セシリー・バンセン、10周年を語る。新時代のロマンティシズムを夢見て

唯一無二のフェミニニティを発信し続けて10年。デザイナーの思いと、コペンハーゲンの今をレポート

唯一無二のフェミニニティを発信し続けて10年。デザイナーの思いと、コペンハーゲンの今をレポート

セシリー バンセン ショー

10年の軌跡をたどる過去と現在のコラージュ

8月に開催されたコペンハーゲン・ファッションウィークで、注目のクリエイターのために新設されたゲスト枠に選ばれたセシリー・バンセン。ブランド創設から10周年を祝うアニバーサリーショーでもあり、アーカイブスを再構築したルックの数々が、元工業地帯の空き地を華やかに彩った。2020年秋からコレクションの発表の場をパリに移した彼女にとって、地元への凱旋でもあり、これまでの歩みへの特別な思いが込められている。

「大切な人たちがたくさん集まってくれて、パーソナルで親密なひとときでした。タイトルは日本語の『花火』。『花』と『火』から成り立つこの言葉のロマンティックで力強い表現、二面性や繊細さが、ブランドのメタファーにぴったりだと感じました。そこには無垢さと美しさがあり、一瞬の輝きがある。ショーもまた〝その瞬間〟であり、現れては消えていくものだから」

白昼の空を花火がキラキラと舞い、ショーの幕開けを飾ったのはビョークの娘であるイザドラ。これまでパリのショーや東京での撮影でモデルを務めたモトーラ世理奈も登場。

「10年分のアーカイブスから今回のショーのためのルックを選ぶのは本当に難しかったけれど、ホワイトとシルバーだけにしようと方向性を決めてから、選びやすくなりました。できるだけ多様な技術やテキスタイルを取り入れて、ひとつのコレクションに集約した結果、とてもクリーンで北欧的なミニマリズムと私のロマンティックな要素を表現できたと思っています」

セシリー バンセン ドレス

ベビードール風のドレスを纏った3人組。彫刻的なシルエットに繊細なレースや刺しゅう、歩くたびにふわふわと揺れるスカートがキュート

セシリー バンセン ショー

ショーは元港湾地区の広大な空き地で、明るい空に花火のきらめきが舞う中で行われた。かまぼこ状の建物は、かつてのハンガー(造船関連の倉庫)で、現在はクラブのHangaren

セシリー バンセン 白いドレス

スニーカーで統一されたモデルの足もとに、ブランドの"甘くないフェミニン"の精神が表れる

セシリー バンセン モトーラ世理奈

過去にもブランドのモデルを務めてきたモトーラ世理奈の姿も 

セシリー バンセン ロングドレス

スパンコールの梅の花が全身にちりばめられたロングドレスは、ひときわ華やか。デザイナーのテキスタイルへのこだわりが光る一着

セシリー バンセン イザドラ・ビャッカルドッティル・バーニー

ファーストルックを飾ったのは、歌姫ビョークとアーティストのマシュー・バーニーの娘、イザドラ・ビャッカルドッティル・バーニー。アーカイブスの生地を使い、マグノリアの刺しゅうを施したドレスを堂々と着こなし、女神のようなオーラを放っていた

Interview with Cecilie Bahnsen "繊細さと強さ。女性の二面性を描き続けたい"

この夏オープンした初のブティックをセシリー・バンセン本人が案内してくれた。そこで語ったのは、服作りの原点、そして広がり続ける独自の世界観について

セシリー バンセン

PROFILE
コペンハーゲン郊外生まれ。デンマーク・デザインスクール(現デンマーク王立芸術アカデミー)で学び、渡仏。ジョン ガリアーノで経験を積み、2010年からはロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートの修士課程へ。アーデムを経て、2015年にコペンハーゲンへ戻り、自身の名を冠したブランドを設立。

心地よく、強く、自立した気持ちになれる服

セシリー バンセンを象徴するフラワーモチーフ、リボンやフリル、パフスリーブにバルーンスカート。ロマンティックなコレクションは、テキスタイルデザインからスタートする。

「テキスタイルの開発は私にとってとても重要です。デッドストック生地を使うこともありますが、デザインは必ず生地を選ぶことからスタートします。すべてがそこに表れるから」

フェミニンな要素をふんだんに取り入れ、職人技が感じられるラグジュアリーさがありながらも、快適さを大切にした普段使いのためのクチュール。この日のセシリーも花モチーフのレースが揺れるスカートに、Tシャツとフラットシューズを合わせていた。

「私は、ロマンスとフェミニニティにこそ力強さとパワーを感じます。女性が心地よく、強く、自立した気持ちになれるような服を作っているんです」

セシリー バンセン

ブティックの一角には、オーダーメイドに関する相談などができるミーティングスペースも

セシリー バンセン フラットシューズ

パテントレザーを使ったフラットシューズ。BRIELLE SHOES(DKK4,112)

コペンハーゲンはすべてが始まった場所

コレクションを発表するのはパリだが、サンプルや一点ものの制作が行われるのは、コペンハーゲン郊外にある元工場を改装したアトリエ。これまでその一角に予約制のサロンを設けていたが、今年8月、コペンハーゲン・ファッションウィークに合わせて待望のブティックが市内中心部に開店。

「2015年にブランドを一人で立ち上げ、すべてがコペンハーゲンから始まりました。やはりここが私の〝ホーム〟なんです。私たちのストーリーを伝えられる場所ができたのはうれしいこと。ファッションウィーク中にオープンして、10周年のアニバーサリーショーで発表したピースを展示しましたが、これから毎シーズンのメインコレクションを発表する場にしていきたいですね。また、少し隠れた場所なので、訪れる人に探し出して発見してもらう感じになるのも気に入っています」。

静かでギャラリーのような空気が漂うブティック。家具は長年使っているもので、窓辺には友人のガラス作家、ニナ・ヌアゴーの美しいガラスベースに、ボーンホルム島から届いたという繊細な花がこんもりと活けられていた。訪れるたびに違った雰囲気を感じられるよう、空間は変化を続けていくという。

10 YEARS OF BEAUTY LIMITED EDITION EMBROIDERED BOMBER JACKET  セシリー バンセン

10周年を記念して、アルファ・インダストリーズと制作した限定ボンバージャケット。10 YEARS OF BEAUTY LIMITED EDITION EMBROIDERED BOMBER JACKET(DKK11,346)

セシリー バンセン  ブティック

アポイント制のブティックは、路面ではなくコートヤードに位置する隠れ家的な立地

日本からインスピレーションを受けることも多いと言い、日本ブランドとのコラボレーションも度々行なっているセシリー。10月にはザ・ノース・フェイスとの新たな共作も発表予定だという。さらにはボンバージャケットで有名なアルファ・インダストリーズとのプロジェクトも進行中で、ブティックとオンラインでは先行して10周年の限定アイテムが販売されている。これは友人の日本人アーティスト、堀田紫からインスピレーションを得たのだそう。

「彼女はいつも私のドレスの上から大きなボンバージャケットを羽織っているんです。その着こなしがすごく魅力的で、今回のコラボレーションにつながりました」

ブランド誕生から「繊細さと強さという女性の二面性を描き続けたい」という揺るぎないビジョンをもって少しずつ拡大してきたセシリーの世界。ブティックという発信拠点を得て、次の10年に向けて、コペンハーゲンから新たな歴史の幕が開ける。

セシリー・バンセン、10周年を語る。新時の画像_13

10周年のコレクションが展示販売されている店内

セシリー・バンセン、10周年を語る。新時の画像_14

ショーやブティックで使う花はいつも、ボーンホルム島でサステイナブルな栽培をしているH(e)aven Bornholmに依頼。花瓶はセシリーの友人でもあるガラス作家、ニナ・ヌアゴーの作品だ

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