1874年、時計産業が盛んなスイスのジュラ山脈で創業されたピアジェ。ウォッチメーカーでありながらジュエラーでもあるという独自のポジションを確立し、モダンなクリエーションを生み出し続ける名門を象徴するコレクションから、その美意識とクラフツマンシップに触れる
※この特集中、以下の表記は略号になります。PG(ピンクゴールド)、WG(ホワイトゴールド)
メゾンの4代目会長の名を冠したバラの花「イヴ・ピアジェ ローズ」。その花に着想を得て2005年にデビューしたコレクション。可憐な花弁の表情を、オープンワークや彫金などさまざまな表現でジュエリーに落とし込んでいる。卓越したディテールワーク、高い品質のダイヤモンド、ピアジェの美意識を余すところなく凝縮した珠玉のクリエーションだ。
多様な表情を見せるバラの魅惑的なアリュール
岡部(以下O) ピアジェといえばメゾンを代表するのが、高精度の薄型時計。しかし時計作りで培った高い技術と、上質な素材を惜しみなく用いたジュエリーも見逃せません。
本間(以下H) 1960年代にピアジェの名を世界に轟かせたのが、オーナメンタルストーンを文字盤に用いたジュエリーウォッチ。当時文字盤にカラフルな素材を用いることは極めて珍しく、ファッション界の新たな潮流の後押しもあり、高い人気を博しました。
O 時計とジュエリー、いずれにおいても革新的な提案をしてきたピアジェ。アイコンといえば、コンテンポラリーな「ポセション」が真っ先に思い浮かびますが、今回フォーカスするのはひと目見て心躍る、とびきりロマンティックな「ピアジェ ローズ」です。バラをモチーフにしたジュエリーはよく見かけますが、メゾンのシグネチャーとして打ち出しているのは意外に珍しいように思います。
H 創業家4代目会長のイヴ・ピアジェは無類のバラ好きとして名をはせています。ジュネーブで毎年開催される国際的なバラの新品種コンクールを支援しており、1982年には同コンクールで優勝した品種が「イヴ・ピアジェ ローズ」と名付けられました。
O 鮮やかなフューシャピンクの花ですよね。芍薬のように幾重にも重なる花弁がドラマティック、それでいて散りゆく様はどこか儚げ。名作『美女と野獣』も彷彿されます。
H 私はこのバラやジュエリーを見ると、ローレンス・アルマ=タデマの『ヘリオガバルスの薔薇』を思い出すんですよね。古代ローマ帝国の第23代皇帝、ヘリオガバルスを題材にした作品で、天井からバラの花が降り注ぐ享楽的な宴の様子を描いたものです。
O なんてデカダンな世界観! シンボリカルな花だからこそ、さまざまな解釈ができますよね。たとえばホワイトゴールドのピアスは、グラフィカルな造形がモダンな印象です。
H よく見ると、一つひとつの花弁を個別に形成して組み合わせていますね。同じくオープンワークのリングも、センターのダイヤモンドだけ別のリンクにつなげることで、やわらかな動きを表現している。モチーフ自体は大ぶりですが、肌が透けて見えるので軽やかさが失われていないのが見事です。
O 一方で、大小さまざまなバラのブーケを表現したリングは、細かな彫金がクラシカルな印象です。これぞ職人技、と唸らずにはいられません。
H このリングの花弁に施された彫金は、ピアジェのジュエリーウォッチのブレスレットによく取り入れられる「パレス装飾」の技術を用いたもの。こういった細やかな手仕事に、スイスブランドの生真面目さが表れていますよね。
O 実物を見ると、造形の美しさもさることながら、用いているダイヤモンドの煌めきにも目を奪われました。
H よく気がつきましたね! 実はピアジェではメレ石を含むすべてのダイヤモンドに、Gカラー以上、VVS2以上という厳格な基準を設けているんです。一般的にはあまり知られていないことですし、この輝きの違いに気がつくのはさすがの目利きぶりですね。
O 本間さんの足もとにも及びません……精進します!
本間恵子
時計・ジュエリー専門ジャーナリスト。ジュエリーデザイナーという経歴に基づく鋭い目利きと、圧倒的な知識を武器に、雑誌をはじめ幅広いメディアで活躍する唯一無二のエキスパート。
岡部駿佑
美しいものをこよなく愛するエディター。専門分野はランウェイ分析とジュエリー&ウォッチ。SPURのYouTubeチャンネル「シュプールTV」では、ナビゲーターとしても活躍。
SOURCE:SPUR 2022年10月号「教養としてのジュエリー学」
photography: Masanori Akao 〈whiteSTOUT〉 styling: Lisa Sato 〈BE NATURAL〉 hair & make-up: Ryoki Shimonagata model: Monika text: Shunsuke Okabe