もしも翼があったなら。誰にでも、一度や二度くらいはそんなふうに考えることがあるかもしれない。昔から飛行機が苦手な私は、常々そう思って生きてきた。入国審査も手荷物検査もない、自由気ままな空の旅がしてみたい。冷静に考えれば、たとえ翼があって好きなところへ飛んでいけたとしても、自力で大海を渡るのは至難の業だろうけれど。
ふと、幸せって何だろうと考えたとき、幼い頃によく読んでもらった「青い鳥」という童話を思い出した。光の妖精とともに、幸せの青い鳥を見つける旅に出たふたりの兄妹は、いろんな国で青い鳥に出合う。だが、つかまえて持ち帰ろうとすると、みんないなくなってしまう。遠くまで追い求めても、幸せの青い鳥は結局手に入らなかった。がっかりして家に帰ると、飼っていた白い鳥が、青い鳥に変わっていたという話。幸せというのは、案外すぐそばにあるもの。そのことに私たちはなかなか気づけないものだということを、この物語は伝えている。
大人になって読み返すと、深く感じ入る場面があった。青い鳥を探して「思い出の国」を訪れたふたりが、亡くなったはずの祖父母に再会する。不思議がるふたりに、光の妖精はこう話す。「誰かが覚えている限り、人は本当には死なない」。そして、生き返ったおばあさんが語りかける。「私たちのことを思い出してくれるだけでいいんだよ。そうすれば、いつでも私たちは目覚めて、お前たちに会うことができる」。生きている人が記憶を持ち続ける限り、その人は死なない。大切な人の死を経験してきた今だからこそ、心に強く響く言葉だ。
連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。