50年目の名作【ティファニー】#103

手首の「骨」の形状に沿うようにフィットすることから、その名は「ボーン カフ」。エルサ・ペレッティの代表作としてあまりにも有名だが、その有機的な造形を見るにつけ、ある思い出がよみがえってくる。

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中学生のとき、自転車での通学途中に手首を骨折したことがある。前を歩いていた犬をよけようとしてバランスを崩し、左側に派手に転倒した。受け身はとったが、打ち所が悪かったらしい。小指側の手首がみるみる腫れ出し、鈍い痛みは次第にズキズキと鋭くなり、そのまま病院へ。レントゲン写真を見た整形外科の先生に「ひびが入ってるので固定しときますね」と、さながら美容室で「仕上げにスタイリング剤つけておきますね」ぐらいの軽いノリで言われ、生まれて初めての大怪我にショックを受ける暇もなく、気がついたら左手首がギプスでぐるぐる巻きになっていた。

全治1ヵ月。左手の自由がきかず、なにかと不便ではあったが、正直なところまんざらでもなかった。クラスメートが真っ白なギプスにたくさん寄せ書きをしてくれたおかげで、2週間もすれば愛着もひとしおだった。ほとんどが落書きのようなものだったけれど、ギプスが外れたときにはなんともいえない、恋人と別れたときのような喪失感に駆られた。いつもそばで支えてくれていたものが、ある日突然いなくなってしまうさみしさ。何かを身にまとい続けるというのは、情の湧く行為なのだと子どもながらに思い知った。


ギプスが原体験となってか否か、ボーン カフをつけたときの、あの手首がそっと守られているような感覚がたまらなく好きだ。つけた瞬間はひんやりと心地よく、しかるべき位置にハマると、まるで自分自身が硬質な金属であることを忘れてしまったかのごとく、なめらかな感触で手首を包む。半世紀も前にデザインされたとは甚だ信じがたい、洗練された佇まい。まったく古びた印象はなく、むしろ新鮮ですらある。

1974年にペレッティがティファニーのデザイナーに就いて、今年で50年。節目を祝して、ボーン カフに着想した「ボーン リング」が発表された。生命力のある力強いフォルムには、ボーン カフとはまたひと味違った存在のすごみのようなものがある。イエローゴールドの重厚な輝きが手もとで際立つ一方、つけ心地はいたって軽やか。そのまま体の一部となって溶け込んでいきそうで、その不確かさに神秘性を感じる。さらに特筆すべきは、指の関節部分にも違和感なく馴染む快適さ。優美なデザインにも実用性にも、ペレッティの哲学が見事に表現されている。

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エルサ・ペレッティ™ ボーン リング〈K18YG〉¥737,000

そもそも、ペレッティが骨をモチーフにボーン カフを作ったのは、幼少期の思い出に起因する。ローマのカプチン修道会に、数千体もの修道士の骨が納められた地下納骨堂があり、そこを訪れたときの記憶が深く心に刻み込まれていたという。

私が生まれて初めて人の骨を見たのは、祖母が亡くなったときだった。火葬後の骨上げで思わず言葉を失う私たちに「ご高齢の女性で、ここまできれいに骨が残るのはとても珍しいことです」と職員の方が教えてくれた。祖母の骨は、確かにとても美しかった。それはもう見入ってしまうほどだった。お葬式のこともその前後のことも、今となっては何ひとつ正確には思い出せないけれど、あの美しさだけは、きっとこの先も忘れないと思う。

自然の造形にインスピレーションを得て、ともすれば不気味と感じられるものにも美を見出し、世にもモダンなジュエリーへと昇華させたペレッティのセンスに、改めて脱帽する。研ぎ澄まされた意匠で、大胆かつ優雅な魅力を放つ50年目の名作、ボーン リングは、まさに骨のように持ち主の一部となり、永遠に寄り添い続けるにちがいない。

ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク
https://www.tiffany.co.jp/
0120-488-712

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。

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