ホースビットと自由な心【グッチ】のリング #125

グッチのホースビットに、なぜこうも惹かれるのか。理由については自分でもよくわからなかったし、今さら深掘りするつもりもなかったのだけれど、つい最近になって、はたと気づいたことがある。

ふたつのリングと細いバーを組み合わせた歴史に名を刻む意匠が、馬具に着想を得たものだということは言うまでもない。だが、乗馬の背景をいったん脇に置いてまっさらな気持ちで見つめ直してみると、まるでふたりの人間がまっすぐに手を伸ばし、つながり合っているようなのである。

ある日、私はそのことに気がついて愕然とした。長年ホースビットの靴やバッグを愛用してきた自分としては、あまりにも今さらすぎる発見だったからだ。ホースビットが表現しているのは、じつは大切な人とのつながりなのかもしれない。真偽はさておき、なんて素敵なのだろう。というか、なんで今までこんな素敵なことに気づけなかったのだろう。

アイコニックなモチーフを自由な感性で昇華

グッチの「ホースビット」ジュエリーに新作が登場! アイコニックなモチーフと5つ組み合わせたリング

ホースビットが誕生したのは1950年代。イタリアが第二次世界大戦の荒廃から急速に発展し、「奇跡の経済」と呼ばれる高度成長を遂げた頃だ。ローファーやバッグを品よく飾り、時代を超えて愛され続けてきたクラシックなハードウェア(金具)は、人びとが復興に向けてかたく手を取り合った、あの時代のムードを象徴しているようにも思える。


その後、ホースビットはジュエリーのデザインにも取り入れられるようになり、約70年の歳月を経た今、新たな作品が発表された。本来はふたつのリングで構成されるホースビットを、5つのリングでリズミカルにつなぎ合わせたイエローゴールドの指輪はそのひとつだ。手を取り合った仲間はふたりから、いつしか5人になり、みんなで手をつないでひとつの輪をつくり出した。そこには、「伝統的なモチーフはこうあるべき」といったルールに縛られない、新しい時代に適応した自由な感性が吹き込まれている。

グッチの新作「ホースビット」リング。リング〈K18YG〉¥484,000 

リング〈K18YG〉¥484,000 

「自由は個人のものだから、孤独なんですよ。まわりに合わせるのは楽だけれど、それを自由とは呼ばない。真に自由な心を持つためには、自分の言葉を持たなければいけないんです」。しなやかな曲線を描くリングを見つめながら、私は以前お目にかかった児童文学作家の角野栄子さんの話を思い出していた。戦争を経験した人の言葉には、圧倒的な重みがある。


今を生きる私たちは、自分の言葉で語ることを諦めてはいないだろうか。隣にいる人に手を差し伸べ、平和の輪をつなげていくことを放棄してはいないだろうか。決められたルールに則るだけではダメなのだ。指に心地よく沿うホースビットリングが、やわらかく、ぬくもりある輝きをたたえながら、静かにそう訴えている。


リング|グッチ

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連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。