ラジオ番組「Fifty Artists」のパーソナリティ・榊原美紅さんの連載もついに最終回。よりよい未来を目指すさまざまな人と対話してきた榊原さんが最後に会いにいったのは、ユニバーサルな社会のために動き続ける二人の女性だった。
“みんなのもの”である ファッションを考える
Serina Banno(左) 株式会社アダストリア マーケティング本部所属。インクルーシブファッションサービス「Play fashion! for ALL」を立ち上げる。
すべての人が、ファッションをもっと楽しめる社会へ
GUEST:坂野世里奈さん(アダストリア)
榊原さんが訪ねたのは「グローバルワーク」などを全国数百店舗展開する株式会社アダストリア。「Play fashion! for ALL」というプロジェクトを立ち上げた坂野世里奈さんに、インクルーシブなファッションについてお話を伺った。
榊原さん(以下S) なぜこのプロジェクトを立ち上げたのですか。
坂野さん(以下B) 私の父はファッション好きだったのですが、病気を患って重介護になってからはずっとパジャマで、それどころではなくなってしまいました。父は亡くなってしまいましたが、ファッションに携わる者として何かできることがあるんじゃないかと思ってプロジェクトを企画したんです。
S お父さまのファッションを楽しむ姿が輝いていたのですね。持病や障がいのある3名の方との服作りではどんなアイテムが生まれたんですか。
B 車いすの車輪を回すときに袖の内側についてしまう汚れが目立たないデザインのスウェットや、低身長でも着脱しやすいセットアップ、入院中の悩みを解決するパジャマなどが生まれました。本人がこれまで不便と思っていたことを試行錯誤しながら解決し、純粋に「着たい!」と思うデザインに仕上げることは必須条件でした。
S 個々に寄り添うファッションが、生活の中の不便を解決し、気持ちも楽しくしてくれる。スマートマスク「C-FACE」にもつながる、デザインの可能性を感じます。
デフダンサーemiさんと語る、スマートマスク「CーFACE」と過ごす未来
emi(右) デフ(ろう者)ダンサーとして数々のイベントに出演し、ダンスアートプロジェクト「TSUMUGU+」などを企画している。
聞こえない世界で生きてきた経験を生かし、デフダンサーとして発信すること
GUEST:emiさん(デフダンサー)
生まれつき耳が聞こえないemiさん。デフダンサーとして活躍する彼女とよりよい未来について一緒に考えた。
emiさん(以下e) これまでは手話ができない相手と会話するときに、口の動きなどから言いたいことをくみ取るようなコミュニケーションを取っていたのですが、みんながマスクをつける生活になってそれも難しくなってしまいました。「C-FACE」を使って話すと伝えたいことが字幕化されるので、リアルタイムでコミュニケーションが取れそうですね。
榊原さん(以下S) 一方で、emiさんの伝えたいことがくみ取れないので、そこは改善の余地がありそうですね。
e 私たちがスマートフォンなどに打ち込んだ文字を、マスクが読み上げてくれる機能があったらスムースに会話ができるかもしれません。
S 確かに! あとは、手話をカメラが読み取ってくれて、翻訳してくれたらすごくいいですよね。
e それも素敵ですね。「C-FACE」がさらに進化したら、私たちにとってもよりよいツールになるのかもしれません。
S emiさんにお話を伺うまで気がつかないことばかりでした。emiさんはどうしてダンスを始めたんですか。
e 沖縄出身のDA PUMPたちの映像などを見て、体で音楽を表現するということに衝撃を受けたんです。そうして動きをコピーすることから始めて、筑波技術短期大学(現・筑波技術大学)でダンスサークルを立ち上げ、仲間たちとダンスを教え合うように。ダンスを始めるまでは、周りの目をすごく気にして、合わせようとしていたんです。でも、ダンスと出合って、ありのままを表現した自分を周りが受け止めてくれて、自信がついたんです。ダンスは人とのつながりも作ってくれました。
S 私がやっているバレエも言葉を発しないでストーリーを表現するダンスです。身ぶり手ぶりを通して相手に何かを伝えるのは楽しいですよね。
e 言葉を共有できなくても、ダンスができたときの喜びと、それを通じて、気持ちがつながったうれしさがありますよね。未来を担う子どもたちにもそんな体験をしてもらいたくてダンスアートプロジェクトを企画しています。「C-FACE」は、講演やワークショップでも活躍してくれそうですね。
Miku Sakakibara
モデル、ラジオパーソナリティとして活躍。活動の詳細は公式ホームページ「M/S」(mikusakakibara.com)をチェック。YouTubeチャンネルではゲーム実況も配信中。
SOURCE:SPUR 2021年12月号「榊原美紅のFIND YOUR VOICE」photography: Midori Yamashita (portrait), Sho Ueda (still) sign language interpretation: Ichiro Hashimoto (emi) text: Rio Hirai