慎み深いダイヤモンド【レポシ】のリング #123

昔から列を作るのが苦手な私は、極力並ぶことを避けて生きてきた。でも、心のどこかでは、もしかしたらこれまで並ぼうとしなかったせいで、多くの貴重な体験を逃してきたのかもしれない、とも思っている。

例えば、炎天下で汗だくで順番を待ち、不快度マックスの状態で差し出された粉雪みたいなかき氷を、口に含んだときの天にも昇るような幸福。数時間待ちのアイドルの握手会でやっと本人と対面し、やわらかい手にそっと触れた瞬間の鳥肌が立つような昂り。いずれにしても、辛抱強く長蛇の列に並んだ人だからこそ、たどり着ける境地なのだろうと思う。

たったひとつの、しかも、ものの数分で終わってしまうことをやり遂げるために、暑さにも空腹にも退屈にも耐えて、ただひたすらそのときを待つ。自分の前と後ろにいるのはまったく見ず知らずの人たちで、どこからきたのかさえわからない。けれどもみんな同じ目的のもとに集い、今その場所で、行列の一部になる。滅多なことでもない限り、その列が乱れることはなく、割り込まれる心配もない。そこにあるのは、秩序と調和だ。

人気のかき氷店なのか、推しの握手会なのか、はたまた、いつも素通りしていた近所で評判のラーメン屋なのか……。もしもこの先、何かしらの平和的な行列に参加する機会があるとするなら、そのときに身につけたいジュエリーはこれだと確信している。

ミニマルなラインを描く2連リング

レポシの「ベルベル」リング。ミニマルなラインを描く2連のうち、片側はダイヤモンドが連なるデザイン

イタリアで生まれ、現在はパリ・ヴァンドーム広場に本店を構えるジュエラー、レポシの「ベルベル」リング。21歳でメゾンを引き継いだ3代目、ガイア・レポシさんのデビューコレクションで、今やメゾンの顔ともいえるアイコン的存在だ。ピンクゴールドのふたつのラインが、指の上で端正に際立ち、密着し、素肌に溶け込むようにきらめく。

一方はシンプルな太いライン、もう一方はパヴェダイヤモンドをしき詰めた、か細いライン。両者は小さなバーで連結され、平行な等間隔を保っている。身につけると、ふたつのラインの隙間から、わずかに素肌がのぞく。その隙間は、埋まることもなければ、広がることもない。余分なものも欠けているものも何ひとつないと思えるほど、均整のとれたバランスを生み出す。

パヴェダイヤモンドの「小さく前へならえ」

一列に正確に配置されたパヴェダイヤモンドを見ると、小学生の頃に学校でよくやった「小さく前へならえ」が浮かんでくる。朝の全校集会や運動会、遠足など、何かにつけて整列を求められた小学生時代だった。「前へならえ!」という先生の号令がかかると、最前列以外の児童は両手をまっすぐ前に伸ばし、前の人との間隔を調整する。すばやく動かなければ、「そこ、もたもたしない」という先生の声がとんでくる。

これに対して、肘を90度に曲げた状態で間隔を狭めるのが「小さく前へならえ」。数十名の児童が真剣な表情でいっせいに電車ごっこのようなポーズをとり、ぎゅっと短縮された一列に身を寄せ合う。その行為自体にどんな意味があったのかはいまいちよくわからないし、そもそも並ばされること自体が好きではなかったが、「小さく前へならえ」のときだけは、先生の号令も心なしか控えめに感じられた。

Berbere 2連リング〈K18PG、ダイヤモンド〉¥642,400

Berbere 2連リング〈K18PG、ダイヤモンド〉¥642,400

行儀よくパヴェセッティングされたレポシのリング。ダイヤモンドが「小さく前へならえ」をしていると思うと、なんだかいじらしい。どれかひとつが抜きん出て主張するわけでもなく、すべてが等間隔で並ぶことで、光を美しく反射する。さながら、一つひとつの命に優劣がないことを示すかのように。

整然と輝くダイヤモンドを、何もせずにただぼんやりと見つめる時間が、はたして無駄だといえるだろうか。スマホの画面に視線を落とし、見知らぬ誰かの過ちを責めたり、責める人たちの心無い言葉をひたすらスクロールする時間よりは、よほど価値があると思う。好きな食べ物や好きな人のために長蛇の列に並ぶ時間も、好きなジュエリーを愛でる時間も、「もったいない」などというのはなんとも悲しい。素敵な人生とはきっと、無駄なことばかりできらめいている。


レポシ|リング

レポシ
https://repossi.jp/

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。