやスーツ、ジャージやツイード素材、携帯用口紅やショルダーバッグなど、今では当たり前のさまざまな定番を生み出した。デザインの重要なポイントも、エレガントでありながら、極めてシンプルで活動的であることだった。それが、20世紀前半から社会に進出し始めた女性たちの背中を押した。

ヴィヴィアン・ウエストウッド

ヴィヴィアン・ウエストウッド

大事なのは人目を引くこと、即行動すること。

そして物事と関わり合うことよ。
- ヴィヴィアン・ウエストウッド

(映画『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』(2018年公開))

「パンクの女王」との異名を持つ英国のカリスマ的デザイナーらしい、ポジティブで社会的な反骨精神をうかがわせる言葉。スピーディに、そして深く関係性を築くことも含めて成功のカギ、ということだろう。70年代、過激で反社会的なパンク・ロックバンド、セックス・ピストルズのマネージャー、マルコム・マクラーレンとともに開いたロンドンの店を基点に、ボンデージルックなど、挑発的なスタイルを広めた。英国の伝統的な仕立てや素材使いも特徴。彼女の精神やデザインは日本のストリートファッションに大きな影響を与えている。2022年の年末に逝去。言葉通り、後年は人権や環境保護運動にも深く関わった。

マーク・ジェイコブス

マーク・ジェイコブス

世界の風景は、変わり続けるから。

永遠なんてものはひとつもないし、

過去のほうがよかったと言ったところでいいことはない。
- マーク・ジェイコブス

(『SPUR』2019年7月号「マーク・ジェイコブスの未来」)

2000年代、世界で最も影響力があるデザイナーといわれた、マーク・ジェイコブス。自らのブランドはもとより、1997年から老舗のルイ・ヴィトンを、世界的なラグジュアリーブランドへと押し上げた。時代の流れに敏感に反応した、シンプルで可愛らしい作風。NY出身らしい快活でスポーティな感覚とパリ・シックの融合。アートへの関心が高まる中、スティーブン・スプラウスや村上隆、草間彌生ら多くのアーティストとのコラボレーションも実現した。かつて、人なつっこい笑顔で「ファッションは終わりなく回り続ける回転木馬。楽しくて、儚げだからファッション」とも話していた。人生にも通じる。

リック・オウエンス

リック・オウエンス

この世はおぞましい、でも同時に輝いてもいる。
僕の役目はそのバランスを保っていくことなんだ
- リック・オウエンス

(『T JAPAN』2024年3月号「モード界の鬼才、リック・オウエンスの現在地」)

ゴシック・ストリートスタイルのパイオニア。彼の作る服は、つらく恐ろしいことも美しいことも、うまく均衡を保っていくというこの発言をよく表している。つやつやと光る真っ黒なレザーのジャケットやパンツ。ミニマルな中にも大きなとがった肩や長く垂れ下がった裾などデザインは迫力満点。とはいえ、もともとマドレーヌ・ヴィオネやマダム グレを尊敬するとあって、優雅なドレープやモノトーンの色彩がエレガント。そんなバランスが熱狂的なファンを生むのかもしれない。ランウェイではよく奇抜な演出が話題になる。大きなシャボン玉を飛ばしたり、高々と噴水を上げたり、アクロバット的なモデルのウォーキングであったり。破壊的な美と遊び心。ユニークなバランスが粋なポイントということなのだ。

アレッサンドロ・ミケーレ

アレッサンドロ・ミケーレ

ほかの人と同じようになるのは、確かに生きていく術のひとつだろう。
でも、それでは人生の半分しか生きていないことになると思う。
- アレッサンドロ・ミケーレ

(『SPUR』2019年12月号「ローマで見た夢」)

グッチのクリエイティブ・ディレクターとして2022年までの7年間、世界トップクラスのトレンドリーダーとして君臨。そのデザインや生き方の源は、自由であることや人それぞれの個性を重視することにあったようだ。クラシックとモダン、マスキュリンとフェミニン、老舗のブランドロゴと漫画……。独特の遊び心でさまざまな要素を組み合わせたミックス&マッチの感覚で、社会に多様性やジェンダーレスの意識を広げていった。消費社会やショーのあり方などに疑問を呈したことでも知られる。’24年からはヴァレンティノに移り、パリのオートクチュール界にも斬新な風を吹き込むと期待される。

トム・フォード

トム・フォード

人生にとって大事なことは、案外たわいのない
日常の中にあるということを伝えたかった。
仕事漬けになったり高級車を買ったりすることではなく、

大好きな人と背中合わせで本を読んだり、犬にキスしたりする瞬間。
明日つけるカフスボタンを吟味する時間。
そんなごく小さなことが実は大きな幸せであり、
それは自分自身をよく知ることで見つけられるのです。
- トム・フォード

(『朝日新聞』2009年11月12日付「美を貫く 鋭い時代感覚 2人の世界的デザイナーにきく」)

シャープでパワフル、圧倒的なスタイリッシュさで90年代から世界のラグジュアリーシーンを引っ張ってきたデザイナー。映画界にも進出し、初監督作『シングルマン』(’09)が評判になった頃のインタビューで、ファッションの意味が変わったか? 映画の表現にそれが反映されているか? と質問された際の答え。「ファッションが商業的になり過ぎて、何かを伝えたり表現したりすることが難しくなった。生活の中で美的で楽しいものがあってもいい。ファッションとはそんな存在ではないか」と話した。劇中では、主役のコリン・ファースがカフスボタンを選ぶシーンが印象的だった。

ソニア・リキエル

ソニア・リキエル

(エレガンスとは?)
「様々なことに気づくこと」だと思います。
何がどうなっているのか、常に目を配ること。
それが行間のように人に伝わるのです
- ソニア・リキエル

(『朝日新聞』2013年1月10日付「ファッションってなに? ソニア・リキエル」)

「ニットの女王」と呼ばれ、フランスを代表するひとり。60年代終わり頃、普段着だったニットをおしゃれな街着に変え、イヴ・サンローランや髙田賢三らとともにプレタポルテへの道を開いた。80年代のバブル期は、成功した女性の服として日本の女性たちの憧れの的に。82歳のときのインタビューでは、いくつになっても伸びやかなチャーミングさは変わらなかった。優雅で小粋な"パリ・シック"の代表といわれているが、エレガンスの定義を問われ、こう答えた。所作や着こなし、センスなどではなく、生活の中で実践できる、極めて具体的なポイントだ。ソニア・リキエルのスピリットが感じられる一言。

巨匠の哲学を知る

服作りへのアプローチにこそ、彼らの想いが凝縮されている。その真髄に触れたい

山本耀司

山本耀司

ファッションは、生きざまを表すものです。
人の印象を語る時に、物静かだとか偉そうだとか面影を語るでしょう。
その面影を作るのにファッションが大事な手助けをするのだと思うのです。
- 山本耀司

(『朝日新聞』2011年5月26日付「ファッションってなに? 山本耀司」)

欧米のパーティでヨウジヤマモトのドレスやスーツを着るときは、アクセサリーをまったくつけなくてもいいとされているという話がある。それだけ、服がエレガントで思索的だからだろう。一方で、パリ・モードの伝統に一石を投じるような批評性も。「ファッション界の反逆児」との異名を持つデザイナーに、「ファッション」とは? と聞いてみたときの答え。当時からファッションの没個性や度を越した露出ぶりに、「面影もクソもない」と嘆いていた。彼は「服を作り込まずに15%くらいあえて手を抜き、あとは着る人自身に任せる」という。それが着ている人の面影を残すと考えているからだろう。

マルタン・マルジェラ

マルタン・マルジェラ

(ファッションですべてを語れましたか?)
いや。
- マルタン・マルジェラ

(映画『マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ"』(2019年公開))

「でも、僕はマルジェラじゃないからね」。たとえ実際に遭遇したとしても、彼はいたずらっ子のように笑いながらそう語る。顔を公表せず、匿名性を大事にしていた。カビが増殖する服や真っ平らになる服、ゴミ袋で作った服や超ビッグサイズ……など、90年代から既存のファッションの常識をことごとく破ってきた。「贅沢」さの新解釈や簡素な美学、手仕事への尊敬などモード界に残したレガシーは大きいが、それでも頭にあるすべてを表現するには足りなかったのか。キャリアの絶頂期に突然、引退した理由などその全貌はいまだに謎に包まれている。

マイケル・コース

マイケル・コース

絵画でいえば、私はフレーム(額縁)を作っているに過ぎない。

肝心の絵の方は、着る人が自分で描くべきと考えるからです。
着る人が自分らしく生きていけるような額縁。
ファッションとはそういうものだと思います。
- マイケル・コース

(『朝日新聞』2012年1月12日付「ファッションってなに? マイケル・コース」)

自身のブランドはもちろん、2000年前後にフランスの老舗ブランド、セリーヌを手がけてセンセーショナルな話題を集めた米国人デザイナー。明るく快活、シックで華やか、グラマラスでスポーティなドレスやスーツを得意としてきた。「ファッションって何?」と尋ねると、「私は快適で魅力的、フェミニンなのにパワフルな服を作ろうと努めてきた」と話した後に「しかし」と続けた言葉。ファッションは主役ではなく、自分らしく生きるための単なる額縁と解釈できる。本人は大柄で温かい印象だが、物腰がスマートで鋭さも漂わせて、「額縁」には収まりきらない深みも感じさせる人柄。

三宅一生

三宅一生

デザインには悲しみはそぐわない、
デザインには希望がある、
そして、デザインは驚きと喜びを人々に届ける仕事である
- 三宅一生

(『朝日新聞』2003年1月28日付「造ろうデザインミュージアム」)

イッセイ ミヤケやプリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ、A-POCなどには、どれも楽しさや着心地のよさが貫かれている。自身も飾らずユーモアを交えて、情熱的に愉快そうに話す。「一枚の布」という考え方を創作の源に、素材や造形で革新的な技を使う手法も一貫しており、根本には希望や喜びの表現があった。7歳のときの広島での被爆体験から「壊すのでなくつくることへ、美や喜びを喚起してくれるものへ、目を向けようとしてきました」と2009年に米紙への寄稿でも述べている。そうした驚きと希望を届ける姿勢や手法は、イッセイ ミヤケの後輩たちや世界中のデザイナーたちに広く受け継がれている。

ドリス・ヴァン・ノッテン

ドリス・ヴァン・ノッテン

心で服を作りたい
- ドリス・ヴァン・ノッテン

(『朝日新聞』2009年5月21日付「東京・青山に新ブティック ドリス・ヴァン・ノッテン」 )

今年6月、世界中のファッション関係者やファンに惜しまれながら引退ショーを行なった、ベルギー・アントワープを代表するデザイナー。「感じるままに純粋に、着る人のためを思って」の後に発した言葉。着る人の気持ちに寄り添った着心地のよさや、手仕事を取り入れた妥協のない素材やディテール、さりげなく魅惑的なジェンダー観は、人間や服への愛情を表している。社会不安が続くときは穏やかな花柄の服、コロナ禍には着る人や見る人の気持ちが浮き立つ華やかな服を提案。本人いわく「着る人と服の間に生まれる親密で優しい時間」が感じられるように。

川久保 玲

川久保 玲

ファッションにはなお、人を前向きにさせて、
何か新しいことに挑戦させる
きっかけになる力があると信じています
- 川久保 玲

(『朝日新聞』2012年1月7日付「ファッションで前に進む」)

コム デ ギャルソンのデザイナーで社長でもある川久保玲は、「鉄の女」「反骨のデザイナー」などと称されることも。1981年にパリに進出し注目されながら、’82年の通称”穴あきルック”で大きな物議を醸し、欧米のモード界に風穴を開けた。今も世界で最も影響力のあるデザイナーのひとりだ。その創作意欲は衰えず、2014年春夏コレクションは、「洋服ではない物を作るという観念で作りました」と自らの服作りを覆すようなデザインを発表。’24年春夏では「怒り」と題して、世界で起こる出来事を憂慮し、それを抽象的ともいえる形で表現している。人の心や行動に訴えるクリエーションを続ける、彼女らしい言葉だ。

名作にまつわる名言

伝説級のアイコニックな一品と、その背景にある想いから、彼らの美学を解き明かす

カール・ラガーフェルド

カール・ラガーフェルド

リトル・ブラック・ドレスは
着飾りすぎることも、貧弱すぎることも決してない
- カール・ラガーフェルド

(『完全版 CHANEL BOOK』エマ・バクスター‐ライト著 川島ルミ子訳 さくら舎/2、860円)

1983年から2019年に急逝するまでの間、シャネルのデザイナーを務めていた「モード界の皇帝」。創始者から続く伝統を大事にしながら、その時代に合わせてアップデートしてきた。アールデコの流行の最中にガブリエルが発表した、シンプルで直線的なシルエットのリトル・ブラック・ドレスも彼の代表作。ギャルソンヌ風の平らな胸や、ミニマルなデザインだからこそ可能なさりげない装飾はそのままに、トレンドを取り入れた。’09年のインタビュー(『朝日新聞』2009年4月16日付 「「いま」映す伝統と変革」)では「シャネルではフェミニンでエレガント、きゃしゃなパリジェンヌ風スタイルに変換して表現する作業が必要」と早口で話し、頭の回転の速さも漂わせた。

ジョルジオ・アルマーニ

ジョルジオ・アルマーニ

性別の区分に過度にこだわらない
自分の美学を表しただけ。
- ジョルジオ・アルマーニ

(『朝日新聞』2022年9月15日付「時代を変えたデザイナー ジョルジオ・アルマーニ」)

「モード界の帝王」との異名を持つ彼は、70年代の終わり頃、19世紀からほぼ変化のなかったスーツの概念を変えた。ジャケットから厚い肩パッドを抜くか位置を変え、芯地を取りはらった脱構築的なデザイン。それはしなやかで軽く、サンドベージュなどの中間色や柔らかい生地と相まって、メンズ、レディスともにソフトスーツと呼ばれて世界的な人気となった。「デザインでの性差の意識改革にもつながったが、意図したのか」と問うたときの答え。自分の美学にかなう服とは、「着る人が楽でスタイリッシュに見えて、それ自体が特に注目されることも、時代遅れになることもないような服」。店舗の内装などにも完璧主義を貫く。

クリストバル・バレンシアガ

クリストバル・バレンシアガ

クチュリエは、デザインの建築家、
形状の彫刻家、色の画家、調和の音楽家、
そして、節制の哲学者でなければなりません
- クリストバル・バレンシアガ

(BALENCIAGA-CRISTÓBAL https://www.balenciaga.com/ja-jp/cristóbal)

構築的な作風から「クチュール界の建築家」と称されたスペイン出身のデザイナー。クチュリエは、製作過程のあらゆる要素においてそれぞれのプロとなるべきだと訴えるユニークな言葉。一般的には各工程を職人が担当するオートクチュールにおいて、デザインから布の裁断、縫製から仕上げまですべて自分でこなせる稀有なデザイナーだった。立体裁断などの高い技術を持っていたことで知られ、その卓抜した技はいまだに解明できないものもあるとか。代表作のひとつ、ウエストラインを持たないバレル・シルエット(たる形)のコートなども徹底的に無駄をそぎ落としながら、体と布が離れることによってドラマティックなシルエットを生んだ。

クリスチャン・ディオール

クリスチャン・ディオール

つまり、新しいファッション(ニュールック)は、
確かに若者と未来を象徴するファッションだったのです。
‐ クリスチャン・ディオール

(『DIOR by Dior クリスチャン・ディオール自叙伝』 クリスチャン・ディオール著 川島ルミ子訳 集英社/2,860円)

第二次世界大戦後の1947年、それまでの耐乏生活において人々が渇望していた優雅さや贅沢さを表し、世界的にヒットしたのが「ニュールック」。優しいラインの肩や細く絞ったウエスト、ヒップを強調し、胸もとが深く開いてぴったりとしたジャケットと、たっぷり広がるスカートでフェミニンさを強調。戦時ではとても考えられなかったデザインだ。「バー」ジャケットと名付けられたのは、バーで女性がくつろげるように作られたからともいわれている。軽量で着やすく、あらゆる体型の女性に似合ったのも人気の秘訣。新しいスタイルと名付けられたニュールックは、その後50年代の若者文化が発生した時代を象徴するファッションにもなっていった。

アニエス・トゥルブレ

アニエス・トゥルブレ

大人のための子供服、
またはその逆のような
服を作りたかったのです
- アニエス・トゥルブレ

(『アニエスベー ストーリーズ』アニエスベー監修 青幻舎/3,080円)

ボーダーTシャツやカーディガン。アニエス・トゥルブレは、大人も子どもも問わず、シンプルで着心地がよく、上質なベーシックアイテムを作り続けている。肌が敏感な子どもでも大丈夫な素材や、着脱がしやすく一日中着ていられる服。定番の「カーディガンプレッション」は1979年以来、袖の長さや丈などデザインの豊富なバリエーションが生まれ、素材もコットンから、レザーまで心地よさを追求してさまざまに進化している。彼女はアートや映画、音楽にも造詣が深く、ファッションを通じて多くの文化的な活動を行なっている。海洋探査船タラ号のサポートなど環境保護の活動でも知られる。