色石の投げキッス【mika jewellery】#81

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人間がキスという行為をするようになったのは、いつからなのだろう。旧約聖書にも出てくるというから、歴史は相当古いらしい。人類史上初めてキスをした人たちは、どういう心境だったんだろうか。気がついたら思わず唇を重ね合わせていて、「あれ、悪くないかも。むしろなんだか幸せかも」なんて思ったりしたのだろうか。事実、人は誰かとキスをすると、脳内からオキシトシンという幸せホルモンが分泌されるらしい。地球上の人たちがもっとたくさんキスをするようになれば、このどうしようもない世界も少しはマシになったりするのだろうか。

かく言う私はといえば、「キスなんて最近いつしたっけ?」という感じの嘆かわしい状況にある。息子たちとのスキンシップはかろうじて日常的にあるけれど、それもあと数年もすれば無くなってしまうかもしれない。ピュアで甘酸っぱい(と勝手に記憶している)初キスの思い出も、今となっては遥か彼方、目を細めてようやくうっすらと見えるくらいの、おぼろげな輪郭が浮かぶだけ。仮に自分が80歳まで生きるとしたら、今ちょうど折り返し地点にいるのだが、残り半分の人生で誰かと熱いキスを交わすことなんて、果たしてあるのだろうか? そう考えるとなんだかちょっとさみしいような、こそばゆいような、何ともいえない複雑な気持ちになる。

さて、いつも初っ端から脱線してしまうのが悪い癖なので、そろそろ本題に。今回は、ジュエリーではわりとポピュラーな唇モチーフの話。色石でチャーミングに表現されたものを最近よく見かけるのだが、個人的にはそこにほんの少しシュルレアリスムの文脈を感じ取れるような、かわいさの中にもどこか引っかかりのある造形にグッとくる。そういう意味でも「おお、これは!」とときめいたのが、mika jewelleryの「Lip」コレクションだった。

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リップピアス〈K18YG、ピンクルビー〉¥63,800

くっきりとふたつの山を描いた上唇に、ぷっくり膨らんだ下唇、ソフトクリームの先っちょみたいにツンと尖った鋭い口角。あのメイ・ウエストの唇ソファが真っピンクになったら、ちょうどこんな感じなんじゃないだろうか。一度見たらフラッシュの残像のように瞼に焼きついてしまう、小粒なのに抜群にインパクトのある、魅惑のピンクルビーの唇ピアス

天然石のルースは、ひとつひとつ手作業でカットされている。こんな複雑でなめらかな形状を人の手で生み出していく作業は、並大抵の技術ではできないことなのだろう。しかもよく見ると、表面には細かい放射線状のカットが施されている。どの角度からでも光がキラキラと反射し、さらには爪留めによって石の輝きが最大限に引き出され、確かな迫力も加わる。

遊び心がありながら、天然石ならではの気品も備え、ハッとさせられる力強さも秘めている。これぞ「無敵の唇」といった佇まいに、思わず吸い寄せられそう。繊細かつ鮮烈なきらめきが投げキッスのように飛んできて、耳たぶにそっと宿る瞬間を想像する。誰かの唇がリアルに触れることが仮になくても、このとびきり愛らしい色石のキスなら、いつも身につけていられるわけだ。そう考えると、別にロマンティックなキスの予感がなくたって、残りの人生そう悪くはないかもしれないなと思えてくる。

mika jewellery
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