#35「かわいい」もの【マリーエレーヌ ドゥ タイヤック】

とあるファッションビルの女性用トイレを使ったときのこと。手洗い場の脇にゆったりとしたソファがあり、そこに5人の女子高生とおぼしき少女たちが並んで腰掛けていた。5人ともみな真剣にスマホの画面を見つめており、時折ため息まじりに感嘆の声を漏らしていた。

「マジでかわいすぎる!」「ハーフみたいでかわいい!」「純日本人でこのかわいさって奇跡じゃない!?」

会話を盗み聞きするに、どうやらSNSに投稿されている他校の女子生徒の画像を見ていたようだ。たった数分のことだったが、その間に1年分くらいの「かわいい」を耳にした気分だった。素知らぬ顔で手を洗いながら、「ああこの感じ、懐かしいな」と思った。

ティーンの女子はいつの時代も「かわいい」を濫用する。私が女子高生だった頃もそうだった。何年何組の先輩は顔も私服も抜群にかわいい、国語の先生の黙祷のやり方(ミッションスクールだったので)がかわいい、○○ちゃんの声がかわいい、字がかわいい、お弁当がかわいい。毎日そんな風に、かわいいことを盲目的に賛美していた。ファッションビルのトイレで偶然耳にした少女たちの会話が、思いがけず自分の過去ともシンクロして、無性に気恥ずかしくなった。

「かわいい」は実に便利な言葉だ。小さな子どもやアイドルはもちろん、食べ物や洋服、強面のおじさんやグロテスクな生き物までもが「かわいい」と表現できる。ブサカワ、キモカワ、ダサカワなどの造語もすっかり定着し、今やこの世のほとんどのものが「かわいい」の範疇に入りそうな気配だ。

さらに、かわいいは無敵だとか正義だとかいう主張まで聞こえてくるようになり、これにははっきり言って嫌悪感を覚える。ただ、本当にかわいいと思うものも少なからず存在するわけで、それらに対しては素直に「かわいい!」と叫びたい衝動に駆られるのも事実である。私にとってその絶対的にかわいいと思えるもののひとつが、マリーエレーヌ ドゥ タイヤック(以下MHT)のジュエリーだ。

MHTと聞いて真っ先に頭に浮かぶのは、キャンディのような佇まいのジェムストーン。鮮やかな色石が22Kゴールドの深みのある輝きをまとい、蝶やリップなどの愛らしいモチーフに生まれ変わるとき、見る者はたちまちおとぎ話の世界へといざなわれる。爽やかなブルーを基調とした青山のブティックに足を踏み入れると、少女に戻ったように心がはしゃぎ出すのだ。

ファインジュエリー特有の緊張感が全面に押し出されないのもまたMHTの魅力である。「タイムレスな名品」というよりももう少しくだけた、ユーモアと温度感。そのフレンドリーさがシンプルに「かわいい」と形容したくなる所以なのかもしれない。

だからといって、決して簡単に手の届くプライスではないのが悔しい。そこでエントリーアイテムにぴったりなのが、2万円以下で手に入るコードタイプのブレスレット。9色のバリエーションから好きな色のコードと、お気に入りのゴールドチャームを組み合わせる。ユニコーンにリス、ハイヒール、リボン、四つ葉のクローバー、どのモチーフも夢と茶目っ気にあふれている。

このブレスレットを、あの日トイレで遭遇した女子たちにつけて欲しいと思った。頑張って貯めたお小遣いで、友情の証におそろいのものを選ぶ。もちろん「かわいい」と何度もつぶやきながら。そんな愛しく儚い光景を想像して、自然と目が細まる。

ふと、高校時代の友人のことを思った。卒業してから20年近く経つが、毎年必ず忘年会で顔を合わせるメンバーがいる。専業主婦だろうが仕事一筋の働きマンだろうが、この日だけは万障繰り合わせて駆けつける。私たちにとっては絆を深める大切なイベントだ。なのに昨年末はパンデミックのせいで集まることができなかった。

年に一度の楽しみを奪われ、今ほど繋がりが恋しいと思ったことはない。これを機に、みんなで一緒にコードブレスレットを買うのもいいかもしれない。「女子高生みたい」などと冷やかしながら写真を送り合い、おもいっきり「かわいい」を連発するのだ。会えなくても、想いはきっと届くはずだ。

チャーム〈YG〉各 ¥15,400〜¥24,200
チャーム〈YG〉各 ¥15,400〜¥24,200

エムアッシュテ(マリーエレーヌ ドゥ タイヤック)
http://www.mariehelenedetaillac.com/
03-5468-2703

illustration:Uca text:Eimi Hayashi

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