A 芸能界のなかでも、役者とアイドルの道は描いてみたかったんです。主人公の二人が、アイドルの子どもとして生まれ変わるという設定は最初のフックでもあるし、自分自身、描いていて熱くなれるのは役者の話かなという思い入れのようなものもありました。
M 週刊連載で新しいキャラクターが次々に出てきたときは、先に言ってくれ〜! と叫びそうになりました(笑)。今回だけの登場かな、と思って描いたサブ的なキャラが、後々メインになったりもするので気が抜けません。
A それはメンゴ先生の絵がよすぎるから! キャラを予想以上に気に入ってしまって、また登場させたくなっちゃうんです。言うなれば、僕はマンガに聞きながら描いてるんですよ。
M うまいこと言うね。物語が進むにつれていろんなキャラクターにスポットライトが当てられ、結果的に群像劇になっていったよね。
A 芸能界におけるさまざまな業種の人たちが、どういった価値観で動いているかを描きたい。となると、客観的に捉えるより当事者を出して心情を語らせるほうがうまくいくというのもひとつの理由ですね。
――テーマや人物の多彩さに加えて、描かれる時間も複層的ですね。
A 当初は大河ドラマ的なイメージというか、登場人物が世代を超えて、ゆっくり大人になっていく様を描きたいという思いがあったんです。
M 結果的にスピーディな展開になった。でも、このテンポがいいんだって褒められることも多いよね。
――連載を描き進めるうちに浮上してくる要素も多いんですか?
A 最初から決めていることが8割、残りが2割という感触ですね。
M もともと決めていたところにエッセンスやアドリブが加わってくる。
A 「重曹を舐める天才子役」のフレーズ(3)なんて、まさにアドリブで出てきた表現。まさかあんなにフィーチャーされるとは思ってなかったです。
M 共作ならではの即興性というか、ライブ感も楽しんで描いてます。
――連載とアニメが並行して進みますが、アニメからマンガへの影響も?
M 影響はかなり受けてます! アニメは抽象化するのが巧みなんです。こういうふうに描いたらいいんだ〜と真似してみたり、色をこうすると映えるな、と逆輸入することもありますよ。
A アニメで描出されたディテールを立てるためにこんな話も描いてみよう、と新しいアイデアにつながることも。
M 第1話の試写を観終わったあと、アカ先生から前もって渡されていたネームの、ある場面の台詞と表情を変更したいって連絡がきて。アニメの熱量にあおられるように、マンガのニュアンスを調整したこともありました。
――マンガからアニメへの絵の変換といえば、口の表現が印象的でした。
M そうなんです! 私の絵、口の上の線に特徴があるんですけど、ばっちり拾って、再現してもらってうれしかったですね。初めはアニメ化するにあたって、制作側と頻繁にコミュニケーションを取る必要があるのかな、と思っていたんです。だけど、序盤に少しやりとりして、そこからフィードバックをしっかりもらえているので、私のほうはほぼ全面的にお任せしちゃってます。
――その上で、連載ではマンガならではの表現への挑戦もあるんでしょうか。
M 「線」のきれいさだけは、マンガ家がアニメに勝てる武器なんだと師匠に教えられて。自分なりに「線」にいろんなものを込めようと描いてきたんです。が、『【推しの子】』はアニメの「線」もすごくて。特にエンディング!
A 見開きの1枚絵の迫力もマンガならではの要素だよね。と言いつつ、僕が『かぐや様は告らせたい』を描いていたときは、アニメ化したときにスタッフの方々を困らせないように、見開きの使い方も計算してたな。
M アカ先生はアニメに優しい。アニメになったときの見栄えや、アニメ化の成功についてもしっかり考えていて、プロデューサーみたいだよね。
A せっかくだから、関わっている人たちをがっかりさせたくないという気持ちがあって。それに、アニメ化で盛り上がると、その熱を受けて、こっちの熱も上がるというリターンもあるんです。マンガは一人でも描けるけど、僕は周りからの期待やプレッシャーがあったほうが頑張れるタイプなんですよ。
希望の星を輝かせるため、絶望という暗闇を描く
——『【推しの子】』という作品で一番描きたい感情ってなんでしょうか?
M いろんな種類の感情があるけど、どれかひとつというより、深度が大切かな。いろいろな感情を、これまでの自分の作品では到達したことのないレベルで、深く表現したいと思っています。今回はネームを描いてもらっているので、アカ先生が表現したいと思っているラインを超えたところまで描き切ることが理想ですね。