【エルメス】の名品時計「ケープコッド」とは? 自由な発想から生まれたヘリテージウォッチ【名品時計物語】

名品と呼ばれる時計の、背景にある物語にフォーカスする連載の第4回。今回はエルメスの「ケープコッド」に着目してみよう。

名品と呼ばれる時計の、背景にある物語にフォーカスする連載の第4回。今回はエルメスの「ケープコッド」に着目してみよう。

1991年の誕生以来ベストセラーとなっている「ケープコッド」。発売から30年以上たった今も、魅力が色褪せることはない。人気モデルのラインナップと、これまであまり知られてこなかった作品の背景を通して、その秘密にせまる。

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永遠のベーシックモデル

ケープコッド

時計「ケープコッド」〈31×23mm/SS、シルバーオパーリン製文字盤、スイス製クォーツ、カーフ(バレニア)ストラップ〉¥488,400 © Hermès

ファーストモデルに最も近い、クールな雰囲気を持つモデル。ストラップは、子牛のレザーを用いてエルメスならではのしなやかな風合いに仕上げられた、バレニアカーフ。使い込むほどに味わいを増す、オンリーワンのレザーだ。

お洒落上級者向けホワイトストラップ

エルメス 時計 ケープコッド

時計「ケープコッド」〈31×23mm/PG、ダイヤモンド、MOP文字盤、スイス製クォーツ、アリゲーターストラップ〉¥1,316,700 © Hermès

シルクシフォンのドレスやオーガンジーのブラウスにも似合う、エレガントな一本。ダイヤモンドは計0.02ct。

アイコニックなオレンジで楽しさ倍増

エルメス 時計 ケープコッド

時計「ケープコッド」〈31×23mm/SS、シルバーオパーリン製文字盤、スイス製クォーツ、カーフ(ヴォー・スウィフト)ストラップ〉¥488,400 © Hermès

カジュアルな日常着とコーディネートして、エルメスカラーのオレンジで気分を上げよう。

シックなバイカラーのブレスレットモデル

エルメス 時計 ケープコッド

時計「ケープコッド」〈31×23mm/SS、 YG、シルバーオパーリン製文字盤、スイス製クォーツ、バイカラーブレスレット〉¥1,072,500 © Hermès

しなやかに腕に沿うブレスレットは、ステンレススティールとイエローゴールドの小粋な組み合わせ。

黒のドゥブルトゥールでマニッシュに

エルメス 時計 ケープコッド

時計「ケープコッド」〈37×29mm/SS、ホワイトラッカー仕上げ文字盤、自動巻き、カーフ(バレニア)ドゥブルトゥールストラップ〉¥611,600 © Hermès

やや大きめの文字盤とバレニアカーフのドゥブルトウールを組み合わせたモデルは、白いシャツに合わせたくなる。

グレージュの洗練が際立つモデル

エルメス 時計 ケープコッド

時計「ケープコッド」〈31×23mm/SS、ダイヤモンド、MOP文字盤、スイス製クォーツ、カーフ(ヴォー・スウィフト)ドゥブルトゥールストラップ〉¥672,100 © Hermès

エルメスで「エトゥープ」と呼ばれる独特のグレージュカラー。程よいボリューム感で、コートの季節にも活躍してくれそうだ。

エルメスの時計、誕生の歴史

利便性と美しさを両立した独自の時計づくり

1928年、エルメスはメゾンを象徴するモチーフを配した時計を、フォーブル・サントノーレ24番地の本店で発表。時計製造に乗り出した。スイスの名だたるウォッチメーカーによるムーブメントを搭載した時計に、ストラップを中心とした皮革のパーツを組み合わせたモデルは、伝統的なサヴォワールフェール(職人の技)を持つメゾンの特性を生かしたものだ。

1930年頃には、手首の振動による時計機構のダメージを避けるために、「ベルト・ウォッチ」や「バッグ・ウォッチ」が作られた。また世界中のタイムゾーンを表示する旅行時計も、いち早く誕生。このような独創性は、今日まで貫かれている。

エルメス 1928年誕生 時計

1928年に発表された「エルメト」という名のポケット・ウォッチ。スライドして開閉するシャッターシステムによって、自動的に巻き上げられる構造は、スイスの時計マニュファクチュールであるモバードと共同で製造された。エルメスのレザー製ケースを備えている。 ©Paul Lepreux

エルメスにとってレザーは、最もなじみの深い素材。20世紀に入って旅やスポーツが注目を集めるようになると、従来の乗馬関連の品のみならず、時代の空気を反映したレザーの使い方が見られるようになった。その象徴のひとつが、時計だった。2006年に、レザーストラップの製作に特化したアトリエを設立。エルメスは時計を最初から最後まで社内だけで製造できる、唯一のメゾンとなった。

「ケープコッド」誕生

【エルメス】の名品時計「ケープコッド」との画像_10

1991年に発表された、「ケープコッド」のファーストモデルのひとつ。 ©Henri d’ORIGNY

20世紀初頭からの流れを受け継いで1991年に誕生したのが、「ケープコッド」。デザイナーのアンリ・ドリニーは、長方形に正方形を組み合わせた独創的なスタイルを生み出した。イメージの源は、1938年にロベール・デュマが考案したモチーフ、シェーヌ・ダンクル。船の錨のチェーンに想を得たコマの半分2つを、それぞれケースの上下に組み合わせている。

それまでになかったフォルムを持ち、腕に沿うようにカーブを描くケースは画期的なものだった。チェーンとしてブレスレットやネックレスに用いられてきたシェーヌ・ダンクルを、部分的に時計のケースに応用する自由な発想に、エルメスの本領が発揮されている。

エルメスの時計製造の背景を探る

1978年エルメスはスイス時計産業の中心地ピエンヌに、時計専門の子会社「エルメス・オルロジェ社」を設立した。それ以降徐々に時計製造の専門技術を取り込みながら、独自の時計コレクションを創り上げてきた。ひとつの時計が完成するまでの過程を、簡潔にふりかえってみよう。

【エルメス】の名品時計「ケープコッド」との画像_11

スイス・ビエンヌにある「エルメス・オルロジェ社」。ここにはアッセンブリ(時計の組み立て)と、レザー工房の作業を行うアトリエがある。

時計の心臓部といわれる、ムーブメント。この分野でエルメスは、19世紀から続くスイスの高級時計の歴史を継承する、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエと連携している。そこはムーブメントの構想、開発、製造を一貫して手掛ける、スイスでも稀有なメーカーのひとつだ。6700平方メートルの近代的な建物で、5種類のムーブメント(自動巻き、手巻き、超薄型、大型パワーリザーブ搭載、コンプリケーション搭載)を一貫製造できる。ここでエルメスのために、3種類のムーブメントが開発されている。

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ムーブメントを保護し、同時に時計の個性を伝える役目を担うケース。その裏面には、確かな品質を保証するかのように、エルメスの刻印が施される。

文字盤とケースは、作業ごとにさまざまな専門のアトリエを巡って製作される。各時計のデザインによって用いる手法が異なり、その分野に長けたアトリエが選ばれる。「ケープコッド」のケースは、特徴的な曲線と丸みを帯びた形状に仕上げるため、熟練職人が巨大なカシメプレス機のハンマーで、場所を変えながら叩いて加工する。この作業の合間に、窯に入れて焼成し、素材を収縮させる工程が加わる。このように手間をかけて製作したさまざまなパーツが「エルメス・オルロジェ社」のアトリエに集められ、組み立てられる。ストラップは社内にあるレザーのアトリエで製作され、時計本体に装着される。こうして、ようやくひとつの時計が完成するのだ。

馬具製造で培ったレザーへのこだわりから始まった、エルメスの時計製造。そこから創業以来の自由な発想による、従来の常識にとらわれないモデルが生まれた。やがて卓越した職人の技という共通項を得て、時計本体の製造にも本格的に携わるように。そして現在では、時計に関わるすべてを自社内で調達できる、オンリーワンのメゾンとなっている。その根底に流れる独創性と洗練の融合、そして利便性と美しさの両立を備えた「ケープコッド」に注目しよう!