父が還暦を迎えたとき、「見せたいものがある」と言って、押し入れの中の金庫からうやうやしく取り出してきたのが、数枚の金貨だった。ピカピカに輝くそれらは、圧着された透明のケースに丁寧に収められていた。たしか、何かのイベントの記念に作られたものだと言っていたような気がするが、それが何だったかは忘れてしまった。父いわく、たいへんレアなもので、売ればかなり高額になるという。
少々きな臭い話ではあるが、人生の節目のタイミングで娘に披露してくれたわけだ。もしかして譲ってくれようとしているのかと思いきや、決してそういうことではなかった。資産価値があるとはいえ、換金するつもりはさらさらないという。おもちゃのような金貨を目の前に、私はただ「へえ」と、言葉にもならない声を漏らすだけだった。
あれから20年近く経ったが、あのとき以来、父の金貨を見たことは一度もない。当時の私のリアクションが薄すぎて、もう二度と見せるのはやめようと思ったのかもしれない。はたして父の金メダルは、今もまだあの金庫の中に眠ったままになっているのだろうか。暗い押し入れの中には、父にしかわからないロマンが潜んでいるのかもしれない。
連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。