憧れがつまったジュエリーの世界。これから身にまとうなら、ひとにも自然にも誠実に作られた逸品を選び抜きたい。制作背景にまで思いを馳せ、大切に扱うこと。それこそが真のラグジュアリーだ
ダイヤモンドの透明性
Tiffany & Co.(ティファニー)
かつて民族紛争の資金源となり、問題化したことを繰り返さないためにもダイヤモンドは鉱山から店に並ぶまでの透明性が大切。その分野をリードするのがティファニーだ。1999年以降、責任ある資源調達と製造工程に投資。原石調達が紛争資金にならないようにするため導入されたキンバリー・プロセスよりも厳しい調達基準を設け、クリアしたものだけを扱っている。2019年、0.18カラット以上のすべてのダイヤモンドに、肉眼では見えないレーザー刻印を施し、調達から製作までの流通経路を開示できるように。写真は「ティファニー ソレスト」のエンゲージメントリング。0.74カラットのセンターダイヤモンドはカナダで採掘されたもの。職人による精巧なクッションカットによって光を集め、周囲を照らすようにひときわ輝く。一生の記念になるジュエリーほど、エシカルな視点を大切にしたい。
倫理的なゴールド
Chopard(ショパール)
「そのゴールドはどこから来たの?」"エコ・エイジ"のリヴィア・ファースにこう問われたとき、ショパールの共同社長兼アーティスティック・ディレクターを務めるキャロライン・ショイフレはハッとしたという。この言葉をきっかけに2013年から"サステナブル ・ラグジュアリーへの旅"を企業として掲げ、特にエシカルゴールドの分野で業界を牽引する存在に。ペルーとコロンビアの小規模鉱山と提携し、労働環境や社会発展を支援しながらフェアマインド認証ゴールドや流通過程を追跡できるゴールドのみを調達。そうして生み出されるアイテムは、"Joie de Vivre(生きる歓び)"の精神に貫かれ、幸せな気持ちになるものばかり。「ハッピーハート ゴールデンハート」のピアスもそのひとつ。映画007シリーズとのコラボレーションは、全ラインナップの合計が、世界で7007本の限定品だ。
金継ぎコレクション
Pomellato(ポメラート)
カラフルなジェムストーンのリングに定評のあるポメラートから、意表を突くコレクションが登場。2019年に日本を訪れた際、伝統的な修復技術の"金継ぎ"に感銘を受けたクリエイティブ・ディレクターのヴィンチェンツォ・カスタルドが、不完全な美しさをラグジュアリーなジュエリー界に持ち込んだ。通常は使用せずに廃棄されてしまうストーンを金継ぎすることでアップサイクル。リングのほか、イヤリングとネックレスが揃う。企業としてエコ・コンシャスな未来を目指し、レスポンシブルゴールドの購入を100%達成した最初のジュエリーブランドなだけあり、ユニークな発想の根底にはエシカルなマインドが光る。
真珠のゼロ・エミッション
MIKIMOTO(ミキモト)
貴重な天然パールの乱獲によって、絶滅が危惧されていたアコヤ貝を守るため、真珠の養殖に尽力したのが、MIKIMOTOの創業者、御木本幸吉だ。1893年に半円真珠の養殖に世界で初めて成功し、世界的なジュエラーとして名を馳せるようになった現在に至るまで、創業者のエシカルな精神は受け継がれている。そのひとつが、養殖過程でのゼロ・エミッション(廃棄物ゼロ)だ。真珠を採取したのち、たとえば、貝肉や貝殻からコラーゲンや真珠層タンパク、パールミネラルなどの有用成分を抽出し、グループ会社の化粧品や健康食品の原料に。貝殻は装飾品や土壌改良剤として、社外とも連携しながら活用している。自然の恵みに敬意を払い、大切に育てられたパールのネックレスは、何世代も受け継ぎたい可憐な美しさにあふれている。
エシカルジュエリー ア・ラ・カルト
リファインメタル
hum(ハム)
廃棄された携帯電話やPCなどの"都市鉱山"から採取され、精錬を経て純度の高い状態に戻った貴金属素材を独自に"リファインメタル"と名付け、ジュエリーの新たな価値を創出しているハム。自社のアトリエでひとつひとつ手で製作するコレクションは、手間さえ惜しまなければ誰でも加工できるデザインにすることで、 職人の労働環境への配慮も垣間見える。装身具としての美しさはもちろん、純粋で、強い意志が込められたジュエリーだ。また、リファインメタルを普及させ、ハムが独占するのではなく、サプライチェーンを共有して誰もがそれを使える、選べるような状況を生み出すため、ブランドの枠を超えて新たに社団法人を立ち上げ、ジュエリー業界全体におけるサステイナビリティとトレーサビリティを追求している。
いろいろなジェム
Pippa Small(ピパ スモール)
(右)カナダ出身で、ロンドンを拠点に活動するピパ・スモール。環境に負荷を与えず採掘され、鉱山労働者の権利や地元のコミュニティに配慮して生産される"クリーン・ゴールド"を世界で初めて採用したデザイナーだ。天然石の形をそのまま生かして仕立てる手法が特徴的。エシカルな美意識はノマディックでグラマラスなジュエリーに昇華されている。
ピアス〈SIL/K18コーティング、ホワイトトパーズ〉¥22,000/バーニーズ ニューヨーク(ピパ スモール)
mi luna(ミ ルーナ)
(左上)私の月、という意味のミ ルーナは、日本最大級のリサイクルショップ、コメ兵が買い取りしたジュエリーの中から、鑑別を通して厳選した天然石をアップサイクル。大ぶりの石をリカットすることなく、シンプルなデザインに仕立てている。地金はコストを抑えられるK10。良質で魅力的な天然石のジュエリーを、手の届きやすい価格帯で提供することを目指している。
リング〈K10YG、ローズクォーツ〉¥60,500/ミ ルーナ
HiMARI(ヒマリ)
(左下)大手ジュエラーによって量産されるときの予備や、生産数以上の大量の宝石が研磨されたまま残っている。そんな現状を逆手に取り、デッドストックとして価値がつかなくなってしまった天然石などを見事なジュエリーに蘇らせているのがヒマリだ。写真は透明度の高いホワイトベリル。有機的な曲線のリングをはめると、指の隙間に浮かんで見えるようなユニークなデザインだ。
リング〈K10YG、ホワイトベリル〉¥59,400/ヒマリオンラインショップ(ヒマリ)
捨てない美しさ
CLED(クレッド)
(右)LAベースのクレッドは、RECYCLEDとUPCYCLEDの語尾からとった名前からもわかるとおり、今あるものを再利用するジュエリーブランドだ。たとえば、リサイクルガラスを"エコジェム"と称し、独自の宝石として提案。手作業による丁寧な仕立てにも惚れぼれ。
リング〈K14ゴールドフィルド、ガラス〉¥16,500/アイソレーション ジュエリー(クレッド)
su Ha(スハー)
(左)日本の森や海で育った素材、不揃いで市場に出回らないものや通常は見過ごされてしまうものに美しさを見いだし、新たな息吹をもたらすスハー。天然の素材と日本の職人による細かな手仕事から生まれるジュエリーは、まるで小さな命を身につけているかのように、内面から力が湧いてくる。
ピアス〈K18YG、あわび〉¥67,100/スハー
再生プラスチック
Thief and Heist(シーフ アンド ハイスト)
ルイ・ヴィトンのウォッチ & ファインジュエリー部門のアーティスティック・ディレクター、フランチェスカ・アムフィテアトロフによる、プライベートブランド。シルバー925の金具がポイントの再生プラスチック混ブレスレットは一度つけるとハサミで切るまではずせない仕組み。半永久的に残るプラスチック問題への抗議の意味を込めている。売り上げの一部は、海洋廃棄物を減らし、社会貢献を行なっているプラスチックバンクに寄付される。
リサイクルメタル
Alighieri(アリギエーリ)
(右)ロンドンを拠点にロッシュ・マタニが2014年にスタート。使用素材はすべてRJC(Responsible Jewellery Council)加盟の企業を通し、輸送が不要な徒歩圏内ですべて製造している。ダンテの『神曲』に着想した作風は、リサイクルブロンズのいびつなデザインが特徴的。
ネックレス〈K24 plated bronze〉¥46,200/エストネーション(アリギエーリ)
Lilian von Trapp(リリアン・ヴォン・トラップ)
(中央上)エシカルなファインジュエリーのデザイナーとして注目を浴びるのが、ベルリン出身のリリアン・ヴォン・トラップだ。ドイツの金細工職人によって再生された材料を用いたミニマルなデザインはセレブリティからの支持も。リング〈K18YG、WG〉¥539,000/ザ ストア バイ シー 代官山店(リリアン・ヴォン・トラップ)
Laura Lombardi(ローラ ロンバルディ)
(中央下)彫刻的なアプローチがユニークなローラ ロンバルディはデッドストック素材やリサイクルブラスを用いた持続可能な物作りに定評がある。すべてのプレーティングはゼロ・ウェイストのろ過システムを用い、可能な限り自社でハンドメイドをしている。ピアス〈真鍮〉¥17,600/grapevine by k3(ローラ ロンバルディ)
All Blues(オール ブルース)
(左)2010年の設立当初からサステイナブルな取り組みをしているオール ブルース。地元ストックホルム産の再生シルバー925を採用し、3代続く金細工職人と控えめながら強さのあるジュエリーを制作。それは、伝統技術を守ることにもつながっている。ネックレス〈SIL〉¥42,900/エドストローム オフィス(オール ブルース)
SOURCE:SPUR 2021年9月号「選ぶなら、エシカルジュエリー」
photography: Saki Omi 〈io〉 styling: Maiko Kimura hair & make-up: Momiji Saito 〈eek〉 model: Senping special thanks: Keiko Homma
※この特集中、以下の表記は略号になります。RG(ローズゴールド)、YG(イエローゴールド)、WG(ホワイトゴールド)、Pt(プラチナ)、SIL(シルバー)