世界中で100年以上愛され続けているものって何だろう。コンバースのオールスター、バーバリーのトレンチコート、カール・ハンセン&サンのフォーボーチェア。そういくつも思い浮かぶものではないが、どれもいわずと知れた名品中の名品だ。カルティエを代表する「タンク」ウォッチも間違いなくそのひとつに数えられる。
三代目、ルイ・カルティエがタンクのデザインを考案したのは1917年。第一次世界大戦のさなかにあったフランスで、新兵器として注目を集めた戦車(タンク)の無限軌道にインスピレーションを得た。皮肉にも、おぞましい殺戮兵器をモチーフにしながら、世にもエレガントなタイムピースを作り出したのである。長い戦争が終結し、1919年に初代タンクは満を持して商品化された。当時の人々の目には、その最新鋭の時計が平和のシンボルのように映ったことだろう。
ラウンド時計が主流だった20世紀初頭、ノーブルな角型のタンクは異彩を放ち、一躍脚光を浴びた。ケースの縦枠が上下にスッと長く伸び、時計本体とストラップを固定する突起部分が、ケースと完全に一体化している。装飾を省いた直線的なデザインは、1920年代に世界中を席巻した新芸術、アール・デコの先駆けとしても高く評価された。そして何より特筆すべきは、100年以上も前に生まれた初代のデザインコードが、時代を超えて後続モデルに引き継がれているということだ。
今や様々なバリエーションを持つタンクだが、その中でもエントリーモデルとして取り入れやすいのが、2004年に登場した「タンク ソロ」。枠の上面がフラットになり、シャープな印象にアップデートされた。戦車から放たれる砲弾にヒントを得たというリューズのブルースピネルは、先端が丸くなり平和的な形状に。キリリと精悍な顔つきの中にも柔和な一面がうかがえて、ほっと愁眉をひらく。クラシックとコンテンポラリーが共存する中性的な佇まいは、普遍的でありながらも今の時代に確かに寄り添うものだ。
第一次大戦下で誕生したタンクは、平和の祝福を込めて世に送り出された。しかし21世紀を迎えた現在もなお、この世界では紛争が絶えない。日本のメディアはなぜかほとんど報道しないが、地球上のどこかでは今この瞬間も、戦闘やテロの犠牲になっている人たちがたくさんいる。100年前よりもはるかに高度な装備を有した戦車が、日々当たり前のように轟音をたてて駆け抜けているのだ。
「もしもすべての戦車(タンク)がカルティエで作られるなら、私たちはずっと平和に暮らすことができるのに」。かつて、ファッションデザイナーのジャン・シャルル・ドゥ・カステルバジャックはタンクをこのように評した。心に深く響く一文だ。私たちは、決して過去の過ちを繰り返してはならない。戦車の轍を踏むのは、カルティエのタンクだけで十分なのだ。
カルティエ カスタマー サービスセンター
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illustration:Uca text:Eimi Hayashi