ヴァン クリーフ&アーペル、ブシュロン、ショーメ……。世界を代表するジュエリーメゾンが、長い歴史の中で培われたサヴォアフェールを凝縮したハイジュエリーを今年も発表した。今回は、2026年の最新コレクションでもとりわけ目を引いたマスターピースをピックアップ。ハイジュエリーのトレンドや新たな潮流とともに紹介する。
ヴァン クリーフ&アーペル、ブシュロン、ショーメ……。世界を代表するジュエリーメゾンが、長い歴史の中で培われたサヴォアフェールを凝縮したハイジュエリーを今年も発表した。今回は、2026年の最新コレクションでもとりわけ目を引いたマスターピースをピックアップ。ハイジュエリーのトレンドや新たな潮流とともに紹介する。
【ハイジュエリー】とは?|年に一度発表される、世界最高峰のジュエリークリエーション
毎年7月、パリ・オートクチュールの華やぎと呼応するように披露されるハイジュエリー。選び抜かれた希少な宝石に、脈々と受け継がれてきたサヴォアフェールと創造性を注ぎ込んだ作品は、さながら身にまとうアートと呼ぶにふさわしい。8つのメゾンが発表したコレクションから、ため息が出るような作品をご覧あれ。
【2026年新作から読む最新トレンド】贅を極めたクリエイションに、新たな価値観を携えて
ハイジュエリーは、金庫に眠らせておくだけのものではない。2026年の新作を取材するなかで、そんな思いが幾度となく脳裏をよぎった。息を呑むほど大粒の宝石に、気の遠くなるような時間を費やした彫金やジェムセッティング。文字通り世界にひとつしか存在しないハイジュエリーは、その圧倒的な希少性ゆえ、近年では資産価値の観点からも注目を集めている。しかし、今年のクリエイションから浮かび上がったのは、価値を所有することから、より自由にまとうことへの意識の変化だ。
象徴的なのが、希少なプレシャスストーンと、従来の宝石のヒエラルキーでは必ずしも最上位に置かれてこなかったオーナメンタルストーンとの大胆な邂逅。さらには、ひとつの作品がネックレスからブレスレットへと姿を変えるなど、日常の装いにも対応するマルチウェアの提案も目立った。
なかでも際立つのが、カラーストーンの百花繚乱ともいうべき多様性だ。ルビー、サファイア、エメラルドという伝統的な貴石にとどまらず、近年ますます存在感を高めるパライバトルマリンを筆頭に、パパラチアサファイア、インペリアルトパーズ、タンザナイト、ジルコンまで。色も個性も異なる宝石が主役の座を射止め、ハイジュエリーのパレットをかつてないほど豊かにしている。
その自由は、身につける人にも及ぶ。ブシュロン、エルメス、MIKIMOTOのプレゼンテーションでは男性モデルが登場し、ジュエリーとジェンダーをめぐる旧来の境界を軽やかに横断した。富や権力を象徴する至宝から、個人の美意識を雄弁に物語るスタイルへ。2026年のハイジュエリーは、その価値を金庫の中ではなく、着用する人の身体の上で更新されようとしている。
2026年最新ハイジュエリー詳報
【ヴァン クリーフ&アーペル】サプライズに富んだ宝石の組み合わせで表現する、古代エジプトの神秘
ヴァン クリーフ&アーペルが発表した最新ハイジュエリーコレクション「エジプトの魅惑」。約180点にも及ぶ壮大なコレクションでは、ファラオやクレオパトラ、古代エジプトの神々を題材に、象徴的なモチーフを大胆な造形へと昇華している。その世界観をさらに鮮烈に印象づけるのが、意表を突く宝石の組み合わせ。ダイヤモンドやエメラルド、ルビーといった希少な貴石に、ターコイズ、ラピスラズリ、マラカイトなどのオーナメンタルストーンをラピダリー(宝石彫刻)で取り入れ、グラフィカルな構図を描き出した。
【ブシュロン】5つのイノベーティブなアプローチで切り拓く、ハイジュエリーの新境地
年に2度、1月と7月にハイジュエリーコレクションを発表するブシュロン。なかでも7月は、フランス語で「白紙委任」を意味する「カルト ブランシュ」と位置づけられ、クリエイティブ・ディレクター、クレール・ショワンヌの革新的なビジョンを提示する場となってきた。今年のテーマは「ヒューマン ビーイング」。人間が内包する多面性と多様性を、まったく同じフォルムを起点に、5つの異なるアプローチによるネックレスとリングへと展開した。
「宝石の扱いと技術革新を際立たせるため、異なる形状のモチーフが連なる“クラスターネックレス”を共通のフォーマットに選んだクレール。実は、彼女自身がこれまであまり好んでこなかったスタイルだそう。誰が見てもハイジュエリーと認識できる普遍的なデザインを模索するなかで、西洋絵画に描かれた宝飾品をはじめ様々な文献を研究、多角的な考察の末にこのフォルムへとたどり着いたといいます」
【ショーメ】五感に訴えかける、宝石とスパイスの魔力
創業者マリ=エティエンヌ・ニトが自らを「ナチュラリスト・ジュエラー(自然主義のジュエラー)」と称したように、自然主義という揺るぎないメゾンコードへと立ち返ったショーメ。今年はバニラやミント、サフラン、茶、八角など、芳香を放つ植物やスパイスに着想。目には見えない「感覚」をジュエリーという言語へと抽象的に翻訳した。伝統的なグランフーエナメルによってサフランの花の繊細な色彩の移ろいを描くなど、長い歴史の中で培われたサヴォアフェールが随所に光る。
「ショーメは、老舗ジュエラーが軒を連ねるヴァンドーム広場でも、とりわけ長い歴史を誇るメゾン。デザインチームを率いるオルガ・コルシニさんが今回着目したのは、スパイスが秘める目には見えない魅力です。バニラの花を表現したネックレスをよく見ると、包み込むような感覚を抽象表現した渦巻き状のフォルムが潜んでいるなど、歴史あるメゾンならではの技術に、フレッシュな遊び心が軽やかに差し込まれています」
【シャネル】マドモアゼルの人生を彩ったシンボルが、宝石で蘇る
ミシア・セールやジャン・コクトーをはじめ、マドモアゼルと親交を結んだ芸術家たちが集った南仏の邸宅「ラ・パウザ」。この私的な場所を舞台に披露された今年のハイジュエリーは、コメット、カメリア、リオンなど、彼女の人生とメゾンの歴史を彩ってきた象徴が自在に交差。鮮やかなカラーストーンを大胆に掛け合わせ、アーカイブの記憶をモダンなクリエイションへと更新した。
「2024年にファインジュエリー クリエイション スタジオのディレクター、パトリス・ルゲローが急逝し、デザインチームによって完成された今回のコレクション。メゾンの歴史を見つめ直す内省的な視点を持ちながら、オーナメンタルストーンの大胆な使い方など、コンテンポラリーな仕掛けが随所に光ります。オートクチュールだけでなく、ハイジュエリーの世界でも確固たる地位を築いてきたシャネル。後任に就いたマリー=ロール・セレードが、そこにどんな化学反応をもたらすのか期待が高まります」
【エルメス】駆け巡るイマジネーションから生み出される、珠玉のアートピース
2年に一度発表される、エルメスの語彙でハイジュエリーを意味する「オートビジュトリー」。第9章となる今回は、メゾンの原点である馬具に着想を得て、馬を比喩的に表現した「Into The Horsescape(馬たちのいる光景)」をテーマに、90点余りを披露した。馬の頭や銜、鐙など、馬と人を結ぶモチーフを、大胆かつ彫刻的なフォルムへと変換している。
「通常、ハイジュエリーは主役となる宝石を起点に、その石を引き立てるデザインが組み立てられることが多いもの。対してエルメスでは、あくまでデザインが先に立ちます。ピエール・アルディの奔放なイマジネーションを、この上なく贅沢な素材と技術によって具現化する。そのアプローチは、さながら身につけるアートのよう。一方で、大ぶりなチョーカーの内部をくり抜いて軽量化するなど、装着感への配慮も抜かりありません」
【フレッド】伝説のイエローダイヤモンドを取り入れたマスターピース
創業者フレッド・サミュエルがこよなく愛したフレンチ・リヴィエラを舞台に、2022年から続いてきたトリロジー。その最終章を飾るハイジュエリーコレクションが「ムッシュ フレッド ゴールデンライト」だ。華やかなガラパーティーの余韻から、月光を映す水面、そして街を黄金色に染め上げるゴールデンアワーまで。一日の時間とともに刻々と表情を変えるリヴィエラの光景を、5つのパリュールに封じ込めた。
「門外不出のイエローダイヤモンド『ソレイユ ドール』を据えたネックレスは、思わず息を呑むほど神々しい輝き。センターストーンを引き立てるよう、繊細な地金に放射状に配されたダイヤモンドが、フレンチ・リヴィエラを満たす温かな陽光のように煌めきます。創業90周年という節目を祝うにふさわしい、メゾンの歴史そのものを映すパトリモニー・ピースです」
【MIKIMOTO】夜空の星の煌めきに想いを馳せて
果てしない宇宙に瞬く天体、その刹那の輝きをジュエリーへと写し取ったMIKIMOTOのハイジュエリーコレクション「レクラ」。パールを連ねた立体的な造形を軸に、ダイヤモンド、トルマリン、サファイア、ジルコンなど個性豊かなカラーストーンを交錯させ、日本ならではの繊細な美意識を映し出した。
「本年度メット・ガラでエミリー・ブラントが着用したボディジュエリーなど、独創性の高い作品が揃ったMIKIMOTO。近年は男性セレブリティの着用も目立ち、ヴァンドーム広場の展示会場には、俳優の渡辺謙さんやNumber_iの神宮寺勇太さんも、美しいハイジュエリーを身にまとって来場しました」
【ポメラート】自由な感性と卓越した職人技で描き出す、折衷主義の粋
イタリア語で「自由」を意味し、メゾンのクリエイションを貫く精神でもある「リベロ」を掲げたポメラートのハイジュエリー。19世紀スペインで興隆した芸術運動「エクレクティシズム」の精神を受け継ぎながら、現代アートにも通じる大胆なプロポーションへと展開した。意表を突くカラーストーンの配色、精緻なパヴェセッティング、そして卓越した金細工から生まれるしなやかなチェーン。ポメラートのDNAが、随所に鮮やかに表れている。
「プレタポルテの感覚をジュエリーへ持ち込んだポメラートが、本格的にハイジュエリーコレクションを発表したのは2020年。ファッション感覚でまとえる軽やかさはそのままに、希少な宝石と高度な金細工の技術を凝縮した、唯一無二の作品が揃います。4本のブレスレットを連結したロングネックレスも実際に試着しましたが、身体に吸いつくようなそのしなやかさには、思わずため息が漏れました」
1990年生まれ。大学在学時よりアシスタントとして経験を積み、フリーランスのエディター、スタイリストとして独立。『SPUR』をはじめモード誌を中心に寄稿する傍ら、クリエイティブディレクションやメディア出演、YouTubeチャンネル「CARTE BLANCHE」のプロデュースなど幅広く活動。
















「『アルハンブラ』や『フリヴォル』など、ロマンティックで可憐なデザインで知られるヴァン クリーフ&アーペルですが、実はエキゾチシズムに満ちた独創的なハイジュエリーもメゾンの真骨頂。今回は、表から見える意匠だけでなく、作品の裏側に“VCA”のイニシャルをヒエログリフで刻んだカルトゥーシュ(楕円形のプレート)を忍ばせるなど、古代エジプトへの憧憬が細部にまで息づいています」