#57 お守りのアラベスク【muska】

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先日、アーツ&サイエンス(A&S)京都店に立ち寄ったとき、ムスカ(muska)というジュエリーブランドに出合った。ショーケースに並ぶ色とりどりのジェムの美しさと独特のオリエンタルな趣に引き込まれ、しばらくうっとりと見入ってしまった。ショップスタッフの方によると、10月31日までの期間限定で開催しているジュエリーフェアとのこと。こういう運命的な出合いにはめっぽう弱い私。「気になるものがあればお出ししますよ」と何度か声をかけていただいたのだが、頑なに「大丈夫です」と言ってしまったことを今でも少し後悔している。どのみち、ときめいたところで衝動買いできる値段ではなかったのだが、それでもせめて試着ぐらいすればよかった。

ムスカはトルコ語で「お守り」の意味。『天空の城ラピュタ』に出てくるあの冷徹で凶悪な人物からは想像できない、やさしくて温もりのある言葉。伝統工芸の彫金職人に師事した田中佑香氏が、トルコへの旅で受けたインスピレーションをもとに立ち上げたブランドだ。なるほど、ムスカのジュエリーを見ていると無性に旅情をかき立てられるのは、そういうことなのか。

A&Sでのジュエリーフェアのアイテムの中でも特に心を奪われてしまったのが、「チチェック(「花」の意)」と名付けられたホワイトゴールドのピアス。ぷっくりとした三日月型のフォルムの全面に、唐草模様が彫り込まれている。ひとつひとつが手彫りというから、感動はひとしお。角度を変えるたびにキラキラとまたたくのは、小粒のダイヤモンドが随所にセットされているから。幅2cmにも満たない世界に広がる、優美な小宇宙。再びオンラインショップで画面越しに見ても、じつに眼福です。異国情緒あふれる意匠に、まだ見ぬモスクの天井に広がる美しさを重ね合わせてみる。ただ見つめているだけで、おまじないにかかったような気分になった。

地金の表面にはロジウムメッキが施されておらず、ホワイトゴールド本来のスモーキーな色味が引き立つ。発光力のあるファンデーションでメイクアップしたような凛とした輝きももちろん素敵なのだが、控えめで媚びない素顔にもマチュアな気品が宿る。一見ずっしりと重みがありそうだが、中は空洞になっているので意外にもつけ心地は軽やかだとか。このうれしい裏切りがまたニクイ。日本の宝飾技術に裏打ちされた力強さと、どんなオケージョンにもフィットするやわらかさを持ち合わせた稀有な一品。お互いのささやかな表情の変化を分かち合いながら、共に時を重ねてゆきたい。

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ピアス〈K18WG、K18YG、ホワイトダイヤモンド〉¥288,200

muska jewelry
https://sixth-night.com/
03-5829-6180

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