魔の山? ネコ耳のようなふたつの頂上を持つ谷川岳へ【井之脇海と、山の話 第8回】

 百名山ってよく聞きますが、そもそも誰が決めたものかご存じでしょうか。『日本百名山』という本があるんです。山好きの小説家・深田久弥が日本中の山を登って百座を選び、随筆集としてまとめたんですね。ちなみに「日本二百名山」「世界百名山」もあって、僕は今回の谷川岳で10座目なので、まだまだ先は長そうです。

さて、通称「魔の山」。谷川岳はずっと登ってみたい山でした。

 標高は1977mとそこまで高いわけではないですが、切り立った岩の道や変わりやすい天気で、ギネスに載るほど多くの遭難者を出していることで知られているんです。でも、それも昔の話。ロープウエーができた今は、東京から日帰りで楽しめる山になったそうです。

 谷川岳といえば、日本三大急登といわれる「西黒尾根」。急登好きな僕としては、西黒尾根から登りたかったんですが、登山口に到着したのが朝8時。その時間から歩いて登ってロープウエーで下山するにしてもちょっと時間が足りそうになく、登りも下りもロープウエーを利用することにしました。わずか10分足らずで、1319mの高さまで連れていってくれるロープウエー、ありがたい!

 谷川岳のよさって、その日の体調や体力によってルートを選べて、木道や岩場、眺めのいい尾根といろんな道があって、飽きずに登れるところでしょうか。日本酒の「谷川岳」もおいしいし(笑)。双耳峰といわれる、ふたつある頂上も特徴的ですよね。遠くから見るとまさにネコの耳のよう。

 実は、2週間ぐらい前に谷川岳のお向かいにある山に登る機会があって、このネコ耳を眺めていました。その山では、沢登り(登山道ではなく沢や滝に沿って山に登ること)をしたんです。水に濡れっぱなしで、岩をどう登ればいいのか最初はわからず過酷でしたが、新しい山の登り方にすっかり開眼してしまいました。そんな沢登りを経験して、またいつものように登山というフィールドに帰ってくると、登山道って先人が開拓してくれた歴史のうえを歩けて、現代の人がきれいに整備してくれてありがたいなと感じました。百名山全部登る、という目標はありますが、山って同じ山でもルートや季節によってまったく違うものになるし、好きな山は何度も登りたい。終わりがないですね。

魔の山? ネコ耳のようなふたつの頂上を持の画像_1

ロープウエーにて。山頂付近は風が強く寒いので、フリース、ジャケット、手袋など防寒対策はマスト。10月末頃から積雪し冬季の登山は上級者のみ。7月上旬の開山時には「谷川岳山開き号」という臨時列車も

魔の山? ネコ耳のようなふたつの頂上を持の画像_2

「谷川岳ってたいてい頂上はガスっていると聞きました」と井之脇さん。確かに登山中、ずっと霧がかかったどんより天気。しかし、頂上に着く頃には風が吹いて青空が!

魔の山? ネコ耳のようなふたつの頂上を持の画像_3

雲海の切れ目から垣間見える山の姿は圧巻。肩の小屋前のベンチでコーヒー休憩。豆を挽いたはいいがドリッパーがないことが発覚。ペットボトルを切ってドリッパー代わりにし、乗り切る

魔の山? ネコ耳のようなふたつの頂上を持の画像_4

 岩がつるつるととにかく滑る。途中転んでいる人が何人もいたので、注意深く進む 左 ネコの耳のようなふたつの頂上。それぞれトマの耳、オキの耳と呼ばれる

魔の山? ネコ耳のようなふたつの頂上を持の画像_5

 「僕にとって最強の行動食は、フルーツグラノーラ。先日、山ガイドさんからエネルギー源として柿ピーもいいと聞いたので、次は持っていこうかと」 頂上“オキの耳”にて。ここから来た道を戻り、下山 ジャケット¥42,000・フリース¥19,000/ゴールドウインカスタマーサービスセンター

Profile
いのわき かい●俳優。1995年神奈川県・横須賀生まれ。子役として活躍し、日本大学芸術学部では映画を学ぶ。父の影響で登山を始め、日本百名山制覇が目標。フジテレビ開局60周年特別企画ドラマ「教場」出演予定。

SOURCE:SPUR 2020年1月号「井之脇海と、山の話」
photography: Kazuhiro Shiraishi hair & make-up: Takeharu Kobayashi edit: Tomoko Yanagisawa

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