私をごきげんにするパール【ミキモト】#102

ミキモトの創業者の御木本幸吉が、1893年に真珠の養殖を世界で初めて成功させたのはあまりに有名な話だ。かつては皇族など限られた人たちの装身具だったパールジュエリーを手の届く身近な存在に変え、さらに近年は男性も身につけられるジェンダーレスなジュエリーとして新たな価値観を提示し、約1世紀の間に次々とパールの常識を覆してきた。

時代の流れに合わせて大胆かつ柔軟に進化してきたミキモトのパールジュエリーだが、真珠の養殖生産からデザイン、製造、販売までを一貫して行う体制は、創業時からずっと変わらない。ミキモトの名にふさわしいパールのクオリティを決めるのは、長く培ってきた独自の評価基準。色や形、表面のなめらかさや光沢、“巻き”と呼ばれる真珠層の厚みなど、厳しい基準をクリアした真珠だけが「ミキモトパール」と認められる。

私をごきげんにするパール【ミキモト】#1の画像_1

ひとつの母貝から取り出されるアコヤ真珠は、たったひと粒。その全体の1割にも満たない厳選されたミキモトパールで、さらにネックレスを組むためには、並外れた目利き力が求められる。ミキモトが重視するのは「連相」と呼ばれる真珠の並び。となり合う粒の色や光沢度合いが統一されるよう、気の遠くなるほど入念なマッチング作業が繰り返される。この徹底した品質管理と熟練の職人技こそが、世界中の人びとを惹きつけてやまないミキモトのものづくりの真髄。日本を代表するトップジュエラーと呼ばれる所以だ。

卓越した技巧とこだわりの美意識によって生まれた眼福のパールネックレスを、気負うことなくデイリーウェアにも。ならば、小粒のアコヤ真珠を連ねたチョーカータイプはどうだろう。全長40cmの鎖骨に沿うくらいの長さは、どんな服装ともバランスが取りやすく、フォーマルにもカジュアルにも見事に対応する。エレガントなブラックドレスにも、おろしたての真っ白なシャツにも、タフなヴィンテージのデニムジャケットにも、やさしく寄り添いながら印象をアップデートする力を秘めている。

まろやかな乳白色のパールの連なりに、モダンなツイストをきかせるのがシルバーのクラスプ。インフィニティ(∞)のように見える大ぶりのデザインがソリッドに輝き、選ばれしミキモトパールのエターナルな魅力を加速させる。

自分の身体が歪んでいるせいか、ネックレスをつけると首の後ろ側にあるはずの留め具が必ず前にきてしまう。何度直しても、気づいたときにはいつも留め具が前にある。それが地味にストレスだったので、留め具の位置を気にしなくていいのはたいへんありがたい。「見せても、見せなくても、決めるのはあなた次第。自由なマインドで楽しんで」“サークルM”のエンブレムパーツとともに、老舗ジュエラーの遊び心が伝わってくる。

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ネックレス〈アコヤ真珠〉¥429,000

かつて礼装の一部だったパールネックレスも、いまやモードのキーピースに。伝統を重んじながら既成概念にとらわれず、日常と非日常の境界を軽やかに行き来するミキモトのセンスとバランス感覚は、まさにいま自分自身が求めているものでもある。

子どもを育てて教育し、最低限の家事をなんとかこなし、生計を立てるために日々働き、親の介護も頭によぎる年齢になった。生きるということはあまりに煩雑で、マルチタスクに息切れする毎日だ。「こんなはずじゃなかった」と思うこともたくさんあるが、それでもやり直しがきかないのが人生。この歳になってそう悟ったとき、本能的に、純粋に惹かれたのは、時代を超越した魅力を放つ真珠の首飾りだった。

完璧なバランスを保つミキモトパールの連なりが顔まわりをやさしく照らすだけで、本当にただそれだけで、ごきげんに生きていけそうな気がする。単純だと笑われるかもしれないけれど、どうやら自分という人間はそういうふうにできているらしい。あるいは、それだけ無条件に人を惹きつけるパワーが、このネックレスにあるということかもしれない。

ミキモト カスタマーズ・サービスセンター
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連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。