心の中のシベリア【BY PARIAH】のリング #128

東京のBIOTOPで出合った、BY PARIAH(バイ パーリア)のリング。小指につけてみたとき、欠けていたパズルのピースがはまったような感覚があって、ああ、自分が求めていたのはこれだったんだなと確信した。

直線と曲線を組み合わせたジオメトリックなシェイプの地金に、細長くカットされた天然石が、まるで自分の居場所を見つけたかのようにぴたりと収まっている。ボツワナアゲートという深緑のその石は、光を透過すると鮮やかな青や緑に変化し、シャープな意匠の中に見る神秘的な揺らぎにハッとさせられる。14Kリサイクルゴールドのミニマルなラインに挟まれることで、石はいっそう深く、凛とした表情を見せ、手もとに知性を宿す。

白金台・ビオトープで出合った、BY PARIAH(バイ パーリア)のリング。ボツワナアゲートという深緑のその石に視線集中

静謐で力強いそのリングを見つめながら、連想したのは「シベリア」。といっても、あの広大なロシアの土地ではなく、黄色いカステラに褐色の羊羹を挟み込んだ、和菓子とも洋菓子ともいえないサンドイッチのような食べ物のことである。

ジブリ映画『風立ちぬ』で、零戦の設計者である主人公の堀越二郎が、試験飛行に立ち会った帰りにシベリアを買うシーンがある。店のそばで、幼い姉弟が親の帰りを待っているのに気づいた二郎は、シベリアを彼らに与えようとするが、子どもたちは受け取らずに立ち去ってしまう。そしてその話を聞いた同僚の本庄は、二郎の行動が「偽善だ」と言い放つ。国が貧しいことを知りながら、道端でお腹を空かせた子どもたちの存在を知りながら、それでも自分たちは、莫大な国家予算で飛行機をつくる夢に向かって進む。そんな矛盾を突きつけられる、じつに印象深いシーンだ。

昭和初期に人気を博したというシベリアは、今ではほとんど見かけることがない。「戦後」といわれる今の時代を生きている私は、自分の指にシベリアを彷彿させるリングを添えたいと強く思っている。この世界のどこかで、今この瞬間も戦争で犠牲になっている人たちがいることを知りながら、飢えに苦しむ子どもたちがいることを知りながら、私は彼らにコップ1杯の水を与えることもせず、自分自身を飾るためのジュエリーに投資しようとしている。いったい何のために?

BY PARIAH(バイ パーリア)のリング。ボツワナアゲートという深緑の石がスクエアのフォルムにはまる。

リング〈K14YG、ボツワナアゲート〉¥269,500

何のためにジュエリーが必要なのかと問うたとき、パズルのピースがはまったような感覚が再び輪郭を帯び始めた。身につけた瞬間の震えるような高揚、何かが変わるかもしれないという希望、生きねばならないと思わせる熱い何かが、心の中をじわじわと満たしてゆく。

それは、ひどい矛盾を抱えて生き続けている私の、微かな自己主張にすぎない。けれども、きっとそれでいい。これから長く寄り添うであろう、きらめくほんの小さなピースにこそ、揺るぎない思いを託したい。


ビオトープ(ジュンカスタマーセンター)
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連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。