ミキモトの創業者の御木本幸吉が、1893年に真珠の養殖を世界で初めて成功させたのはあまりに有名な話だ。かつては皇族など限られた人たちの装身具だったパールジュエリーを手の届く身近な存在に変え、さらに近年は男性も身につけられるジェンダーレスなジュエリーとして新たな価値観を提示し、約1世紀の間に次々とパールの常識を覆してきた。
時代の流れに合わせて大胆かつ柔軟に進化してきたミキモトのパールジュエリーだが、真珠の養殖生産からデザイン、製造、販売までを一貫して行う体制は、創業時からずっと変わらない。ミキモトの名にふさわしいパールのクオリティを決めるのは、長く培ってきた独自の評価基準。色や形、表面のなめらかさや光沢、“巻き”と呼ばれる真珠層の厚みなど、厳しい基準をクリアした真珠だけが「ミキモトパール」と認められる。
卓越した技巧とこだわりの美意識によって生まれた眼福のパールネックレスを、気負うことなくデイリーウェアにも。ならば、小粒のアコヤ真珠を連ねたチョーカータイプはどうだろう。全長40cmの鎖骨に沿うくらいの長さは、どんな服装ともバランスが取りやすく、フォーマルにもカジュアルにも見事に対応する。エレガントなブラックドレスにも、おろしたての真っ白なシャツにも、タフなヴィンテージのデニムジャケットにも、やさしく寄り添いながら印象をアップデートする力を秘めている。
まろやかな乳白色のパールの連なりに、モダンなツイストをきかせるのがシルバーのクラスプ。インフィニティ(∞)のように見える大ぶりのデザインがソリッドに輝き、選ばれしミキモトパールのエターナルな魅力を加速させる。
自分の身体が歪んでいるせいか、ネックレスをつけると首の後ろ側にあるはずの留め具が必ず前にきてしまう。何度直しても、気づいたときにはいつも留め具が前にある。それが地味にストレスだったので、留め具の位置を気にしなくていいのはたいへんありがたい。「見せても、見せなくても、決めるのはあなた次第。自由なマインドで楽しんで」“サークルM”のエンブレムパーツとともに、老舗ジュエラーの遊び心が伝わってくる。
連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。