アカデミックなアプローチでファッション評論を行うライアン・イップ。彼がここ数シーズン特に注目するライジングデザイナーを掘り下げる

ライアン・イップの注目若手デザイナー、深のタイトルイメージ

ライアン・イップの注目若手デザイナー、深掘り論

アカデミックなアプローチでファッション評論を行うライアン・イップ。彼がここ数シーズン特に注目するライジングデザイナーを掘り下げる

ライアン・イップ

ライアン・イップ

香港出身、イギリス在住。ソーシャルメディアを中心に独自のレンズでファッション批評を行う。雑誌『FASHION REVIEW』の編集長。
Instagram: @ryanyipfashion

承認を得るためではなく信じるスタイルに誠実な服作り

――ライアンさんが面白いなと思うデザイナーの条件とは?

ライアン 〝強制されて作っている感〟がないことです。承認を得ようとしたりバズらせようとしたりするために、不自然な服作りをしている人も多い。そんな中、いかに自分が描くビジョンに真摯であるかということです。

――初めに挙げたHikari no Yamiは、ブランド名が日本語!

ライアン デザイナーのジャッカリー・ウィッテイカーはアメリカ人なのですが、名前が示す通り日本の繊細な感性に深く共鳴しているブランドです。彼は、ヨウジヤマモトでインターンをしていました。実は一部のアイテムの素材に、ヨウジヤマモトの古着を用いたこともあります。

――それは斬新ですね。

ライアン それ自体にプレミアムな価値がありますよね。さらに彼は、ヴァージル・アブローの奨学金制度を利
用した経歴があり、ヴァージルを尊敬しているそう。ヨウジとヴァージルはスペクトラムの両端にいるような気がするんです。前者は職人で、後者はアートディレクター。世界で何が起きているかを瞬時に嗅ぎ取り、それをコレクションにのせていました。ヨウジを尊敬している若手のほとんどがコピーで終わってしまっているなか、Hikari no Yamiは、ヴァージルのような先見性も持ち合わせていて、新しさを感じます。

Hikari no Yami

Hikari no Yami

ヴァージル・アブロー奨学金制度を獲得したジャッカリー・ウィッテイカーが2019年に設立。不完全さに美を見出した、脱構築的なアプローチが特徴
1 ライアンとジャッカリー
2・3 2025年春夏より
4 2022-’23年秋冬より

  

――LOUTHERはどういったブランドなのでしょうか?

ライアン FASHION EASTという若手デザイナーにランウェイショーを開催する機会を与える組織があるのですが、2025ー’26 年秋冬に招待され、そこでオリンピア・シーレがデザインするLOUTHERを知りました。そのほかに2人のデザイナーが発表していたんですが、LOUTHERの才能が圧倒的に際立っていた。それなのに喝采がいちばん小さくて、全然納得いきませんでした(笑)。

LOUTHERの服は、エッジがきいていてクールでありながら、オーセンティックさもある。細部の仕上げに、深い洞察力や知識の集積を感じました。コレクションにはデザイナーの多才さを示すのに十分なバラエティがあり、同時に統一性がありました。

LOUTHER

LOUTHER

ドイツ人のオリンピア・シーレによって2021年に設立されたロンドンベースのブランド。デイリーウェアからドレススタイルまで幅広く提案する
5・6・7 2025-’26年秋冬コレクションより

 

――独自のテイストがありながら、それを異なるピースとして出力する才能があるという感じですね。

ライアン 逆に一つのテーマを深く追求し続けていて、同じような服を作り続けているのがSteven Passaroです。花びら、羽根、蔦といった自然のエレメントを繰り返しコレクションに登場させています。彼のパリのスタジオを訪ねた際にジャケットを試着したのですが、テーラリングがとても上手なんですよ。スーツを基調にしつつ、自然のモチーフを組み込みながらユニークに仕立てられている。

――カテゴリーにはまらない服ですね。

Steven Passaro

Steven Passaro

スティーブン・パッサロが2019年にローンチしたパリベースのブランド
8・9 2026年春夏コレクション。テーマは「Moonlit Lover」
10・11 デザイナーのスティーブンと、試着するライアン

 

ライアン Jordan Arthur Smithも自然に愛着を持つブランドです。

――ディストピアな未来的ムードを感じる服です。リック オウエンスっぽさもありますね。

ライアン でもリックより全然、田園的ですよね。というのも、デザイナーのジョーダンは米国オハイオ州のクリーヴランドの川の近くで生まれ育った。だから彼が作る服には、川の曲線的な流れや、水面のゆらめきといったものを感じるんです。

――美しいですね。

ライアン 彼は「川」をコンセプトにした服を作り続けて4~5年たった今も、空気の流れや川の周囲にできる堆積物の話をしているんですよ。直近のコレクションテーマはRiparium(アクアリウムの一種)です。コンセプトを聞くと、いつも川や自然の話に終始して、何を言っているか全然わからない……ということがよくあります(笑)。

Jordan Arthur Smith

Jordan Arthur Smith

2020-’21年秋冬にオハイオでローンチした。布からゴムに至るまで自然由来の原料のみを利用。バクテリア染色も行う
12 当初デザイナーのウェディングスーツとして作られた、シグネチャーのジャケット
13 「Erode Collection」より
14・15 2024年春夏コレクション

 

――以上の4ブランドに何か共通項があるとするならば?

ライアン もし20年前に、新人デザイナーに「あなたの夢は?」と聞いたら、多くのデザイナーは大きなメゾンのクリエイティブディレクターになりたいと答えたでしょう。けれど僕が取材していて感じるのは、最近はそういう夢を抱くデザイナーが少なくなってきている。自分のコントロールがきかない場所でデザインするよりは、ある程度小規模に、自分が作りたいものだけを作っているほうが幸せだという人が増えてきた気がします。この反骨心や頑固さが、4名に共通することかもしれないですね。

――オンラインレビュアーとして影響力のあるライアンさん。どういったことに気をつけて発信していますか?

ライアン 新人デザイナーを紹介する際に、数字を稼ぐ目的で一度コレクションをレビューしてそれっきりというメディアが多いですよね。僕は1回紹介したら、そのあとも継続的にそのデザイナーたちとコンタクトを取って、関係性を深めていくようにしています。〝アンチアルゴリズム〟と呼ばれるような動きかもしれません。若い才能を〝バズらせ〟に使いたくないんです。

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