【教養としてのジュエリー学 vol.5】ブシュロンのヴァンドーム リズレ

パリのヴァンドーム広場に最初にブティックを構えたハイジュエラーとして、その名を轟かせるブシュロン。創業者フレデリック・ブシュロンの時代からインスピレーション源として度々用いられてきたアール・デコモチーフを、さらにモダンにアップデートした新作から目が離せない。

「ヴァンドーム リズレ」ソリテール リング〈WG、ダイヤモンド、ブラックラッカー〉¥1,386,000

「ヴァンドーム リズレ」ペンダント〈WG、アクアマリン、ダイヤモンド、ブラックラッカー〉¥2,376,000/ブシュロン クライアント
サービス(ブシュロン) ジャケット¥220,000/THE WALL SHOWROOM(GIA STUDIOS)

エメラルドカットのセンターストーンをパヴェダイヤモンドが取り囲むまばゆいデザイン。外枠のブラックラッカーも特徴的で、ジオメトリックな視覚効果を生み出している。伝統的なジュエリーの技法を踏襲して上質な宝石を用いながら、その佇まいは極めてモダン。ペンダントはアクアマリンのほかに、モルガナイトのものもラインナップ。



アール・デコの自由な空気をまとった大胆なクリエーション

本間(以下H) 他とは一線を画す前衛的なデザインで、モードラバーの間でも注目度が高いブシュロン。またしても、見事な新作が発売されました。2020年にデビューした「ヴァンドーム リズレ」コレクションに加わった、カラーストーンのペンダントです。

岡部(以下O) 実物を見たとき、あまりの美しさに胸を撃ち抜かれたような気分でした。このコレクションのアイコニックな八角形のモチーフは、言うまでもなくパリのヴァンドーム広場に着想を得たもの。今なおブシュロンのパリ本店があるこの地は、宝飾界におけるサンクチュアリとして知られています。なぜこの場所に著名なジュエラーが集まるに至ったのでしょう?

H 実はブシュロンが最初にブティックを構えたのは、観光名所として有名なパレ・ロワイヤル。18世紀には名だたるブティックやレストランが軒を連ねるパサージュ(アーケード街)として知られていましたが、19 世紀に入ると徐々に衰退していきました。そこで創業者であるフレデリック・ブシュロンが目をつけたのが、同じく1区に位置するヴァンドーム広場。彼が1893年にブティックをオープンしたことがきっかけとなり、その他のジュエラーが次々とブティックを移転。現在に至るまでその伝統が続いています。

O ブシュロンは2018年にヴァンドーム広場の本店をリニューアルオープンしています。一度訪れたことがありますが、壮麗なインテリアもさることながら、ヴァンドーム広場を一望できる開放的な造りに息をのみました。

H 歴史的建造物にも指定されるこの建物は、もともとルイ15世の時代、オルレアン公フィリップ2世の第一侍従を務めたシャルル・ドゥ・ノセの私邸でした。現在ではブティックやサロンに加え、デザインスタジオ、アトリエ、そして顧客の方が実際に宿泊するアパルトマンも併設されています。

O ブシュロンの本店に泊まるなんて、夢のよう!これまでメゾンは、ヴァンドーム広場に由来するモチーフを、さまざまな解釈でジュエリーの中に取り入れてきました。中でも「ヴァンドーム リズレ」は、ジオメトリックなシルエットに、エメラルドカットのセンターストーンを合わせたモダンな作品。代表的なダイヤモンドのリングはもちろん、新作のペンダントもアクアマリンとブラックラッカーのコントラストがアートピースのようです。

H 甘さの中にピリッとスパイスが利いている。アール・デコの象徴的なアプローチを踏襲しながら、現代的にアップデートした、まさにブシュロンらしいクリエーションです。

O 大きな宝石というと、どうしても格式高い印象になりがちですが、今回はシンプルにジャケットに合わせてみました。日常的でカジュアルなスタイルと相性がいいのも、ブシュロンのジュエリーの魅力ですよね。

H ハイジュエリーこそ肩肘張らずに取り入れるべし。これは現在メゾンのクリエイティブ・ディレクターを務めるクレール・ショワンヌの教えです。コルセットを脱ぎ捨て、ロングヘアを切り、女性たちが自分らしさと美しさを追求したアール・デコの時代。そのムードにならって自由にスタイリングに取り入れてほしいですね!

本間恵子
時計・ジュエリー専門ジャーナリスト。ジュエリーデザイナーという経歴に基づく鋭い目利きと、圧倒的な知識を武器に、幅広いメディアで活躍する唯一無二のエキスパート。

岡部駿佑
美しいものをこよなく愛するエディター。専門分野はランウェイ分析とジュエリー&ウォッチ。SPURの新YouTubeチャンネル「シュプールTV」では、ナビゲーターとしても活躍。

SOURCE:SPUR 2022年8月号「教養としてのジュエリー学」
photography: Masanori Akao〈 whiteSTOUT〉 styling: Lisa Sato〈 BE NATURAL〉 hair & make-up: Ryoki Shimonagata model: Beatriz text: Shunsuke Okabe