少女漫画雑誌『りぼん』は1955年に創刊し今年で70周年を迎えた。多くの読者の心に今も色濃く残る名作の主人公に、自在に変身していく夢のファッションストーリー。
少女漫画雑誌『りぼん』は1955年に創刊し今年で70周年を迎えた。多くの読者の心に今も色濃く残る名作の主人公に、自在に変身していく夢のファッションストーリー。
『りぼん』に見る女性像の変遷
『りぼん』で描かれてきたキャラクターは、装いや女性像においてどのような変化を遂げてきたのか。少女漫画に精通する二人の研究家に話を聞いた。
年代ごとの主なヒット作品
1955年『りぼん』創刊
ヒロインは社会と時代を映す鏡
『りぼん』の歴史上で大きな変化だと藤本さんが指摘するのが、1960年代後半から1970年代。「恋愛要素が描かれるようになったのがこの頃。1968年に漫画家デビューした一条ゆかり先生をはじめ、戦後生まれの若い作家たちの影響が大きいと思います。当時世界で起きていた学生の反戦運動やヒッピーの流れを受け、日本でも多くの若者が、"私たちの価値観はこれだ!"と打ち出していた。漫画家も同様で、彼女たちの関心事の一つである自由な恋愛を主題として描くように。なかでも『デザイナー』(2)は、恋愛だけでなく仕事への志も描かれていて、時代を切り開く強さがありました」
1980年代になるとまた新たな変化が。「一人の女性に焦点を当てたものから、80年代は群像劇がメインに。登場人物の幅が広がっていくんです。『星の瞳のシルエット』(4)などもその例かもしれません。人口が増えて経済が豊かになって周囲を見る余裕ができて、多様な個性があっていいよね、という風潮になっていったんです。"個性を大切に"という言説が、キャラクターにも取り入れられていきました」
90年代に入ると、好景気に沸いた80年代を見直し、「社会問題を組み込んだ骨太の作品が増えた」と藤本さん。「『こどものおもちゃ』(7)は両親との関係、学級崩壊、メンタルヘルスなど踏み込んだテーマを扱っていました」
2000年代の『愛してるぜベイベ★★』(10)は、主人公の男子高校生が5歳の従姉妹を世話する物語。「90年代半ばに育休法の改正があり、男性の子育てが盛んに語られるようになった。その変化を反映する作品だと思います」
新自由主義の影響で競争社会が激化し、2010年代頃から、追い詰められる切実さを感じさせる作品が目立つようになる。同時に、人は表から見える通りの人格ではない、という感覚が強く前面に出てきたのが2010年代以降だと藤本さんは言う。「SNSで複数の匿名アカウントを使い分ける時代が背景にあると思います。『なないろ革命』(13)は、無邪気にふるまいながら怖いほど印象を操作してみせるキャラクターが描かれていて、時代を象徴していました」
2020年代に入ると、『絶世の悪女は魔王子さまに寵愛される』(15)のように、"溺愛もの"が目立ってくる。「昔の作品は女の子の片想いがデフォルトでしたよね。今は学生と話していると、無理してまで恋愛したくないという考えによく遭遇します。自分が尽くす恋愛はしたくない。そうしたニーズにこたえた結果、"溺愛"ジャンルが生まれたのではないでしょうか」
明治大学国際日本学部教授。漫画文化論・ジェンダー論を扱う。新聞や雑誌で連載コラムを持つ。主な著書に『私の居場所はどこにあるの?』(朝日文庫)、『きわきわ−−「痛み」をめぐる物語』(亜紀書房)など。
憧れも生き方もファッションに描かれる
倉持さんが最初に注目するのは『伯爵令嬢スイート・ラーラ』(1)。「主人公は当時の人気モデル、ツイッギーのようなスタイルを取り入れたおしゃれなスタイル。1960年代は漫画がファッション雑誌の役割を果たしていました」
1970年代後半は"乙女ちっく漫画"が台頭。「『クロッカス咲いたら』(3)の田渕由美子先生など、女の子の小さな片想いと身近な生活を描く漫画家が"乙女ちっく漫画家"と呼ばれて活躍。素敵なものに囲まれたライフスタイルの描写や彼女たちが描いたイラストを使った付録も人気を博し、のちに雑誌『Olive』に引き継がれるような、"自分の暮らしを可愛く整える"という文化に確実に影響を与えたと思います」
『ハンサムな彼女』(5)はさらに洗練されたムードを象徴していた。「当時流行していたディスコスタイルを着用するなど、吉住渉先生が描く女の子の装いは圧倒的に都会的。主人公未央の、可愛らしさの中にも芯の強さがある性格が、80年代という時代を反映していました」
90年代ははつらつとした内面性とスタイルで魅了するヒロインが多く登場。「『姫ちゃんのリボン』(6)は、ショートヘアに大きなリボンで、今までのヒロインにはない"ボーイッシュな可愛さ"という新たなイメージを生んだキャラクターですし、『こどものおもちゃ』(7)では、読者と同世代の小学生、紗南ちゃんがマネしたくなるファッションを体現していました。そして『ご近所物語』(8)はクリエイティブな職業への憧れを芽吹かせた作品。90年代後半から00年代にかけて、主人公の実果子のような個性派ファッションをする若い女性が増えていくことを予感させる、影響力の高い作品です」
『GALS!』(9)での平成ギャル、『チョコミミ』(11)での原宿系など、00年代はファッションの幅の広がりが顕著に。「ストリートスナップが流行した時代。街を歩く人がファッションのお手本であることが漫画にも表れていた」
『つばさとホタル』(12)や『ハニーレモンソーダ』(14)など、10年代以降は少し"コミュ障"な女子の成長物語が人気に。「当時、オタクカルチャーが市民権を得てファッションと融合する流れがありましたが、それらとヒロイン像の変化は無関係ではないと思います。SNSが承認欲求を満たすツールとなり、"モテ服"など、他者を軸にした服装が増えた時期でもあります。主人公の装いに突出した個性はないですが、万人から見て可愛い。今日のスタンダードです。『りぼん』で描かれるファッションには、時々の少女たちの考え方が表れています」
京都国際マンガミュージアム学芸員。主な著書に『かわいい!少女マンガ・ファッションブック 昭和少女にモードを教えた4人の作家』(立東舎・共著)、『マンガぶらぶら 21世紀マンガをひたすら読む』(同)など。













