杉咲花がまとう「赤」。映画『ミーツ・ザ・ワールド』や自身の“推し活”について語る

杉咲花が主演を務める映画『ミーツ・ザ・ワールド』。彼女の演じる役さながらに、赤はまっすぐな生命力に満ちている。その多彩な表情をすくい、時に奔放で、時に物憂げな、新しい赤を表現する

杉咲花が主演を務める映画『ミーツ・ザ・ワールド』。彼女の演じる役さながらに、赤はまっすぐな生命力に満ちている。その多彩な表情をすくい、時に奔放で、時に物憂げな、新しい赤を表現する

杉咲花 SPUR11月号 ミュウミュウ

ブーツ¥341,000・タンクトップ¥181,500・インナースカート¥308,000(すべて予定価格)/ミュウミュウ クライアントサービス(ミュウミュウ)

赤を差し色としたルックが目立った今シーズンのミュウミュウ。ナッパレザーのニーハイブーツはボールドな強さとセンシュアルさの両方が強調される一足。コットンの可憐なタンクトップと合わせて女性の持つ多面的な魅力を絶妙なバランスで楽しむ。

杉咲花 SPUR11月号 ポーリーヌ・デュジャンクール

トップス¥236,500・スカート¥304,150/ ドーバー ストリート マーケット ギンザ(ポーリーヌ・デュジャンクール)

ロンドンを拠点に繊細なものづくりで注目を集めるポーリーヌ・デュジャンクール。手仕事を大切にするブランドならではのオーガンジーとレースをあしらったトップスとスカートが奥行きを生む。ニュアンスのあるやわらかい赤が、杉咲さんのピュアな笑顔をいっそう際立たせる。

杉咲花 SPUR11月号 ユークロニア

チャーム¥9,900/ソウス(マイン) ボディスーツ¥49,500・腰ばきにしたドレス¥57,200/ユークロニア

赤いシルク糸に結ばれたゴールドのチャームは、願いがかなうと糸が切れるというブラジルの伝統的なジュエリーがモチーフ。好きな長さでカットして、ネックレスとしてもブレスレットとしても使用可能。素肌にまとうさりげない赤は、小さな勇気をつなぎ止めるお守りのよう。親密性のあるランジェリーライクなスタイリングの中に強い意志を忍ばせて。

杉咲花 SPUR11月号 イッセイ ミヤケ

コート¥286,000/イッセイ ミヤケ

イッセイ ミヤケが提案するのは、熱可逆性合成繊維とウールアルパカ混合糸の圧縮によって生まれた、かつてない質感のニット。張りとほのかな光沢を併せ持つこの素材は、相反する要素の融合、そして曖昧さを表現している。重量感のあるデザインと赤という根源的な色がその唯一無二な素材にタフなパワーを与える。

杉咲花 SPUR11月号 バカラ

手に持ったクリスタル(ラッキーバタフライ)¥27,500/バカラショップ 丸の内(バカラ) ニットジャケット¥47,300・ブレザー¥58,300・パンツ¥30,800/MATT.(ソウシオオツキ)

赤い透過光と精巧にデザインされた躍動感のあるシルエットが、蝶をかたどったクリスタルに生命力を与えている。マニッシュなセットアップにニットジャケットを羽織ったリラクシングなスタイルで、蝶の飛び立つ先に思いを馳せながらゆったりとした時間に身を任せたい。

杉咲花 SPUR11月号 フェラガモ

ドレス¥256,000・靴¥159,500・手に持ったケープ¥825,000/フェラガモ ジャパン(フェラガモ)

モダンダンスを着想源としたフェラガモのドレスは、とろりとしたシルク製で優美なフォルムを描く。ブランドを象徴する色の名は「フレイムレッド」。フォックスファーを模したシアリングのケープを携え、静かな情熱を燃やし続けて。

杉咲花さんにインタビュー

役ごとに本当に存在し、そこで生きていると思わせてくれる。誠実でひたむきに作品に向き合う姿に、秘めた情熱の「赤」を感じさせる俳優の杉咲花さん。金原ひとみさんによる原作の映画化『ミーツ・ザ・ワールド』で、彼女は自分のことを好きになれないオタクの由嘉里を演じる。由嘉里が出会い、やがて推すことになるキャバ嬢のライは、冒頭から印象的な赤を纏って登場する。杉咲さんは、赤という色を、「血の色ですし、本能的で直情的で、鮮烈に残る色」と表現する。

由嘉里とライは対照的な存在。互いに足りない部分を羨みながらも、尊重し合える関係性だ。こうしたコンプレックスとの向き合い方について問うと、まだ「過渡期」にあると杉咲さんは語る。

「足りないものを補うというより、不足したままの自分を受け止められたらいいなと思います。追い込まれるような状況であっても、焦りや苛立ちに侵食されず、少し力を抜くこと。そういうときこそ、他者を想像できたらと思うんですけれど、私はまだまだですね」

その真面目な性格ゆえに10代の頃は「はみ出してはいけない」という怖さもあった。だが仕事を続ける中で、変化を実感している。

「反動で、人が好きなものは嫌いになるような時期もあったんです(笑)。でも、今は人と同じであろうが、違っていようが、自分が好きなものを好きでいていいと思えるようになって。それは、自分にしか感じられない感情というだけで価値があるから、そのままでいいと思えたときに、少し楽になりました」

自分の感情を素直に受け止めることにこそ、演技の醍醐味があるのだと彼女は言う。

「役を演じるときはむしろ、自分が情けなくてどうしようもなかったことや、なぜこんなにつらいんだろう?と感じたことが、還元されていく感覚があるんです。そういったネガティブな部分も肯定してもらえる感じがして、すごく救われます」

『ミーツ・ザ・ワールド』で推し活に情熱を注ぐ由嘉里として過ごした時間は、杉咲さんのパーソナルな生活にも影響を与えた。彼女にとっては、物語に触れることそのものが推し活と言えるようだ。

「今回、自分が好きなものを応援し続けることの豊かさを強く感じました。生きることは寂しさや悲しみだらけですけど、そういう感情があるのが人間なんだと再確認させてくれるものが、自分にとっては物語で。ちょうど去年、『No No Girls』にハマって、HANAが大好きになったんです。MVや活躍している姿を見ると、すごく笑顔になってる自分がいて、こんなに彼女たちのストーリーに癒やしをもらえるんだって」

そんな杉咲さん自身が情熱を傾けるのは、意外にも半径5メートル以内の世界だそう。

「実際感じられるもの、肌ざわりのあるものに対して関心が向くほうだと思います。友達や大切な人に情熱を注ぐことで、自分自身が満たされていく感じがあるんです。仕事も大好きなんですけど、夢中になってすべてを注いでしまって。アウトプットしかしていない状態が続いていたので、一度休憩しないと身がもたないなと」

日々きちんと生活をすることで、仕事への情熱の火を絶やすことなく、循環させることができる。そうして自分らしい色を受け入れながら歩みを進める杉咲さん。身につける「赤」との関係もまた、変化の途中だ。

「赤い服は大好きなのですが、普段はモノトーンばかりなので、実際に着ると気持ちが追いつかなくて、ドキドキします。喜びや高揚が表に出てきてしまうというか。でも、フォーマルな場で、たとえば爪に赤をのせると、所作まで変わることもありますよね。今日もさまざまな新しい赤を着て、色自体が自分を気丈に見せてくれた気がします」

杉咲 花プロフィール画像
杉咲 花

1997年生まれ、東京都出身。NHK連続テレビ小説「おちょやん」、ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」「海に眠るダイヤモンド」、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(’16)、『市子』(’23)、『52ヘルツのクジラたち』(’24)、『片思い世界』(’25)など話題作に多数出演。主演映画『ミーツ・ザ・ワールド』は10月24日公開。

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