永遠に咲き続ける花。【ディオール】のシングルピアス#116

不惑を迎え、それなりに生きていると、いろんなことが起こる。それに合わせて、いろんな花を贈ったり、逆にもらったりすることがある。「おめでとう」の花、「さようなら」の花、「ありがとう」の花、「おつかれさま」の花。

「ごめんなさい」の花に遭遇したこともある。友人宅でのホームパーティに呼ばれたときのこと。仕事の都合で1時間ほど遅れてきた男性が、「ほんのお詫びの気持ちです」と言って食卓の真ん中に添えたのは、ガラスの小瓶に挿した白いムスカリの花だった。料理の邪魔をしない、控えめで愛らしい姿に、その場にいた全員の心が和んだ。花は、ときに言葉よりも雄弁だ。

秘密の花園からインスピレーションを得たファインジュエリーが、この「ディオレット」コレクション

着飾るための花もある。花々をこよなく愛したクチュリエといえば、クリスチャン・ディオールである。かの「ニュールック」が打ち出された1947年のファーストコレクションから間もない頃、パリの熱狂から離れたミリー ラ フォレという地に、ムッシュ ディオールは隠れ家のような別荘を購入した。モードとはおよそ対極にあるその地で、限られた親しい友人だけを招き、庭園づくりに情熱を注いでいたという。そんな秘密の花園からインスピレーションを得たファインジュエリーが、この「ディオレット」コレクションだ。

春の装いに取り入れてみたいのは、3つの小さなフラワーモチーフが並んだシングルピアス。下部にはキャッチ付きのポストが、上部には軟骨部分に引っかけられるカフのようなディテールがあしらわれている。装着すると耳のきわに沿うように、色とりどりの花が咲く。穏やかな季節のよろこびを、そっと耳もとでささやいているかのよう。この詩的でチャーミングなデザインこそ、ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌのクリエーションの真骨頂だ。


ベースは涼やかな18Kホワイトゴールド。そこに敷き詰められたダイヤモンドのきらめきと、ラッカーの彩色がみずみずしい。アトリエの卓越したサヴォワールフェールにより、ひとつひとつの花に命が吹き込まれている。どんなにシンプルな服装でも、このピアスひとつをつけるだけで、麗かな空気をまとえる。5cm程度の小さなピースでも、身につける人の雰囲気まで変えてしまうパワーがある。

「ディオレット」シングルピアス〈WG、ダイヤモンド、カラーラッカー〉¥1,700,000
「ディオレット」シングルピアス〈WG、ダイヤモンド、カラーラッカー〉¥1,700,000

花は、ときに言葉よりも雄弁で、そして儚い。自分が不惑になったからだろうか、萎れゆく姿や散りゆく花びらにも、刹那的な美しさを感じ、心を動かされる。では、花をかたどったファインジュエリーならどうだろう。それは、永遠にこの世に存在し続けるアートピース。決して枯れることなく、世代を超えて受け継がれてゆくものになる。

自分が大切にした「ディオレット」の花が、まだ見ぬ誰かの手にわたるのを想像してみる。「これはね、私の祖母から譲り受けたものなの」と言って、その子がうれしそうに誰かに話す日が、いつかくるのかもしれない。そのときも、彼女の耳もとを彩る小さな花は、きっと今と変わらず、可憐に咲き誇っていることだろう。

クリスチャン ディオール
http://www.dior.com/
0120-02-1947

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。

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