杉咲花が主演を務める映画『ミーツ・ザ・ワールド』。彼女の演じる役さながらに、赤はまっすぐな生命力に満ちている。その多彩な表情をすくい、時に奔放で、時に物憂げな、新しい赤を表現する
杉咲花が主演を務める映画『ミーツ・ザ・ワールド』。彼女の演じる役さながらに、赤はまっすぐな生命力に満ちている。その多彩な表情をすくい、時に奔放で、時に物憂げな、新しい赤を表現する
杉咲花さんにインタビュー
役ごとに本当に存在し、そこで生きていると思わせてくれる。誠実でひたむきに作品に向き合う姿に、秘めた情熱の「赤」を感じさせる俳優の杉咲花さん。金原ひとみさんによる原作の映画化『ミーツ・ザ・ワールド』で、彼女は自分のことを好きになれないオタクの由嘉里を演じる。由嘉里が出会い、やがて推すことになるキャバ嬢のライは、冒頭から印象的な赤を纏って登場する。杉咲さんは、赤という色を、「血の色ですし、本能的で直情的で、鮮烈に残る色」と表現する。
由嘉里とライは対照的な存在。互いに足りない部分を羨みながらも、尊重し合える関係性だ。こうしたコンプレックスとの向き合い方について問うと、まだ「過渡期」にあると杉咲さんは語る。
「足りないものを補うというより、不足したままの自分を受け止められたらいいなと思います。追い込まれるような状況であっても、焦りや苛立ちに侵食されず、少し力を抜くこと。そういうときこそ、他者を想像できたらと思うんですけれど、私はまだまだですね」
その真面目な性格ゆえに10代の頃は「はみ出してはいけない」という怖さもあった。だが仕事を続ける中で、変化を実感している。
「反動で、人が好きなものは嫌いになるような時期もあったんです(笑)。でも、今は人と同じであろうが、違っていようが、自分が好きなものを好きでいていいと思えるようになって。それは、自分にしか感じられない感情というだけで価値があるから、そのままでいいと思えたときに、少し楽になりました」
自分の感情を素直に受け止めることにこそ、演技の醍醐味があるのだと彼女は言う。
「役を演じるときはむしろ、自分が情けなくてどうしようもなかったことや、なぜこんなにつらいんだろう?と感じたことが、還元されていく感覚があるんです。そういったネガティブな部分も肯定してもらえる感じがして、すごく救われます」
『ミーツ・ザ・ワールド』で推し活に情熱を注ぐ由嘉里として過ごした時間は、杉咲さんのパーソナルな生活にも影響を与えた。彼女にとっては、物語に触れることそのものが推し活と言えるようだ。
「今回、自分が好きなものを応援し続けることの豊かさを強く感じました。生きることは寂しさや悲しみだらけですけど、そういう感情があるのが人間なんだと再確認させてくれるものが、自分にとっては物語で。ちょうど去年、『No No Girls』にハマって、HANAが大好きになったんです。MVや活躍している姿を見ると、すごく笑顔になってる自分がいて、こんなに彼女たちのストーリーに癒やしをもらえるんだって」
そんな杉咲さん自身が情熱を傾けるのは、意外にも半径5メートル以内の世界だそう。
「実際感じられるもの、肌ざわりのあるものに対して関心が向くほうだと思います。友達や大切な人に情熱を注ぐことで、自分自身が満たされていく感じがあるんです。仕事も大好きなんですけど、夢中になってすべてを注いでしまって。アウトプットしかしていない状態が続いていたので、一度休憩しないと身がもたないなと」
日々きちんと生活をすることで、仕事への情熱の火を絶やすことなく、循環させることができる。そうして自分らしい色を受け入れながら歩みを進める杉咲さん。身につける「赤」との関係もまた、変化の途中だ。
「赤い服は大好きなのですが、普段はモノトーンばかりなので、実際に着ると気持ちが追いつかなくて、ドキドキします。喜びや高揚が表に出てきてしまうというか。でも、フォーマルな場で、たとえば爪に赤をのせると、所作まで変わることもありますよね。今日もさまざまな新しい赤を着て、色自体が自分を気丈に見せてくれた気がします」
1997年生まれ、東京都出身。NHK連続テレビ小説「おちょやん」、ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」「海に眠るダイヤモンド」、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(’16)、『市子』(’23)、『52ヘルツのクジラたち』(’24)、『片思い世界』(’25)など話題作に多数出演。主演映画『ミーツ・ザ・ワールド』は10月24日公開。





