記憶を繋ぎ止めるもの【バイレード】#111

京都に住んでいる友人が、Bリーグ(男子プロバスケットボールリーグ)の試合を観に行った話をしてくれた。京都のホームタウンチームは「ハンナリーズ」という名前で、京ことばの「はんなり(上品で華やかなさま)」にちなんだネーミングだという。友人はハンナリーズのホームゲームを観戦したことがあると言って、試合直前に行われるスターティングメンバー紹介の動画を見せてくれた。パワフルなビートにあわせて勢いよく登場してきたのは、堂々たる体格の5人の猛者たち。その風貌は自分の中の「はんなり」のイメージとはおよそかけ離れていて、ギャップに思わず引き込まれた。

「はんなり」というと、舞妓さんのような気品あふれる人を想像するが、その語源は「華あり」。性別、年齢、国籍などを問わず「華のある」人を表現する際に使うことばでもあるらしい。そうだとすると、「ハンナリーズ」という名前も腑に落ちる。華のあるプレーで、ぜひ京都のバスケを盛り上げていってほしい。

小さな球体と棒状のパーツを組み合わせたモチーフが、絡まり合うように繋がるバイレードのチェーンリング

ところで、元バスケットボール選手で華のある人といえば、真っ先に思い浮かぶのがバイレード(BYREDO)のファウンダー兼ディレクター、ベン・ゴーラムさんだ。何年か前に一度お目にかかったことがあるのだが、見上げるほどの長身と、インドとカナダをルーツにもつエキゾチックな顔立ち、その抜きん出たオーラにしばらくフリーズしてしまった。

好きな香水のひとつに、バイレードの「ローズノワール」がある。ローズ特有の甘美さを削ぎ落としたスパイシーなノートが魅力で、どうしたらこんなミステリアスな香りができるのだろうと思っていたのだが、ゴーラムさんの姿を目の前にしてその謎が解けたような気がした。彼もまた、京都風に言うならものすごく「はんなり」した人ということになるのだろう。そう言い換えると、途端に親しみが湧いてくる。

バイレード初となるファインジュエリーコレクション「Virasaat」のリング
バイレード初となるファインジュエリーコレクション「Virasaat」のリング。XS,S,M,Lのサイズ展開があり。

そんなゴーラムさんが手がけるファインジュエリーコレクションが誕生したというのだから、食指が動かないわけがない。

「Virasaat」と名付けられたデビューコレクションは、ヒンドゥ語で「継承」を意味することば。ジュエリーは代々受け継がれていくものだという思いを込めた背景には、インド出身の母や祖母の影響が大きいという。

小さな球体と棒状のパーツを組み合わせたモチーフが、絡まり合うように繋がるチェーンリング。スターリングシルバー925のみずみずしい輝きも相まって、ぷくぷくと水泡のような表情を浮かべる様子に心を持っていかれた。指の周りを流れるようなその造形は、DNAのらせん構造のように見えなくもない。親から子へ、子から孫へ、脈々と引き継がれていく絆を表現している。

シルバー チェーンリング XS ¥71,500
シルバー チェーンリング XS ¥71,500

よく見ると、球体はどれもいびつな形で、大きさも違う。それが無性に愛おしく、ひとつひとつが小さな思い出を内包しているかのよう。フレグランスが過去の特別な記憶や感情と密接に結びつくものであるならば、ジュエリーは大切な人の記憶を繋ぎ止めるものなのかもしれない。指の上で交錯する不思議なモチーフを見ながら、ふとそんなことを思う。

生まれては消え、また生まれてゆく泡のように、儚くも力強いバイレードのリング。それもまた、華あり。

バイレード ジャパン
03-6450-5873
https://www.byredo.com/ja_jp/jewellery/

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。