子どもの頃からずっと大切にしているものがある。木製のオルゴールの箱で、当時西ドイツに住んでいた親戚が帰省時にくれたものだ。蓋にはウメバチソウのような花の模様が象嵌され、底のネジを回すと、モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』の第1楽章を奏でる。「これね、私の宝物なんだけど、あげるわね」。ラッカー塗装されて、つやつやに輝くその箱を手渡されたときの胸の高鳴りは、昨日のことのように思い出せる。
宝箱を手に入れたはいいが、中に入れるべき宝物がなかった。ほんとうは母の宝石箱みたいにキラキラしたものを入れたかったのだが、ジュエリーなどひとつも持っていなかったその頃の私は、ボタンやビーズや川原で拾った石なんかを集めて、宝箱の中にしまっておくことにした。一つひとつは何でもないものだったが、たくさんあるとそれはそれできれいだった。淡い水色のベルベットで内張りされた箱の中では、とりわけ本物の宝石のように見えた。
連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。