各方面でちらほらと耳にする、「ティファニーのオープン ハートが今再びかわいいんじゃないか?」との声。かつて日本で一大ブームを巻き起こしたことから、バブル景気の象徴というイメージを持っている人も多いかもしれない。
私が広告会社に勤めていた20代の頃、男性上司がよく自慢げに語っていたのだが、当時のクリスマスシーズンは決まってティファニーの店頭に男性たちが群がっていたそうだ。特にオープン ハートを手に入れるのは大変だったらしく、買えなかった男性が彼女に言い訳できるように、「売り切れ証明書」なるものまで存在したという。こういうバブル期ならではの呆れるような話、私はけっこう好きです。
おねだり上手な昭和のボディコンギャルだけでなく、「欲しいものは自分で買いますので」とクールに言い放ちそうな令和のパワーウーマンをも虜にする、オープン ハート。コンテンポラリーなルックスとは裏腹に、その歴史は長く、デビューしたのは70年代。周知のとおり、ティファニーを象徴する数多くのコレクションを手がけたデザイナー、エルサ・ペレッティの代表作である。
1960年代にNYでファッションモデルとして活躍していたエルサは、伝説のファッションブランド、ホルストンのミューズとして脚光を浴びると同時に、クリエイターとしての才能が買われ、ホルストンのジュエリーデザインにも携わるようになる。そして1974年にティファニーに入社すると、瞬く間に目覚ましい功績をあげていった。
余談だが、ネットフリックスのドラマ『HALSTON/ホルストン』にも、エルサ・ペレッティは重要な人物として登場している。エルサ役を演じるレベッカ・ダヤンの美しさもさることながら、洗練されたジュエリー使いも見どころのひとつ。素肌に着たジャケットの胸もとにオブジェのようなチョーカーを合わせたり、上品な菫色のニットの袖口に、ボーンカフの原型と思しきシルバーカフでパンチを効かせたり、蚤の市で見つけた小さな瓶をお手製のペンダントにして(これが後のボトル ペンダントになる)、クリーンな白シャツに重ねたり。その確立されたスタイルは、再生を一時停止して見入ってしまうものばかりなので、まだ観ていない人はぜひこの機会に。
ジュエリー界に革命をもたらしたエルサ・ペレッティのクリエイションに共通するのは、日常的に身につけられるミニマルさと官能的なしなやかさを持ち合わせていること。なかでもオープン ハートは流麗なシェイプでみずみずしく、ぷっくりとした可愛げもあって、まるで生き物のよう。まぎれもなくハートなのだけれど、ハートじゃない何かのようにも思えてくる。見れば見るほど、独特のなめらかな世界に引き込まれてゆく。
モチーフの中に直接チェーンが通されたペンダントは、身につけると胸元でゆるやかな傾きを見せる。そのエフォートレスなたたずまいが絶妙にモダンで、半世紀近くも前にデザインされたものだということをうっかり忘れてしまいそうになる。大小2つのハートが寄り添うさまは、さながら恋人同士、あるいは固い絆で結ばれた親子のよう。時代を超えても新鮮みを失わず、人々を魅了し続ける奇跡のジュエリーは、まさに揺るぎない愛そのものだ。
エルサ・ペレッティ™ オープン ハート ペンダント〈K18RG、スターリングシルバー〉 ¥121,000
ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク
https://www.tiffany.co.jp/
0120-488-712
illustration:Uca text:Eimi Hayashi