永遠は「今」の積み重ね 【パスカル モンヴォワザン】 のリング#127

ファセットカットを施した無色透明のクリスタルが、光を反射し、きらめく水面のように手もとを照らす。パスカル モンヴォワザンの「ALBA」リング。その澄んだ輝きの中に、手彫りされたヤシの木と星のモチーフを見たとき、ふと蘇ったのは、南国ではなく湖国の記憶だった。

クリスタルに浮かぶ、ノスタルジックな光景

仏パスカル モンヴォワザンの「ALBA」リング。

時間を持て余していた学生時代、夏休みに友人たちと車で琵琶湖を一周してみようということになった。琵琶湖大橋の西側からスタートし、湖岸を反時計回りに進んでいった。すると野洲市に入ったあたりで、道沿いに並ぶヤシの木々が目に留まった。「なんか、いきなりハワイみたい」「もしかして、野洲(やす)だから“ヤシ”なのかな」などと言い合っていたら、その一帯が「マイアミ浜」という名称だとわかった。

調べてみると、1950年に指定された琵琶湖国定公園の一部で、世界的リゾート地である本家アメリカのマイアミビーチにちなんで名付けられたという。戦後復興期に誕生した「滋賀県のマイアミ」は、約80年もの間、多くの人びとに安らぎを与えてきたのだろう。

マイアミ浜を通り過ぎたあたりから、ドライブに飽き始めていた私たちは、そのまま彦根市まで北上したものの、彦根城を仰ぎながら折り返すことにした。再びマイアミ浜を通ったときは、すっかり夜も更けていた。星空にはヤシの木のシルエットが浮かび上がり、夏の風を受けてやさしく揺れていた。

「今」を生きるための言葉を石枠に刻んで

 仏パスカル モンヴォワザンの「ALBA」リング。フレームには、19世紀の詩人、エミリー・ディキンソンの言葉「永遠は幾多の今からつくられている」が英字で刻まれている

「ALBA」リングのクリスタルを縁取るのは、9Kイエローゴールドの石枠。やわらかな輝きを放つフレームには、19世紀の詩人、エミリー・ディキンソンの言葉“Forever is composed of nows”が刻まれている。直訳すると、「永遠は幾多の今からつくられている」という意味。永遠とは「今」の積み重ねであり、それが未来を形づくっているとも言い換えられる。

かつて琵琶湖のドライブをともにした友人のひとりは、のちに恋人になり、夫になり、数十年の時を経て、再びもとの友人に戻った。まさかそんな未来があろうとは、あのときの私たちは思いもしていなかった。振り返ってみても、あの時間が特別だったという認識はない。私たちは、ただ目の間に広がっている「今」を積み重ねていた。そして、いつしか未来を約束し合い、互いの「今」を尊重する道を選んで折り返した。

 仏パスカル モンヴォワザンの「ALBA」リング。 ファセットカットを施した無色透明のクリスタルに手彫りされたヤシの木と星のモチーフが輝く

リング〈K9YG〉¥139,700

リングに閉じ込められたヤシの木と星空が、図らずも昔に見た刹那的な光景とリンクした。一瞬一瞬が生まれては消えてゆく流れの中で、私たちは知らないうちに永遠を彷徨っている。すでに永遠の一部であることに気づかないまま、まだ見ぬ永遠を求めて歩み続けている。「今」を生きるということは、つまりそういうことなのかもしれないとも思う。だからこそなのだろう。忘れかけていた儚い瞬間が、たまらなく愛おしいのは。

リング|パスカル モンヴォワザン

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連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。