Olya Kuryshchuk
ウクライナ出身。セントラル・セント・マーチンズ在学中の2012年に1グラナリーを設立。情報の発信のみならず、毎年25校以上をも訪問し、学生の支援を行なっている。
マスイユウ
静岡県浜松市出身のファッションジャーナリスト。ロンドンやパリだけでなく、若い才能を求めて世界の隅々へ。ファッションプライズのスカウト、審査員を務める。現在はタイに夢中。
いきなり来た辛口コメント「私は若手の青田買いに反対!」
マスイ ファッション業界人なら読んでいるインディペンデントメディア、1グラナリーのオリヤ・クリシュチュクさんに来ていただきました! 今、いちばん若手に詳しいオリヤさん。早速だけど、注目すべき若手は誰だと思う?
オリヤ 名前を挙げる前に、一言いい? なぜ私たちは毎シーズン、若手や新人を無理やりまつり上げるのか。私はファッション業界の青田買いに反対しているんです。彼らの才能を消費するべきではない。
マスイ なるほど……その通りだよね。じゃあ、まずはなぜ「1グラナリー」(1)を始めたのかから聞かせて。
1GRANARY
デザイナーへのインタビューやレビュー、ビジネスの裏側に入り込む考察記事が満載。若手を支援する人気プラットフォームへ成長、ファッション業界に物申すコンテンツが共感を得る
オリヤ セントラル・セント・マーチンズのデザイン科に通っていた頃の話です。チューターに会えるのは週2回、5分程度で、あとは自主学習を強いられます。そんなとき、ブログを理由にすれば、先生にインタビューする名目で1時間は話が聞けると気づいたんです。その内容をブログで友達とシェアしていくうちに徐々に大きくなり、後輩の作品を発信するうちに今の形になりました。
マスイ 今の1グラナリーは、若手サポートのプラットフォームだよね。
オリヤ 起業や就職支援、よりよい未来のための問題提起をする場所ですね。
マスイ では、今のオリヤにとって、ファッションの未来といえば、誰?
オリヤ まだ無名だけど、昨年セントマの修士を卒業したばかりのジョイス・バオ(2)はいい。テキスタイルに力を入れています。「フェミニンなアーマー」とでも呼びたい。
JOYCE BAO
中国出身。’24年にセント・マーチンズの修士課程を卒業後、設立。デッドストックやアップサイクルのシルクとレースを用い、伝統的な技術で新たなフェミニズムを模索する。写真は2025-’26年秋冬
ポール・スミス ファンデーションに注目の若手が集まる!
マスイ 今はロンドンファッションウィーク中だけど、参加デザイナーで推しはいる? 私が今いちばん好きなデザイナーのヤク(3)はどう?
YAKU
’23年にセント・マーチンズの修士課程を首席で卒業。2026年春夏(写真)ではRPGの世界を通して人とのつながりを表現した。リサイクル素材を使ったテックウェアも人気
オリヤ デザイナーのヤクとパートナーのナスはセンスが鋭いよね。RPGゲームに着想を得た物語は、メンタルヘルスの問題にも根差しているそう。ブランドのコミュニティ形成にも成功していて、バックステージでは40人以上の仲間たちが手伝っていました。
マスイ パオロ カルザナ(4)は? あの退廃的な感じが好きだけど。パオロもヤクと一緒で、ロンドンのスミスフィールドにあるポール・スミス ファンデーションが開いたスタジオに入っているよね。
PAOLO CARZANA
オーガニック素材やデッドストックの布を、天然染料を用いてデザイナー自ら染め上げる。
’24年にはLVMHプライズのファイナリストに選ばれた。写真は2026年春夏コレクション
オリヤ パオロはアーティスト肌だから、ビジネスサイドを支援する人がいれば、もっとうまくいきそう。
マスイ ビジネスがうまくいってる若手って誰だろう? パリファッションウィーク公式の若手展示会スフィアに出展しているパオリーナ ルッソ(5)とか?
Paolina Russo
パオリーナ・ルッソとルシール・ギルマーの2人によるデザイナーデュオ。スポーツとフォークロアなテイストをミックス。温かみのあるニットウェアやプリントを施したデニムがシグネチャー。ルックは2026年春夏
オリヤ サステナビリティに力を入れる彼女たちの手伝いをしているのは、何を隠そう私なの(笑)。
マスイ ロンドンデザイナーのナジール・マザーは少し違う形でビジネスを支援しているね。若手デザイナーの商品を集めた、流浪のポップアップショップ「ファンタスティック・トワレ」(10)を運営しています。一点ものを求めて若手ファッショニスタが列をなしているのをよく見かける。
ファンタスティック・トワレ
2010年代にスポーティなコレクションでトレンドを牽引したデザイナー、ナジール・マザーが主宰するポップアップショップ
オリヤ すごくいいプロジェクトだよね。〝フィジカル〟が帰ってきている。
マスイ ドーバー ストリート マーケットがいち早く買いつけて話題の、伝統的なニットをモダンに解釈した新人オスカー オウヤン(6)が、今さっきロンドンでランウェイデビューしてたね。いくつか欲しいアイテムがあった。ロンドン以外では誰が気になる?
オリヤ 新人ではないけど、コペンハーゲンでカムバックを果たしたアン・ソフィー・マドセン(7)。経験値の高い女性デザイナーの存在は貴重。応援したい。
Oscar Ouyang
セント・マーチンズ卒のオスカー・オウヤンとロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学んだイボ・チェンが設立したジェンダーニュートラルなブランド。ニットウェアが得意。写真は2025-’26年秋冬コレクション
Anne Sofie Madsen
8年の休止を経て、カムバックしたコンセプチュアルなデザイナー。’09年にデンマーク王立美術アカデミーを卒業し、’12年にブランドを設立。2026年春夏コレクション(写真上)でコペンハーゲンのランウェイに復帰
マスイ カルバン・クラインのヴェロニカ・レオーニも遅咲きの典型ですね。
オリヤ アゼルバイジャン出身のセントマ卒業生、フィダン ノブルゾバ(8)。シューズで成功を収めて、安定したコレクション作りができるように。パリのオーガスト バロン(9)は雑誌メディアとしても成功しています。
マスイ ALL-INから改名したよね。AIのエラーみたいなデザインが面白かった。
FIDAN NOVRUZOVA
アゼルバイジャン出身。’20年にブランドをスタート。シューズがファッショニスタの間で人気に。現在はパリとモルドバをベースに活動中。’24年にはLVMHプライズのセミファイナリストに。写真は2026年春夏のルック
August Barron
デザイナーデュオによる、パリベースのブランド。ルック写真は2025年秋冬より
AIはファッションの未来?それとも終焉?
マスイ AIと言えば今年セントマの修士の卒業コレクションの審査をしたんだけど、グランプリを受賞したペトラ・フェゲストロム(11)をはじめ数人の学生がAIをデザインに取り入れていた。
母国スウェーデンで注目を集め、’25年のセント・マーチンズ修士卒業のショーでグランプリを受賞。プログラマーとコラボレーションし、AIをデザインに取り入れている。写真は2026年春夏コレクション
オリヤ AIを色や形のトライ&エラーに使うことで、サンプル制作コストを削減しているブランドもすでにありますからね。大手ではデザインをAIにどんどん覚えさせています。
マスイ ある若手デザイナーから、「不完全なAIとのキャッチボールが楽しい」と聞いたときには、新しいデザインツールになりうると思ったけど、AIが完全に機能するとつまらないデザインが蔓延しそう……。まだ話し足りないけど、今日はありがとう!