「N°5」の魔法【シャネル】#95

ガブリエル・シャネルにとって、「5」は特別な数字だった。彼女の星座である獅子座が12星座の5番目にあたることから、5をラッキーナンバーにしていたという話は有名だ。今や伝説といわれるメゾン初の香水は「シャネル N°5」と名付けられ、1921年に誕生した。

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「N°5」の名前の由来は諸説ある。調香師のエルネスト・ボーが作った数種の試作品の中から、マドモアゼルが5番目のボトルを選んだからともいわれている。彼女が気に入った“N°5”の香りはこうだ。トップに弾ける南仏グラース産のローズ ドゥ メと、ジャスミンやイランイランなどの甘やかなハーモニーと響き合い、人工香料のアルデヒドがサボンのような爽やかさを重ねる。80種類以上もの天然香料とアルデヒドを組み合わせた華やかで抽象的なノートは、単一の花の香りが主流だった当時のフレグランスの常識を覆す、センセーショナルな調香だった。

ミニマルでグラフィカルなガラス製のボトルから薫り立つのは、複雑でセンシュアルなフローラルのブーケ。ソリッドかつ直線的なボトルのラインと、やわらかく重層的な香りのコードとの対比にドキリとさせられ、肌にまとえば新たな自分と出会えたような気持ちになる。そんな得もいわれぬ高揚感こそ、「N°5」が“香りの宝石”と称される所以だ。

100年以上の時を経て愛され続ける名香にオマージュを捧げ、「N°5」を冠したジュエリーコレクションが誕生した。アイコニックな数字を18Kゴールドで表現したのは、「コレクション N°5」より、エクストレ ドゥ N°5というネックレス。「エクストレ」はフランス語でパルファンとほぼ同義なので、“香水、N°5のネックレス”とも解釈できる。

しなやかな曲線でかたどったラッキーナンバーモチーフに、ダイヤモンドをたたえたペアシェイプが繊細に揺らめく。香水瓶から滴るしずくのようなデザインは、身につけるたびに馥郁とした香りが漂ってきそうだ。首元でさりげなく主張しながら、肌に溶け込み馴染んでいく。まるで移ろいゆく「N°5」の香りが、まとう人の一部になっていくかのように。

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ネックレス〈K18YG、ダイヤモンド〉¥588,500

10代のときだったか20代だったか、「N°5」の香水を試したとき、初めて嗅いだはずなのに「あ、この香りがそうだったんだ」と無性に懐かしく感じた。鼻腔に広がる優雅な芳香が、一瞬にして眠っていた記憶を呼び覚ましてくれた。目を閉じて脳裏に浮かんだ情景は、幼い頃にかくれんぼをして遊んだ母のクローゼット。母が出かける支度をするときは決まっていい香りに包まれる、とっておきの隠れ場所だった。いつも手の届かない高さの棚の上に置かれていた、クリスタルのように輝く瓶。あれが「N°5」だったんだなとそのとき初めて気がついた。「N°5」は、私がよく知っている「大人の香り」だった。思いっきり手を伸ばしても届かなかった香り。母の身長を追い越し、いい大人になった今でも、その感覚は消えないままだ。

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私は5月生まれでもなければ、星座が5番目なわけでもない。「5」という数字にはそれほど縁がない人生だと思い込んでいた。それが直近約10年を振り返ってみると、入社5年目に転職し、5月に結婚をして、5月に子どもを出産し、今は家族5人で暮らしている。そういえば今の仕事を始めたのも大型連休明けの5月だったし、パートナーと出会ったのも青紅葉のきれいな5月だった。いつの間にか、「5」は自分にとって特別な数字になっていた。そう気づいたとき、ずっと手が届かないと思っていた「N°5」との距離がグッと縮まったような気がした。香水もジュエリーも、ようやく等身大で身につけられる日がきたのかもしれない。


シャネル(カスタマーケア)
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連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。