【オーデマ ピゲ】の名品「ロイヤル オーク」。1970年代に誕生したアイコンウォッチは永遠に進化する!【名品時計物語】

名品と呼ばれる時計の、背景にある物語にフォーカスする連載の第3回。今回はオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」に着目してみよう。

名品と呼ばれる時計の、背景にある物語にフォーカスする連載の第3回。今回はオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」に着目してみよう。

ミュージシャン、マーク・ロンソンとレイによる『Suzanne(スザンヌ)』という曲をご存じだろうか。これはオーデマ ピゲ150周年を記念して創作されたオリジナル楽曲。グルーヴなメロディにのせて、ブランドの祖であるスザンヌ・オーデマを彷彿させる女性のストーリーが歌われている。音楽と時計という、意外な組み合わせ。歌で世界中の人々に思いを届けるという新しい挑戦は、老舗のウォッチメーカーでありながら柔軟な思考の持ち主のオーデマ ピゲだからこそ、実現できたことだ。1875年から今日まで、大資本の傘下に入らず家族経営による独立性を保った企業として、いくつもの試練に大胆な決断を下して打ち勝ってきたメゾン。その根底にはファミリーが共有する、いつも時代と共にあって、フロンティアスピリットとチャレンジを忘れない精神があった。

オーデマ ピゲと音楽 レンズ オブ ブランドを務めるマーク・ロンソンと、新たにAPファミリーに加わった新星、現在の英国を代表するシンガーソングライターのレイ。

オーデマ ピゲと音楽の関わりは、「ミュージックアーティストと時計師、クラフツマンたち、時計愛好家の人々を世界各地で結びつけることにより、オーデマ ピゲはそのDNAに刻まれた家族的な精神を広めます」とのメッセージとともに始まった。写真は長年にわたりフレンズ オブ ブランドを務めるマーク・ロンソンと、新たにAPファミリーに加わった新星、現在の英国を代表するシンガーソングライターのレイ。ふたりは創業150周年を記念して、コラボレーションによる楽曲を創作した

たとえばアイコンウォッチ「ロイヤル オーク」。1960年代後半から日本発のクォーツが世界を席巻し、スイスの機械式時計産業は大打撃を受けた。そんな中、新たな腕時計のビジョンを掲げて誕生し、またたく間に機械式復権の象徴となったのが、このモデルだった。当時の腕時計の常識に真っ向から対抗するモデルを世に送り出せたのは、オーデマ ピゲが将来を見通した革新を決断できたからに他ならない。そうして誕生した時計が、今なお人々の心をとらえ続けている理由を探ってみよう。

女性にも似合う! 「ロイヤル オーク」を厳選

時代とともに進化を続ける「ロイヤル オーク」には、文字盤、ケース、ブレスレットの素材と色の組み合わせが豊富に揃っている。その中から、女性の手もとをチャーミングに彩るモデルをご紹介しよう。

ロイヤル オーク オートマティック

ロイヤル オーク オートマティック

時計「ロイヤル オーク オートマティック」〈37mm/SS、グランド タペストリー模様のダイヤル、自動巻き、50m防水〉¥3,960,000

1972年に誕生したファーストモデルに着想を得た自動巻き。150以上ものパーツによって構成される一体型ブレスレットは、時計業界で最も複雑な構造のひとつに数えられている。デニムに合わせて、カジュアル&シックな着こなしを楽しもう。

ロイヤル オーク オートマティック

ロイヤル オーク オートマティック

時計「ロイヤル オーク オートマティック」〈34mm/K18PG、SS、グランド タペストリー模様のダイヤル、自動巻き、50m防水〉¥4,345,000

ピンクゴールドとステンレススティールのコントラストがモダンなデザインに、大人っぽいグレーの文字盤がスパイスを効かせて。ジャケットやシャツなどのワーキングスタイルにもマッチする。

ロイヤル オーク ミニ フロステッドゴールド クォーツ

ロイヤル オーク ミニ フロステッドゴールド クォーツ

時計「ロイヤル オーク ミニ フロステッドゴールド クォーツ」〈23mm/K18YG×鍛金加工、プチタペストリー模様のダイヤル、クォーツ、50m防水〉¥5,225,000

1997年に発売された「ミニ ロイヤル オーク」に想を得て誕生したモデル。ゴールドの表面に施された加工は、フィレンツェに伝わる装飾技法によるものだ。ドレスにもブラウスにもジュエリー感覚で着けられて、これだけで存在感抜群!

ロイヤル オーク クロノグラフ

ロイヤル オーク クロノグラフ 38mm SS ダイヤモンド

時計「ロイヤル オーク クロノグラフ」〈38mm/SS、ダイヤモンド、グランド タペストリー模様のダイヤル、自動巻き、50m防水、クロノグラフ機構〉¥6,270,000

ベゼルにダイヤモンドをあしらった、リュクスなスポーツウォッチ。華やかな外観にクロノグラフ機構を備えた、才色兼備な個性が際立つ。あえて柔らかな素材のロマンティックな服に合わせるのも素敵。

ロイヤル オーク オートマティック

ロイヤル オーク オートマティック  34mm/K18PG 

時計「ロイヤル オーク オートマティック」〈34mm/K18PG、グランド タペストリー模様のダイヤル、自動巻き、50m防水〉¥8,250,000

ピンクゴールドと同系色の文字盤の華やかな組み合わせが、手もとを明るくリッチな表情に見せてくれる。カシミヤニットの袖口から、さりげなくのぞかせて。

ロイヤル オーク オートマティック

ロイヤル オーク オートマティック  37mm K18YG、ターコイズ

時計「ロイヤル オーク オートマティック」〈37mm/K18YG、ターコイズ、自動巻き、50m防水〉¥9,570,000

ターコイズの鮮やかなブルーと、イエローゴールドのエレガントなコンビネーションに、目と心を奪われる。夏はTシャツ、冬はボリュームあるコートやダウンに合わせて、エフォートレスに着けこなしてみたい。

スイスの雪深い山村で創作を続ける【オーデマ ピゲ】とは?

オーデマピゲ 誕生の地 スイス・ジュウ渓谷

スイス高級時計の発祥の地、ジュウ渓谷。「ジュウ渓谷」という名前は、「森の谷」を意味する

ブランドの誕生は19世紀に遡る。16世紀に始まった宗教改革の影響で、弾圧を受けてフランスから逃れてきた新教徒たちが、 徐々にスイス・ジュウ渓谷に定住。夏は農業や牧畜業に従事し、雪に閉ざされてしまう冬の仕事として、時計製作をスタートした。なかでも機械式時計製作において群を抜いていた2つの家族、オーデマ家とピゲ家。ピゲ家は13世紀にジュウ渓谷に定住した、開拓のパイオニア。一方オーデマ家は16世紀にフランスからジュネーブに逃れ、その後ジュウ渓谷で最も人里離れた地域に住むようになった。その中のひとり、ブランド直系の祖にあたるスザンヌ・オーデマは、宝石細工と薬草学に精通した、芯の強い女性だったという。彼女は迫害や疫病といった大きな苦難を乗り越え、3人の息子に時計職人の技術を学ばせた。そのことが、子孫を時計製作の道へ導く礎となった。

オーデマピゲブランド創業者のジュール₌ルイ・オーデマとエドワール₌オーギュスト・ピゲ

ブランド創業者のジュール₌ルイ・オーデマとエドワール₌オーギュスト・ピゲ

1875年、ブランド創業者のジュール₌ルイ・オーデマとエドワール₌オーギュスト・ピゲが、ル・ブラッシュ村に共同で工房を開いた。これが現在に続く、オーデマ ピゲの始まりだ。ブランド名は2つの家の名前に由来する。ル・ブラッシュ村は15世紀以降、山からとれる鉄鉱石と溶鉱炉を背景に、最初は鉄製だった時計の製作の受け皿となっていた。この村の自然に恵まれた環境が、メゾンのクリエイションを後押しした。たとえばジュウ渓谷の夜空に輝く星は、天体を表した複雑機構の開発の着想源になっただろう。当時から今に至るまでここを本拠地とするメゾンのクリエイターたちに、手つかずの自然が大きな影響を与えているのは確かだ。

オーデマ ピゲ ビエンヌのルイ・ブラント&フレール社と共同で、史上初のリピーター機能を搭載した腕時計を製作

オーデマ ピゲはビエンヌのルイ・ブラント&フレール社と共同で、史上初のリピーター機能を搭載した腕時計を製作

こうして誕生したオーデマ ピゲは、希少性の高い複雑機構を搭載した時計に注力。懐中時計が一般的だった1891年に、初のミニッツリピーターを備えた腕時計を発表し、技術力の高さを世界に示す。ベルリン、ロンドン、パリ、ニューヨークに店舗を構え、高い品質への信頼を得て、世界恐慌と第二次大戦という大きな危機を乗り越えた。

腕時計の概念を変えた【オーデマ ピゲ】「ロイヤル オーク」

【オーデマ ピゲ】の名品「ロイヤル オーの画像_11

1972年、ロイヤル オーク5402STの見本写真

大戦後の1960年代後半、メゾンは大きな危機「クォーツショック」に直面した。その最中の1972年にメゾンから、時計デザインの巨匠ジェラルド・ジェンタによる「ロイヤル オーク」が誕生。名称はこの時計のデザインが、イギリスの軍艦ロイヤル オーク号の舷窓にインスパイアされたことに由来すると言われている。

【オーデマ ピゲ】の名品「ロイヤル オーの画像_12

ロイヤル オークモデル5402STのケースの技術仕様書 

発売と同時に、当時は相いれないと考えられていたラグジュアリーとスポーティの2つのマインドを融合した斬新なデザインと、破格のラージサイズ39mm径が話題のまとに。しかもラグジュアリーウォッチの素材はゴールドやプラチナが主流だった時代に、価値が低いとされていたスティールを用い、それにも関わらず高級時計の価格。八角形のベゼルには工業用のビスをあしらって、アバンギャルドさが際立っていた。一方で文字盤のギヨシェによるプチタペストリーや、ブレスレットとケースに施されたサテン仕上げとポリッシュ仕上げの洗練された組み合わせなど、ラグジュアリーウォッチのコードをしっかり備えていた点を見逃すことはできない。また製作は、最高峰の技術を持つ職人たちが担当した。

【オーデマ ピゲ】の名品「ロイヤル オーの画像_13

ロイヤル オーク5402は、1972年から1976年までの間、オーデマ ピゲが製作した唯一のロイヤル オーク

このように異なる2つの要素を融合する際のバランス感覚の良さと、完成度の高さ。さらに時代を先取りする独創性が相まって、ロイヤル オークは基本的なデザインはそのままに、時代と共に進化し続けている。またその評価も、時を経るごとに高まっているのだ。

女性による女性のための「ロイヤル オーク」レディスモデル誕生

「ロイヤル オーク」誕生の4年後の1976年、前年に女性初のプロダクトデザイン部門の責任者 ジャクリーヌ・ディミエ

1975年から1999年までオーデマ ピゲで女性初の商品デザイン部長のキャリアを務めたジャクリーヌ・ディミエ

「ロイヤル オーク」誕生の4年後の1976年、前年に女性初のプロダクトデザイン部門の責任者となったジャクリーヌ・ディミエが手がけた、レディスモデルが発表された。女性解放が叫ばれ始めた時期に登場した、女性による女性のための時計。ディミエは「本質的に男性用の時計、しかもレジェンドであるジェラルド・ジェンタの作品に手を加えるというミッションは、かなりの重圧でした。私は時計としての基本的な特徴は残しつつ、その比重に集中することにしました。当時のレディスのトレンドに反して、大きいサイズにしようと考えました」と語っている。男性用モデルをただサイズダウンするのではなく、着用する女性を主役に据えて時代の空気を反映したデザインから、ディミエが作品に託した新たな価値観が伝わってくる。

「ロイヤル オーク」レディスモデルのデザインと創造性

ジャクリーヌ・ディミエ、ロイヤルオーク レディスモデル ケースサイズ29mm

ジャクリーヌ・ディミエは、レディスモデルのケースサイズを29mmに定めた。そしてオリジナルモデルの象徴的なポイントである八角形のベゼルと、そこにあしらわれたビスを生かしつつ、秘められた女性的な表情に着目した。それは手仕上げのスティールケースと、ダイヤモンドのようにきらめくブレスレットの繊細な仕上げ。さらに重要だったのは、わずか15.4mm径という極小のキャリバー2062を搭載したこと。じつは1875年のマニュファクチュール創立以来、メゾンは男性用の複雑時計と並行して極小のレディスウォッチ製作を得意とし、ミニチュア化を極限まで追求してきた。

1894年にティファニーの名前で販売された女性用ミニッツリピーター

たとえば1894年にティファニーの名前で販売された女性用ミニッツリピーターのように、有名ジュエラーからの依頼で製作した作品も多い。こうした実績が、「ロイヤル オーク」レディスモデルに花開いたのだ。この時計のお披露目はバーゼルフェアではなく、パリのジュエラー、フレッドのブティックで行われ、製作が追いつかないほどの注文が殺到したという。このような小型化の流れは、現在まで受け継がれている。

ロイヤル オーク フロステッドゴールド ジュエリーデザイナーのキャロリーナ・ブッチとのコラボレーション

その後さまざまなバリエーションを加えたレディスモデルの中で、40周年記念の「ロイヤル オーク フロステッドゴールド」に注目したい。ジュエリーデザイナーのキャロリーナ・ブッチとのコラボレーションにより誕生した作品には、フィレンツェの伝統的な装飾技法である鍛金加工が用いられ、ゴールドケースとブレスレットにダイヤモンドダストのようなエフェクトが輝く。この技法は、2024年に発売された「ロイヤル オーク ミニ フロステッドゴールド クォーツ」にも用いられている。

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