モノグラムは永遠に【ルイ・ヴィトン】#104

ルイ・ヴィトンのモノグラム。メゾンのイニシャルと幾何学的な花柄(モノグラム・フラワー)を組み合わせたそのモチーフには、憧れを抱くよりも先にノスタルジーを掻き立てられる。それは、昔母が愛用していたモノグラム・キャンバスのショルダーバッグを思い出すから。

鏡の前で紅をさし、きれいな服に着替えてそのバッグを持つ母を見ると、子どもだった私まで心が躍った。もしかしたら、どこか“いいところ”に連れて行ってもらえるのかもしれない。もしも行き先が百貨店で、母が買い物している間ちゃんとお利口にしていたら、母は気をよくしてリカちゃん人形に着せる新しい服を買ってくれるかもしれない。そう思ってワクワクしたものだった。

ルイ・ヴィトンのモノグラムは、母がそうであったように、幼い私にとっても特別なものだった。みんなを幸せにする魔法の道具。ドラえもんのタイムふろしきに匹敵するくらいのシロモノだ。

モノグラムは永遠に【ルイ・ヴィトン】#1の画像_1

愛着のあるモノグラム・フラワーが、ファインジュエリーとしてエレガントに表現された。その名も「モノグラム・イディール」コレクション。ベゼルセットされたひと粒ダイヤモンドのきらめきに導かれるように、スターシェイプの“花”が躍動する。ピンクゴールドのぬくもりがそう感じさせるのか、ミニマルなモチーフなのに不思議と生き生きしていてやわらかい。耳もとで軽やかに揺れるたび、ピュアな印象を宿す。

イディール(Idylle)はフランス語で「純愛」を意味する言葉だ。「純愛、ジュンアイ……」と反芻するも、この歳になって今さら「純愛って何だっけ?」と首をかしげてしまう。パートナーに聞いてみると、「酒でいう純米みたいなことなんじゃないか」と、これまた首をかしげてしまうような答えが返ってきて、謎は深まる。

こんなときこそ、スマートな答えを瞬時に引き出してくれると噂の生成AIに問うてみる。回答はこうだ。
「純愛とは、邪心のない、ひたむきな愛のこと。定義としてはほかに『その人のためなら自分の命を犠牲にしてもかまわないというような愛』『肉体関係を伴わない愛(プラトニック・ラブ)』『見返りを求めない愛(無償の愛)』などがある」
なるほど、邪心のない愛ですか。確かにこの一番星のように可憐に輝くピアスからは、邪心など微塵も感じられない。それどころか、これひとつ身につけてさえいれば、あらゆる煩悩を払い除けてくれそうだ。

モノグラムは永遠に【ルイ・ヴィトン】#1の画像_2
ピアス〈K18PG、ダイヤモンド〉¥182,600

健やかに生きていると、ただそれだけでありがたいはずなのに、ついいろんなことを求めてしまう。求めるがゆえに必要以上に期待してしまったり、急に不安や孤独を感じたり、見えない誰かに嫉妬したりもしてしまう。もしもタイムふろしきが本当にあったなら、この煩悩まみれの心だけをずっと昔の純粋な状態に戻せるのだろうか。

そういえば私が成人したときに、母が愛用していたモノグラムのバッグを受け継いだ。20年近く使い込まれていたので、長い時間が経った分だけ風合いが増していた。このバッグと共に自分は育ってきたんだなと思うと噛み締めるものがあったし、新品よりもずっと美しく感じた。

物も人も、存在した分だけ歴史を刻む。見えない傷をたくさん背負いながら、ときに誰かにひたむきに愛されながら、たったひとつの物語を紡ぎ、唯一無二の輝きを放つ。

ジョルジュ・ヴィトンがモノグラム・フラワーをデザインしたのは1世紀以上前。世界中の人びとに愛され続けるエターナルな魅力に、ジュエリーとして再び出合ったとき、忘れかけていた大事なものが星のように瞬いて見えるような気がした。

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連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。