いまやhumの代名詞的存在でもあるチャンキーなチェーンブレスレットを、稲沼さんのようにエレガントにつけこなしたいという憧れは変わらない。だがその一方で、チェーンの魅力をまったく違う角度から再発見するきっかけとなったのが、「THE SYMBOL OF REFINED METAL(リファイン メタルの象徴)」と名付けられたネックレスとの出合いだった。蹄鉄のようなカーブを描くチェーンのコマと、先端がゆるやかに細くなったバーモチーフをつなぎ合わせたデザインは、まるで人の腕のようにしなやか。手をとり合ってひとつの輪を作っているようで、「こんなチェーン、見たことがない!」とひと目で胸を打たれた。
鎖骨に沿う長さの華奢なチェーンネックレスは、地金のラインがキリリと際立ち、程よく存在感がある。均整のとれたフォルムなのにどこか有機的に見えるのは、すべてのパーツがアトリエの職人によるハンドメイドだから。そう書くと、よくある謳い文句のように感じるかもしれないが、現在流通しているチェーンジュエリーの大半は機械生産。チェーンを一から人の手で作るには、相当な労力と忍耐力が必要だ。地金を線状に伸ばしてカットし、叩く、削る、曲げるの工程を根気よく繰り返すことで、やっと極小のコマがひとつ完成する。それを百個近く作り、細かい調整を重ねながら組み上げ、さらにはロウ付けしていかなければならない。縫針に糸を通すだけでもヒイヒイ言っている私にとっては、想像しただけで気の遠くなる作業の連続。途方もなく細かい、魂のこもった仕事なのだ。
クラフツマンシップのみならず、素材の調達方法にも徹底したこだわりがある。肌なじみのよいK18イエローゴールドは、廃棄された電子機器に含まれる金属資源から精錬された、都市鉱山由来の貴金属。humではこれを「リファイン メタル」と呼び、サプライヤーの証明書付きの素材を仕入れている。ここ数年でリサイクルメタルという言葉もよく聞くようになり、貴金属の出どころなんて知らなくて当然だったジュエリーのあり方も徐々に変わってきているが、そうはいってもここまでトレーサビリティが明確なファインジュエリーにはなかなかお目にかかれない。もしかしたら、昔自分が使っていた携帯電話からとれたゴールドが使われている可能性だって、ゼロではない。
どこからきた素材で、誰がどんな風に作ったジュエリーなのか。ものづくりの裏側に潜む物語に触れたとき、それまで見えなかったものがはっきりと見えてくる感覚がある。モダンなチェーンネックレスが、じわりじわりと人格を帯びてくる。細部には唯一無二の個性が宿り、かつてないほどの斬新さをもって輝きはじめる。そっと手を繋ぐように、首もとに寄り添う優しげな表情を見たとき、作り手の思いは肌で感じ取れるものなのだと、このネックレスが教えてくれているような気がした。