稀なるジェムの美学と科学
神秘的なカラーストーンの世界へようこそ。悠久の時間と、地中深くの不思議な化学反応が生成する色彩。その美に魅せられた人の手が形作るデザインに、想いを馳せたい
人類とカラーストーンジュエリーの歴史は紀元前約3000年、古代エジプト文明に遡る。ターコイズ、カーネリアンなどが神殿や王墓の装飾に用いられ、また、紀元前2500年頃のインダス文明遺跡もそれらの天然石にデザインを施した装飾品が出土した記録がある
1 眼福なキャンディカラーのトルマリンが胸もとで存在感を放つ。
スモール「フェイバリット」ネックレス〈YG、マルチカラートルマリン〉¥3,184,500/MHT(マリーエレーヌ ドゥ タイヤック)
2 あまたのカラーストーンをちりばめ虹色に輝くアイコンモチーフ。
「リアン コレクション」 ジュ ドゥ リアン ペンダント〈PG、ダイヤモンド、パイロープガーネット、スペサルティンガーネット、マンダリンガーネット、ツァボライトガーネット、シトリン、ペリドット、サファイア、アメシスト、ピンクサファイア〉¥937,200/ショーメ
3 ジェムの色彩を引き出すマルチなカッティングの妙とバロックパールの調和を楽しみたい。
「バロックパール」バングル〈WG、バロック南洋真珠、ブルートパーズ、ピンクトルマリン、シトリン、ペリドット、アメシスト〉¥1,320,000/TASAKI
空と海の色を写し取るブルーの宝石。3大貴石のひとつといわれるサファイアや古代エジプト文明やアメリカ先住民の間で珍重されたターコイズ、クォーツ(石英)の細かな結晶が網目のように集まり生まれた鉱物カルセドニー、光の照射によりさまざまな青の色相に変化するブルートパーズなど、世界中で神聖な象徴として愛されてきた
Van Cleef & Arpels(ヴァン クリーフ&アーペル)

「ペルレ クルール」ブレスレット〈YG、ダイヤモンド、ターコイズ〉¥3,788,400/ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク(ヴァン クリーフ&アーペル)
ターコイズのアジュールブルー=澄み切った空の色は、メゾンのジュエリーを象徴するカラーのひとつ。ゴールドビーズの台座に映え、穏やかに気品をたたえる。
Monies(モニーズ)

ネックレス〈カルセドニー、マウンテンクリスタル〉¥434,500/ドーバー ストリート マーケット ギンザ(モニーズ)
水晶は古くから世界中で親しまれてきた鉱物。表情豊かな模様が浮かぶカルセドニーとクリアなマウンテンクリスタルをコペンハーゲンの工房で磨き上げたネックレスは、モダンな表情をまとう。
Robinson Pelham(ロビンソン ぺラム)

「マイレディ コレクション」エリザベス リング〈WG、YG、ダイヤモンド、アクアマリン〉¥2,035,000/チェリッシュ インク(ロビンソン ぺラム)
その名の通り、海の水のような透明度の高さが価値を表すアクアマリン。英国王妃に愛されたロンドンのジュエラーの手により、可憐なリングに仕立てられた。
Gemmyo(ジェミオ)

リング「アール・デコ ロンド」〈PG、ダイヤモンド、サファイア〉¥543,000/ジェミオジャパン(ジェミオ)
稀少なロイヤルブルーサファイアをセンターに、18石のダイヤモンドをセッティングしたアール・デコを思わせる幾何学的なラインで装飾。深い青の色合いが際立つ。
Buccellati(ブチェラッティ)

「マクリカラー」ペンダント〈WG、YG、タンザナイト〉¥4,125,000/ブチェラッティ
世界で唯一、タンザニアだけで採鉱されているタンザナイト。すみれ色がかったナイトブルーは、角度によって自然の風景のような変化を見せる。超絶技巧のエングレービングでシルクのような質感に仕上げた地金に鎮座。
太陽から降り注ぐ光や、果実のみずみずしさを思わせるイエローのジェムストーンは、人々をエナジャイズする存在として捉えられてきた。ダイヤモンドの主成分、炭素に窒素が含有されて生まれたイエローダイヤモンド、コランダムに微量元素が反応し生まれたイエローサファイアなど、自然から生み出される彩度や生成要素も多様だ
Tiffany & Co.(ティファニー)

「ティファニー ソレスト」リング〈Pt、ダイヤモンド、イエローダイヤモンド1.13ct〉¥2,860,000(参考価格)/ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク(ティファニー)
1877年、世界最高峰のファンシー イエローダイヤモンド「ティファニー ダイヤモンド」を発表して以来、黄色の貴石はブランドの卓越した技術と歴史を象徴する。
TASAKI(タサキ)

「リンケージ」ペンダント〈WG、ダイヤモンド、あこや真珠、イエロートルマリン(カナリートルマリン)〉¥2,893,000/TASAKI
蛍光色を帯びたカナリートルマリンは、2000年代に原石が発見された稀少な石。格子を表現したフレームにあこや真珠とともにセッティングし、アーティな趣に。
Prounis(プラウニス)

「イエロー エメラルドカット サファイア ガイアロズ」リング〈YG、イエローサファイア〉¥1,705,000/シハラ ラボ(プラウニス)
内包する成分により、やわらかな黄金色を帯びたファンシーサファイア。アップサイクルされた石を用い、リサイクルゴールドを工芸的な技法で洗練されたリングに仕上げた。
Damiani(ダミアーニ)

「マルゲリータ」ピアス〈YG、ダイヤモンド、シトリン〉¥1,001,000/ダミアーニ 銀座タワー(ダミアーニ)
黄水晶と呼ばれるシトリンは、ぬくもりを感じさせ、幸福感のあふれるイエロー。周囲にはダイヤモンドをちりばめた花弁を配して、愛の象徴といわれるマーガレットのモチーフを表現している。
MIO HARUTAKA(ミオ ハルタカ)

「レモン」リング〈YG、WG、ダイヤモンド、イエローサファイア〉¥2,178,000/ミオハルタカ トーキョー(ミオ ハルタカ)
天然貴石を用いたユニークなモチーフジュエリー。イエローサファイアのみずみずしいシトラスカラーにダイヤモンドの透明感を添え、遊び心と上品さを兼ね備えたリングに。
生い茂る植物や鮮やかな生物たちが見せる色、グリーン。自然や命の再生を司る宝石として神聖視されてきた歴史がある。エメラルドは、その美しさと稀少さから現代でも3大貴石とうたわれ、また、古代エジプトではペリドット、マラカイトが、古代中国と中南米では、ジェイドが魔除けの石として愛されてきた
Boucheron(ブシュロン)

「セルパンボエム」ペンダント スモール〈YG、マラカイト〉¥401,500(予定価格)/ブシュロン クライアントサービス(ブシュロン)
ドロップモチーフや繊細なツイストチェーンで、スネークの美しさを表現したコレクション。流紋が浮かび上がる深緑色のマラカイトはミステリアスなムードを帯びて、人々を魅了する。一つひとつ異なる表情を堪能したい。
Pomellato(ポメラート)

「ヌード」 イヤリング〈RG、WG、ダイヤモンド、プラシオライト〉¥1,870,000/ポメラート クライアントサービス(ポメラート)
みずみずしいグリーンのプラシオライトが、耳もとでダイヤモンドと響き合う、アイコニックな「ヌード」。独自の技法によってジェムの澄み渡った色彩を際立たせている。
Piaget(ピアジェ)

「ピアジェ サンライト」ペンダント〈PG、ダイヤモンド、マラカイト〉¥778,800/ピアジェ コンタクトセンター(ピアジェ)
浮かび上がる模様から「孔雀石」という和名を持つマラカイト。自然のエナジーを感じさせるグリーンに、太陽の光輪を思わせるピンクゴールドとダイヤモンドの輝きがまばゆい。
Chopard(ショパール)

「ハッピーダイヤモンド プラネット」バングル〈RG、ダイヤモンド、グリーンアゲート〉¥649,000/ショパール ジャパン プレス(ショパール)
微小なクォーツの結晶で構成されたグリーンアゲートを艶やかな球体に。円環のバングルに、ムービングダイヤモンドとともに連なる佇まいが惑星を思わせる。
Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)

「カラー ブロッサム」ブレスレット〈PG、ダイヤモンド、マラカイト〉¥1,705,000/ルイ・ヴィトン クライアントサービス(ルイ・ヴィトン)
アイコニックなモノグラム・フラワーを天然石で表現したブレスレット。マラカイトを彫り出したモチーフは、ふっくらとしたフォルムと深い色が生命力を感じさせる。
身につければ、薄紅のように肌に血色を灯すピンク色のナチュラルジェム。古来、生命力や美の象徴とされ、ロマンティックな意味も込められてきた。サファイアやトルマリンは、夕焼けの色のような透明度の高いピンクを発色し、クォーツやオパールは、花や貝殻のような乳白色のやわらかな色合いを見せる
Bvlgari(ブルガリ)

「ディーヴァ ドリーム」ピアス〈PG、ダイヤモンド、ピンクサファイア、ルビー〉¥3,597,000/ブルガリ・ジャパン(ブルガリ)
古代ローマ、カラカラ浴場遺跡に残されたモザイクタイルの扇形モチーフを模したコレクション。3種の天然石が紅色のグラデーションを成し、耳もとで絢爛な装飾を奏でる。
Fred(フレッド)

「パン ドゥ スークル」リング ラージモデル〈PG、ダイヤモンド〉¥1,210,000・カボション ラージモデル〈PG、ピンクトルマリン〉¥1,760,000/フレッド カスタマーサービス(フレッド)
幸福感あるピンクトルマリンのカボションストーンを堪能。リングと石は自由に組み合わせてセットできる。
Hermès(エルメス)

ペンダント(上)「アミュレット」 ケリー〈PG、ピンクオパール〉¥1,452,000・(下)「アミュレット」 コンスタンス〈PG、ピンクオパール〉¥1,309,000/エルメスジャポン(エルメス)
メゾンを象徴するバッグをモチーフにしたネックレス。オパールのやわらかなフォルムと半透明の色合いが愛らしい。
Dior(ディオール)

「ローズ デ ヴァン トライバル」シングルピアス〈PG、ダイヤモンド、ピンクオパール〉¥910,000/クリスチャン ディオール(ディオール ファイン ジュエリー)
ムッシュ ディオールが愛したモチーフをちりばめたジュエリーには、同じく彼のシンボルフラワーである薔薇色のオパールがよく似合う。
Sophie Joanne(ソフィージョアン)

「デイジーフラワー」リング〈YG、ピンクオパール、ピンクトルマリン〉¥330,000/ロンハーマン(ソフィージョアン)
デイジーの花の生命力を写し取るようにカーヴィングしたピンクオパール、中央にはピンクトルマリンを配置。指先に花が咲いたような可憐さと、高度なクラフツマンシップが光るリング。
人々を魅了するカラーストーンは、地球が生み出した宝物。その美しさとともに、科学的・技術的背景を知ると、その輝きはさらに奥深いものになるはずだ。TASAKIカラーストーンエキスパートの方に聞いた
「色石=カラーストーン」とは?
色石(カラーストーン)の定義は、「ダイヤモンド以外の色のついた宝石」。色のついた宝石は数多くありますが、無色透明のロッククリスタル、ホワイトサファイアなども、ダイヤモンドでなければ色石に分類されます。その多くは地球内部で育まれた、一定の化学組成と結晶構造を持った物質です。それ以外にも、植物樹脂の化石である琥珀、生物由来のパールや珊瑚、鉱物と有機物の中間的性質を持つ非晶質のオパールなどがあります。
色石にはどんな種類がある?
石を組成する主成分により、いくつかの系統に分けることができます。ひとつの家系からさまざまな個性が生まれるように、わずかに違う成分が混じることで劇的に色が変化します
コランダム系
酸化アルミニウムを主成分にしたコランダムといわれる鉱物のグループ。モース硬度は9と高く、微量の元素の違いと色調によって宝石名が変わる

(左から)
【ルビー】
クロムの作用で赤に発色したコランダムを呼ぶ。最も価値の高いものは「ピジョン・ブラッド(鳩の血)」と呼ばれる深紅の色調
【ブルーサファイア】
深みと透明感のあるロイヤルブルー。コランダムに鉄とチタンが作用して生まれる。最も一般的で伝統的に価値が高い色のサファイア
【ピンクサファイア】
クロムの作用によって赤系の発色をするコランダムのうち、ピンクの色調を持つものを呼ぶ。化学的にはルビーと同じ鉱物である
【イエローサファイア】
鉄とマグネシウムが作用することで黄色の色調を持つコランダム。色合いによりゴールデンイエローやレモンイエローなどがある
ベリル系
ベリリウム・アルミニウム・ケイ素を基本組成とする鉱物のグループ。モース硬度は7.5〜8。透明度が高く結晶内部にインクルージョンがあるものが多い

(左から)
【エメラルド】
最も有名で価値が高いベリル。クロムとバナジウムの微量元素によって緑色になる。長方形のエメラルドカットは透明度と色調を引き出すため
【アクアマリン】
ベリルに鉄が作用すると水色〜青緑色のアクアマリンに。ベリルの中では内包物が少なく、澄んだ色のものが多い。青が濃いほど価値が高くなる
【モルガナイト】
マンガンの作用でピンクやピーチ、ローズカラーなど、比較的やわらかな色調になるベリル。1910年代にアメリカ・カリフォルニアで発見された
トルマリン系
複雑な化学組成を含むケイ酸塩鉱物のグループ。微量な成分の違いで多くの色を示す。モース硬度7〜7.5以上で研磨とカットに耐えられるものだけが宝石となる

(左から)
【パライバ】
ネオンブルーの発色は銅とマンガンによる。1980年代末に発見され、ごく短い期間にしか産出・流通しなかったため、非常に稀少なトルマリン
【イエロートルマリン】
鉄やマンガン、チタンなどの影響で黄色に発色する。色調のレンジが広く、淡い黄色から、ネオンカラーのカナリートルマリンまで多様に変化
【ピンクトルマリン】
主にマンガンイオンを発色原因とするピンク色のトルマリン。成分によりグリーンへのグラデーションを見せるバイカラーのタイプもある
そのほか
カラーストーンは化学組成式だけで定義されるのではなく、鉱物に属さないものもある。人間の美的感覚や主観により分類されたさまざまな種類が存在している

(左から)
【タンザナイト】
正式鉱物名はゾイサイト。1960年代にアフリカのタンザニアで発見され、現在もこの一地点でしか産出されない稀少なブルーの鉱物
【オパール】
化学的には鉱物ではなく非晶質の水和二酸化ケイ素からなり、水分を含んでいるのが特徴。虹色の遊色効果が見られるものや、多様な色調を持つ
【ペリドット】
カンラン石と呼ばれる鉱物の中で、宝石として加工されるものがペリドット。鮮やかな黄緑色からオリーブグリーンの色調を持つ
【ガーネット】
単一の鉱物ではなく、類似の構造と性質を持つ鉱物の一群を呼ぶ。ざくろ石の和名を持ち、写真のオレンジ色はマンガンを多く含む
色石の価値はどうやって決まる?
カラーストーンの価値は「稀少性」と「美しさ」と「耐久性」の3つのバランスにより決まります。文化や歴史、産地のストーリーなど、科学的な観点だけでは測れないエモーショナルな部分がその価値を生み出していると言えるでしょう。
一般的に、不純物のないジェムのほうが単純に高価だと思われるでしょうが、実のところ、スーパークリーンなエメラルドの見た目は、まるで合成石のようで、色気が感じられなかったりするのです。インクルージョンは必ずしも悪いものではなく、色の揺らぎや奥行きを出してくれる要素のひとつ。人間の魅力とよく似ているように思えます。
また、石の魅力は個別のカットによって大きく引き出すこともできます。ダイヤモンドの場合は、GIA(米国宝石学会)の定めた評価体系があり、取引の数値的な基準になっていますが、色石にはそれがありません。だからこそ、カラーストーンの価値は信頼できるジュエラーに所属するスペシャリストの感性や感覚に依拠するところが多いのです。揺るぎない価値観を育て、さまざまな知見を共有し継承することも、TASAKIのカラーストーンエキスパートの仕事のひとつです。
1 カボションカットのラベンダージェード
2 トリリアントカットのピンクトルマリン
3 オーバルカットのインディゴライト(ブルートルマリン)
4 ラウンドブリリアントカットのクリソベリル
5 「TASAKI Atelier」のセレニティネックレス。ジュエリーエキスパートがデザインに合わせ色石の配置を指定
6 ブルートパーズの色調
お話を聞いた人
TASAKIカラーストーンエキスパートとは
専門部署で、ジュエリーのデザインをもとにパール、ダイヤモンド、色石の組み合わせを実際の形に落とし込み、クラフトマンに制作を依頼するまでの過程を担うプロフェッショナル。鑑定・選別、市場での買いつけも行う