2020.07.20

僕の山日記ならぬ、山年記【井之脇海と、山の話 第15回】

 ステイホーム中の僕は、山ごはんを作る練習をしてみたり、写真の整理などしてみたり。懐かしい写真が出てきたので、今回はこれまで登ってきた登山の振り返りを。

〈2013年夏(17歳) 富士見岳〉

 父親が富士山をきっかけに山に目覚め、北アルプスの乗鞍・富士見岳に登ることに。それまで、登山といえば子どもの頃に登っていた大楠山のイメージが強くて、ハイキングみたいなもんでしょ、と思っていたけれど、それは大間違い。そのときの富士見岳は、ガスが出ていて周囲は真っ白。風景はいっさい見えず、正直つまらないなとさえ思っていた。が、頂上に着いたほんの数分だけ風が吹いてさあっとガスが晴れ、山の名のとおり富士山がどーんと現れたのだ。
 すごい! これが登山の醍醐味なのか!? 僕にとって富士見岳は山好きになるきっかけの山となった。この頃から父とは離れて暮らしていたので、父と会うとなると一緒に山に登りに行った。「百名山制覇!」という僕の目標は、一足先に百名山を登り始めた父の影響が大きい(ちなみに僕は今10座目、父はすでに90座を超えているらしい)。

1 山が好きになった原点、富士見岳。「最近始めたインスタでも山の写真をアップしていくので見てください」
2  永遠の山の先輩、父。「ここ数年一緒に登山できてなくて。経験を積んで、いつかジャンダルムに挑戦したい!」

〈2014年夏(18歳) 富士山〉

 大学1年の夏休み。同じクラスの友人たちと富士山へ。確か、車の免許を取ってすぐの頃。買ったばかりのセダンに男5人で乗り込み、登山口の駐車場でぎゅうぎゅう状態で車中泊をした。1時間くらいしか眠れなかったけれど、それまで父としか山に行っていなかったから、友人たちとの登山は楽しすぎて、卒業した今もいい思い出。

3 大学1年生の夏、同級生と日帰り富士登山へ。免許を取って自分の運転で山に行けるようになり、行動範囲が広がった。

〈2016年夏(20歳) 岩手山〉

 父が関東近郊の山をほぼ登り尽くしてしまい、東北へ行こうと誘われた。目指すのは、百名山のひとつ岩手山。父はすごく体力があって、休憩も最低限、猛スピードで歩く歩く。まるで韋駄天だ。ついていくのが大変だった僕も、登山を続けるうちに体力がついてきて、疲れない歩き方も習得。余裕を持って父との登山を楽しめるようになっていたし、車の運転も交代できるようになった。だからなのか帰り道の夜の高速で運転していた僕に父が「おまえも二十歳だな」と。えっ、なに! 普段は絶対そんなことを言わない寡黙な父。恥ずかしさのあまり、「危ないから、話しかけないでくれる?」とそのときはあまり向き合えなかったけど、きっと山に登らなかったらそんな話はしなかったと思う。

〈2019年大晦日(24歳) 八ヶ岳〉

 年末年始を、山小屋で過ごすことにした。いつもなら実家で、祖母と母と「ゆく年くる年」を見て、年越しをしたら正座をして挨拶をするというのがお決まりだったけれど、雪山はずっと登りたかったし、取材でよくしていただいた山小屋にもう一度行ってみたかったのだ。大晦日の山小屋は、山が好きで、お酒も好きな人たちでいっぱい。年代もさまざまな山の先輩方からいろんな話を聞いて日本酒を飲んでいたら、あっ、もう年越ししそう! 寝ている人を起こさないように小声でカウントダウン、みんなで乾杯。さんざん飲んだというのに翌朝は6 時に集合して、初日の出を拝みに見晴らしのいい峠へ。ガスが出て見えないかもね、と言われていたけれど、見えました! マイナス10℃の突き刺すような空気が日の出とともにぬるむのがわかり、改めて太陽ってすごい!と感じた。
 次の山行はテント泊が目標。外出自粛期間が明けるまでもうしばらく脳内登山を楽しみます。

4 ・5・ 6 「雪山に登りたくて防寒具やアイゼンを買い揃えました」。大晦日に行った北八ヶ岳は天候が悪く頂上までは登れなかったけど、次のシーズンの楽しみに。元日の初日の出 (5)。「手袋を脱ぐのが面倒でなかなか写真を撮れなかった」という井之脇さんでも、さすがにこの圧巻の景色には連写したとか。冬の八ヶ岳の森は絵本のような雪景色(6)。
7  この連載やテレビの番組で山の撮影が続いた夏。山熱が盛り上がりプライベートでも蓼科へ。

Profile
いのわき かい●俳優。1995年生まれ。神奈川県・横須賀市出身。父の影響で登山を始め、日本百名山制覇が目標。ドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ)に出演中。 5月からついにインスタグラムもスタート! @kai_inowaki

SOURCE:SPUR 2020年8月号「井之脇海と、山の話」
photography: Kai Inowaki edit: Tomoko Yanagisawa

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