100年続く、生きたアートピース。【コスチュームジュエリー】の世界を専門家が解説!

現在開催中のパナソニック汐留美術館『コスチュームジュエリー 美の変革者たち』に寄せて専門家の小瀧千佐子さんと本間恵子さんが語り合う。奥深い歴史と、日常に取り入れたいその魅力とは?

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 自由な素材で、デザイナーの発想を豊かに表現した20世紀のジュエリー

小瀧千佐子さんと本間恵子さん

本間 コスチュームジュエリーの100年の展開をたどる日本初の展覧会『コスチュームジュエリー 美の変革者たち』。本展の監修者であり、コレクションから数多くの作品を出展されている小瀧千佐子さんにお伺いします。そもそもコスチュームジュエリーとは、どういうものでしょうか?

小瀧 19世紀までのジュエリーは、男性が「自分の富や権力」を誇示するため、自身や妻子につけさせるものでした。20世紀の始まりとともに、女性たちが社会に進出し、自分で自分の欲しいものを買う、という時代が到来します。1920年代以降、シャネルやディオール、スキャパレリなどグランメゾンが本格的にオートクチュールドレスを製作するようになります。これらを際立たせるために誕生したのが、コスチュームジュエリーです。

本間 始まりは、オートクチュールの「コスチューム」に付属するものだったのですね。

小瀧 はい。ドレスの魅力を引き出す装飾品として、ハンドメイドで一点のみ作られました。そして、コスチュームジュエリーの誕生は同時に「素材の解放」でもありました。

本間 ファインジュエリーにはゴールドやプラチナなどの貴金属と宝石が用いられます。それらとの大きな違いが、素材ですね。

小瀧 コスチュームジュエリーの素材は非貴金属で多種多様です。ガラス、半貴石、中には新聞紙を使ったものまであるんですよ。

スキャパレリ《ネックレス「葉」》
『コスチュームジュエリー 美の変革者たち』出展作品より。1 スキャパレリ《ネックレス「葉」》デザイン・制作:ジャン・クレモン、1937年頃(個人蔵)

本間 デザインに関しても、どちらかといえばクラシカルでコンサバティブなファインジュエリーに対して、コスチュームジュエリーには驚くような革新が見られますね。

小瀧 そうなんです。自由で、デザイナーの思いがストレートに表現できるのが面白いところ。独自の世界観でアーティストとしての個性を開花させたスキャパレリの作品(1)は、コスチュームジュエリーならではの、本展の見どころの一つです。

スキャパレリ《クリップ「サーカスの熊」 モチーフ》
2 スキャパレリ《クリップ「サーカスの熊」 モチーフ》デザイン:ジャン・シュランバージェ、1938年頃(小瀧千佐子蔵)
スキャパレリ《クリップ「ハート」モチーフ》
4 スキャパレリ《クリップ「ハート」モチーフ》1938年頃(小瀧千佐子蔵)

本間 ティファニーで偉大な足跡を残したジャン・シュランバージェのように、コスチュームからファインの世界に入ったデザイナーもいますね。彼がスキャパレリ時代にデザインしたコスチュームジュエリー(2・4)には、遊び心があふれています。

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5 トリファリ《ペアクリップ「ペーターとヘレン」》1939年(小瀧千佐子蔵)

小瀧 流行をとらえたデザインや、高価な素材では実現し得ないモチーフ(5)も登場します。デザイナーの豊かな発想と職人技が光るこれらのアイテムは、アートピースと呼ぶにふさわしい。20世紀の遺産といえます。

コッポラ・エ・トッポ《チョーカー「花火」》
6 コッポラ・エ・トッポ《チョーカー「花火」》デザイン:リダ・コッポラ、1968年(小瀧千佐子蔵)

本間 花火のようにクリスタルガラスがきらめく、1960年代製作のチョーカー(6)は、アイデアが自由で素晴らしいですね! 実物を目にする価値があります。

流行とともにうつろいながらも確立。 作り手独自の、揺るぎないスタイル

ケネス・ジェイ・レーン《ネックレス「ジャッキー・オナシス スタイル」》
3 ケネス・ジェイ・レーン《ネックレス「ジャッキー・オナシス スタイル」》1970年(小瀧千佐子蔵)

小瀧 コスチュームジュエリーは洋服同様、3つのレベルがあります。オートクチュールのために作られた作品、次は、デザイナーが発表する数量限定のコレクションピースとしてのプレタポルテ用。そして、ヨーロッパの文化が新大陸に渡り、アメリカナイズされた大量生産のファッションジュエリー。量産に適した新たなマテリアルを発明して、一般の人々が気軽に買える、アメリカらしいジュエリーの誕生です。

本間 スキャパレリも戦争から逃れてアメリカへ渡りましたね。そして「キング・オブ・フェイク・ジュエリー」と呼ばれたケネス・ジェイ・レーン(3)も有名です。

小瀧 力強く世相をとらえた新しい文化。これもまたコスチュームジュエリーの一つの歴史を物語っています。

本間 作り手が新しいものを求める姿をたどってゆくと、ジュエリーが常に時代の流れを反映していることが、よくわかります。

小瀧 まさに。彼らが思う存分に個性を発揮することで、時代の変化や世相が鮮やかに切り取られます。ファッションジュエリーは、流行とともに生まれ、その流行の終焉とともに消えさる運命にあります。ところが、本展で紹介するコレクションには、二つの世界大戦を越えてなお生き残ったコスチュームジュエリーが多く登場します。なぜこれらが時代に押し流されずに踏みとどまったかというと、シャネル、スキャパレリから始まり、バレンシアガ、ディオール、ジバンシィ、サンローランと続くデザイナーたちの確固たるスタイルがあるから。彼らが表現し、伝えてきたコスチュームジュエリーには、スタイル、すなわち「確立された様式美」があると私は考えます。

本間 まさに、21世紀に残るべくして残った貴重なコレクションですね。

今こそ身につけたい、自分らしくいられるコスチュームジュエリー

スキャパレリのブローチ
7 小瀧さんが「身につけると元気が出ます」と語る、スキャパレリのブローチ。爆弾と弓矢に天使の羽が生えたモチーフに戦争反対のメッセージを込めている。「今こそ身につけたいデザインですね」と本間さん

本間 今またトレンドが「ジュエリーをつけたい気分」に戻ってきています。こうしてコスチュームジュエリーに触れていると、歴史的・美術的価値の高さもさることながら、「欲しい!」「可愛い」という、素直な楽しさと高揚感がかき立てられますね。

小瀧 コスチュームジュエリーとは、個性を引き出すための小道具だと私は考えています。初めての方が日常に取り入れるなら、ブローチをぜひおすすめしたいですね。若いときからぜひ、コレクションを始めてみてほしいです。鏡の前でつける位置や合わせるコーディネートを模索して、楽しみながら感性を養っていただけたらと思います。

本間 身につけることで気持ちが上がる効果は、確実にありますね。それに、出合いは一期一会で、時とともにどんどん価値が上がっていくもの。日本では、装飾品のことを大雑把に「アクセサリー」とまとめてしまいがちですが、そうではない「コスチュームジュエリー」という独自の世界の奥深さに、日常的に触れてほしいと心から思います。

小瀧 その通りですね。コスチュームジュエリーという100年以上続く文化の中で、作り手たちは、時代へのメッセージを発信し続けています。今の私たちへのメッセージは何かというと、「自分を大切にして」ということではないかな、と私は考えています。自分自身を可愛がり、大切にする、自分らしくいるための小道具。それがコスチュームジュエリーなのではないでしょうか。

本間 素敵です! コスチュームジュエリーに込められたそんな力が、美術館の展示と日常のファッションをつないでくれるようです。

1960年代のミッソーニのブローチ
8 「遊び心のあるブローチは、若い人にこそつけこなしを楽しんでほしい」と小瀧さん。ミラノで手に入れた1960年代のミッソーニのブローチは、エルヴィス・プレスリーの横顔!
アール・デコ期のフランス製ブローチ
小瀧さんのコレクションより。 9 ベークライトなどの新素材を用いた。アール・デコ期のフランス製。日本趣味も感じさせる
ディオールによる50年代のブローチ
10 ディオールによる50年代のブローチ。ハートとメロディをイメージしたものと矢立てモチーフは、エレガントな雰囲気
ガラス製のコスチュームジュエリー。ブローチはシュライナー。ネックレスはディオール、イヤリングはスキャパレリのアメリカでの作品
11 ガラス製のコスチュームジュエリー。ブローチはシュライナー。ネックレスはディオール、イヤリングはスキャパレリのアメリカでの作品。作風の変化が見てとれる
ヴェネチアンビーズのネックレス
12 ヴェネチアンビーズのネックレスはボリュームがあっても軽い。Tシャツやシンプルなニットにつけるのがおすすめと小瀧さん

『コスチュームジュエリー 美の変革者たち』

『コスチュームジュエリー  美の変革者たち』

コスチュームジュエリーを包括的に紹介する日本初の展覧会。国内随一のコレクションから選りすぐった400点余りの作品を公開。東京、京都ほか全5館巡回予定。

☎050−5541−8600(東京展)
【東京】会期:〜12月17日 会場:パナソニック汐留美術館

【京都】会期:2024年2月17日〜4月14日 会場:京都文化博物館

小瀧千佐子プロフィール画像
小瀧千佐子

コスチュームジュエリー、ヴェネチアングラス、ヴェネチアンビーズの研究家でありコレクター。展覧会『コスチュームジュエリー 美の変革者たち』監修を手がける。コレクター歴は40年、東京・北参道にてショップブランド〈chisa〉をプロデュース。

本間恵子プロフィール画像
本間恵子

ジュエリー・時計ジャーナリスト。ファッション誌、ライフスタイル誌、専門誌、新聞を中心に国内外で取材、執筆。編集やスタイリングにも携わる。ほかに、業界団体やジュエラーが主催するジュエリーセミナーや講演、テレビのコメンテーターとしても活躍。

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