色とりどりの世界を生きる【ピパ スモール】のネックレス #124

ロンドンを拠点としながら世界中を飛び回り、30年以上にわたってジュエリーをつくり続けている、ピパ・スモール。色石を使った多彩なクリエーションもさることながら、ジュエリー制作を通じた社会貢献にも積極的で、エシカルジュエリーの先駆けとして広く知られている。

彼女が作品に用いるのは、環境に負荷を与えず、産地のコミュニティや鉱山労働者の権利に配慮し、倫理的に調達された素材のみ。先住民や紛争地域の女性たち、スラム街に暮らす人びとなど、取引相手は多岐にわたり、フェアトレードを貫いている。

ピパ・スモールのジュエリーを選んで身につけるということは、すなわち、クリーンで公正な採掘や、紛争地域における雇用の創出、伝統技術の継承を支援することを意味する。遠い国で起きていることに関心を持ち、そこで生きる人びとに、想いを馳せるきっかけにもなる。

ジュエリーは、身につける人の価値観の延長にある

アクアマリン、グリーンアメシスト、レインボームーンストーンの5石が雫のようにきらめくネックレス

アクアマリン、グリーンアメシスト、レインボームーンストーンの5石が雫のようにきらめくネックレスは、「コー・イ・ヌール(Koh-i-Noor)」というコレクション。18世紀のムガル帝国時代のインドで産出されたダイヤモンドの名称で、かつては世界最大とも呼ばれた、まさに“宝の石”。ペルシャ語で「光の山」を意味する伝説のダイヤモンドの透き通るような輝きが、コレクションのインスピレーション源になっている。

18Kゴールドの繊細なチェーンがしなやかに肌に沿い、澄んだ色石が軽やかに揺れる。それらは、どこかひんやりとした空気感をまとい、目にも心地よい。焼け付くような暑さのなかでも、胸もとにそっと涼を運んでくれる。

「ジュエリーは、身につける人の価値観の延長線上にあるもの」。ピパ・スモールはそう言う。たったひとつのジュエリーに触れることで、国境や言語の壁を越え、遠く離れた作り手と繋がることができる。たったひとつのジュエリーを通じて、言葉にならない“ことば”を交わすことができる。そこには、外国の人に対する差別意識も排斥感情も、ありはしない。あるのは美しいものを讃える、純粋で温かい気持ちだ。

ピパ スモールのネックレス〈K18YG、アクアマリン、グリーンアメシスト、レインボームーンストーン〉¥712,800 

ネックレス〈K18YG、アクアマリン、グリーンアメシスト、レインボームーンストーン〉¥712,800 

私たちはいつからか、不寛容な社会に生きている。女性は子どもを産み育てながら、働くのが普通。強い先輩たちからは、「みんなやっていることだから」と背中を押されてきた。「子を産み、働くと決めたのは、私だ」。そんな自己責任論が、重くのしかかる社会に生きている。パブリックスペースで泣きわめく子どもがいたら、親がなんとかして泣き止ませるのが当然。周りに迷惑をかけてはいけない。そんな生き方が求められる社会に生きている。

不寛容な社会には、色がない。いろんな考えがあり、いろんな人たちがいて当たり前の世の中で、安心して生きていきたい。違いを恐れず、色とりどりの世界に飛び込んでみたい。だから私は、色石にあこがれる。互いに染まることなく、ただ寄り添い、やさしい輝きを放つ石たちに、どうしようもなく惹かれるのである。



ネックレス|ピパ スモール

ARTS&SCIENCE青山
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03-3498-1091

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。