2019.08.22

ブシュロンのクリエイションディレクター、クレール・ショワンヌ独占インタビュー。ジュエリーはモード、その極意とは

1858年、パリで創業されたブシュロン。この由緒正しいこのメゾンの創作部門を統括するのが、美しきクリエイションディレクター、クレール・ショワンヌだ。

「自然光が差し込むスタジオが、パリで一番のお気に入りの場所」。クレールがそう語るのは、ヴァンドーム広場の26番地に構えるアトリエ。最新ハイジュエリーコレクション “Paris, Vu Du 26” の制作秘話、メゾンのヘリテージを紐解くべく、重厚な扉の向こう側を覗いてみよう。

text:Shunsuke Okabe

ブシュロンのヴァンドーム本店。オルレアン公フィリップ2世に仕えた貴族シャルル・ド・ノセの私邸として1717年に建てられた建物。今年の1月にリニューアルオープンした。Photo courtesy of Boucheron
ブシュロンのヴァンドーム本店。オルレアン公フィリップ2世に仕えた貴族シャルル・ド・ノセの私邸として1717年に建てられた建物。昨年12月にリニューアルオープンした。Photo courtesy of Boucheron

夢のアドレス、ヴァンドーム広場26番地

「子供の頃は、建築家、もしくはジュエリーデザイナーになるのが夢だった」というクレール。名門エコール・ドゥ・ラ・リュ・デュ・ルーブルを修了した後、1998年にパリのジュエラー、ロワゾー・ケバジャンでキャリアをスタートさせた彼女は、瞬く間にその才能を開花させ、1999年には自身のブランドをローンチ。2001年にはヴァンドーム広場にブティックを構えるロレンツ・バウマーのクリエイティブスタジオマネージャーに就任している。

同じくヴァンドーム広場の26番地の扉を開いたのが20119月のこと。ブシュロンからのオファーは、まさにドリームキャリアだったと言う。

「ジュエリーの世界に飛び込んだ瞬間から、ブシュロンは私にとって永遠の憧れ。クリエイションディレクターとして声がかかった時には、思わず夢じゃないかと耳を疑いました」。

ブシュロンのヴァンドーム広場本店。「サロン デ ルミエール」と呼ばれる、光が降り注ぐサロンからは、ナポレオンの円柱像を目前に臨んで。Photo courtesy of Boucheron
ブシュロンのヴァンドーム広場本店。「サロン デ ルミエール」と呼ばれる、光が降り注ぐサロンからは、ナポレオンの円柱像を目前に臨んで。Photo courtesy of Boucheron

ジュエリーはモードの一部

伝統と格式を重んじるジュエリーの世界において、常に革新的なクリエイションで驚きを与えてきたブシュロン。その創造性の源は、創業者フレデリック・ブシュロンのルーツにあるとクレールは語る。

「幼い頃からオートクチュールの世界を見てきた彼にとって、ジュエリーはモードの一部でした。クエスチョンマークネックレス” をはじめ、数々のクリエイティブなジュエリーを生み出して来たブシュロンにとって、前衛的であることはメゾンコードのひとつ。偉大なヘリテージを大切にしながら、それをさらに発展させることが私の使命です」。

最新ハイジュエリーコレクション “Vu Du 26” のアール・デコネックレス。オートクチュールのドレスに用いられるグログランリボンの豊かな表情を、オニキス、マラカイト、ダイヤモンドで表現。Photo courtesy of Boucheron
最新ハイジュエリーコレクション “Paris, Vu Du 26” のアール・デコ調のネックレス。オートクチュールのドレスに用いられるグログランリボンの豊かな表情を、オニキス、マラカイト、ダイヤモンドで表現。Photo courtesy of Boucheron

最新ハイジュエリーコレクション “Paris, Vu Du 26” 制作秘話

ブシュロンの最新ハイジュエリーコレクション “Paris, Vu Du 26” の着想源はヴァンドーム広場26番地のブティック、そしてパリの伝統的な建造物。幾何学的に並ぶパリの石畳や、ネオ・バロック様式を採用したオペラ・ガルニエの外観、そしてグラン・パレといった象徴的な建物をモチーフに、3つのチャプターを通して表現している。

「建築に着想を得た作品は、ブシュロンの歴史の中で数多く見られます。今回のコレクションで最も革新的な作品、“26V”ではオニキスとカショロン、ロッククリスタルをマルケトリー技法を用いて立体的に組み合わせた、全く新しいプレシャスストーンを取り入れました」。

ジオメトリックなペンダントトップは、オニキスとホワイトアゲート、ロッククリスタルを組み合わせている。創造性と卓越したクラフツマンシップ、そして先進のテクノロジーが可能にした、唯一無二の作品。Photo cortesy of Boucheron
ジオメトリックなペンダントトップは、オニキスとカショロン、ロッククリスタルを組み合わせている。創造性と卓越したクラフツマンシップ、そして先進のテクノロジーが可能にした、唯一無二の作品。Photo cortesy of Boucheron

ファッションから着想を得た制作プロセス

ハイジュエリーは身につけてこそ輝く、と断言するクレール。そのフィロソフィーは、ファッション性の高いビジュアルのみならず、独特の制作プロセスからも見て取れる。

「ハイジュエリー制作は通常、素材、特にプレシャスストーンの選定から始まります。私の場合、まず最初に思い描くのは実際に身につけたイメージ。雑誌の切り抜きをスクラップボードのように組み合わせながら、ファッションやヘアメイクを含む人物像を組み立てます」。

昨年デビューした “ジャック ドゥ ブシュロン” のクラスプを再解釈したブローチ。イメージビジュアルでは、ドレスのバックシームに合わせてスパイクのように沿わせるスタイリングを提案している。Photo courtesy of Boucheron
今年3月にデビューした “ジャック ドゥ ブシュロン” を再解釈したブローチ。イメージビジュアルでは、ドレスのバックシームに合わせてスパイクのように沿わせるスタイリングを提案している。Photo courtesy of Boucheron

 

クレール・ショワンヌ

フランス出身。エコール・ドゥ・ラ・リュ・デュ・ルーブル卒。1998年にロワゾー・ケバジャンでキャリアをスタートさせ、1999年に自身のブランドをスタート。2001年にはロレンツ・バウマーのクリエイティブスタジオマネージャーに就任。2011年9月にブシュロンのクリエイションディレクターに就任。
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