#11 「まっすぐ」に輝いて【メシカ】

人はなぜ「まっすぐ」なものを求めるのだろう。妹がまだ小さかった頃、歯ブラシに歯磨き粉をつけるときに「まっすぐつけて!」と両親に懇願していたのを覚えている。少しでも歪むとひどく機嫌を損ねていたし、やり直しを要請していた。変なところが似てしまうもので、二歳の我が息子も叔母の性質を受け継ぎ、「まっすぐ」であることに美学を感じているらしい。毎日、電車のおもちゃをフローリングの目に沿ってきれいに並べることに心血を注いでいる。

芸術の世界でも、直線を多用するアール・デコ様式がひとつのスタイルとして定着している。合理性を重視したパターンや幾何学模様を見ていると、自分の中の雑音が取り払われ、内なる何かがしかるべき位置にストンと落ち着いたような気分になる。ファッションやジュエリーも例外ではない。すっきりと無駄のない直線フォルムは、スタイリッシュであるばかりでなく、心の静寂をももたらしてくれる。

直線的な表現が巧みなジュエリーといえば、パリ発のメシカが思い浮かぶ。世界的なダイヤモンドディーラーとして知られるアンドレ・メシカの娘、ヴァレリーによって創業された新興ジュエラーだ。彼女はダイヤモンドをひとめ見ただけで、それにふさわしいフォルムやセッティングのイメージが頭の中に湧いてくる。それほどまでにダイヤモンドのことを知り尽くし、情熱を捧げているのだ。

ひとつの石に一途に向き合うメゾンから生まれた「ギャツビー」リングは、デザイナーのひたむきな思いを体現するかのように「まっすぐ」な輝きを放つ。コレクション名は想像の通り、F・スコット・フィッツジェラルドの名作に由来する。小説の舞台である1920年代のニューヨークで流行したアール・デコがインスピレーション源と知り、すべてが腑に落ちた。

三連の華奢なホワイトゴールドのリングには、パヴェダイヤがびっしりと敷き詰められている。リュクスにきらめきながらも、デザインはあくまでミニマル。それは指を艶やかに飾るというよりも、肌の一部のように寄り添い、ときに身につける者を正しい方向へと導く、そんな存在にさえ思えてくる。ピュアな三本のラインは、「まっすぐ」に生きていくための道筋を示してくれているかのようだ。

リング〈WG、ダイヤモンド〉¥310,000
リング〈WG、ダイヤモンド〉¥310,000

メシカジャパン
https://www.messika.com/
03-5946-8299

illustration:Uca text:Eimi Hayashi

FEATURE