"未開の地"は身近にあった!? 東京・檜原村のサステイナブルな林業【井之脇海と、山の話 第20回】

「面白い人たちがいるんだよ」と写真家の田附勝さんが連れて行ってくれた東京・檜原村(島嶼部を除いた東京で、唯一の村です!)。今回、僕が山のお話をうかがうのは、この村で林業を営む東京チェンソーズのみなさん。代表の青木亮輔さんは、登山家に憧れていたという山好き。学生時代は洞窟探検にはまり、さらに林業のベンチャーを立ち上げた、と聞いています。……いったい、どういうことなんだろう?

木材の種類や木肌の違いをレクチャー。

井之脇海(以下、井) 青木さんは、大学時代に探検部に所属して、世界の洞窟や鍾乳洞を探検していたとうかがったんですが……。
青木亮輔(以下、青) えっ、よく知ってますね(笑)。そうなんです。植村直己さんの本を読んで山や未開の地に憧れて。だけど、ワンダーフォーゲル部出身の親から「未踏峰の山はもう少ない」と聞いて。それなら、登山家より未開の地を行く探検家のほうが面白いと考えて、探検部で有名だった東京農業大学に入ったんですよ。ここの林学科に進学したのが、最初の林業との出合いでした。
 林業ではなく、探検に興味があったのが先なんですね!
 そうそう。林業の勉強より探検に夢中になっていた大学生時代でした。本格的な部で、チベットにあるメコン川の源流に初めてカヤックで航下をしたのも先輩で。僕もその源流から川を下る探検に参加させてもらったり、誰も入ったことがないモンゴルの洞窟に遠征したり(と話しながら、洞窟の狭い穴にはまったときの体勢を再現してくれる)。
 洞窟ってすごい世界ですね。林業を始められたのはどうしてですか?
 林業って衰退産業だと言われているんです。日本は国土の7割が山林なのに、林業従事者が5万人くらいしかいない。けれど、これを逆に考えれば、これからやれることもいっぱいあるはずだと。自分たちらしい林業をやりたいと思って仲間と始めたんです。
 "自分たちらしい" ……。それって、どんなことですか?
 顔の見える林業っていうのもそのひとつだと思います。かつ、東京チェンソーズは、自分たちが管理して切り出した木材を、自分たちの納得がいくやり方で加工して出荷しているんです。木材って、切り出したあと、ほとんどが乾燥炉に入れて人工的な速度で乾燥させるんです。速く乾燥するというメリットはあるけれど、一方で木の香りなどの成分もとんでしまうんですよ。僕たちは「天然乾燥」という、自然な状態に近い方法で乾燥させています。だから、木ならではのいいツヤや香りが残る。
 どれくらい時間がかかるものなんですか?
 人工乾燥は1~2週間、天然乾燥だと、3カ月から半年くらいです。木って種類によって全然香りが違うんです。
 (積み重ねられた木材をいろいろ嗅ぎくらべて)あ、本当だ!

「お、ヒノキのいい香りがします」


 木は苗木を植えてから50年、60年たってようやく収穫できるんです。今、僕たちが加工や出荷しているのは、前の世代の人たちが植えてくれた木。山林って、長く手入れが必要な大切な資源なんです。この木材はきちんと育てられ、管理されていますよ、と消費者にもわかりやすく伝えるために、環境負荷が少ない森林管理、加工・流通過程を実践していることや、そこで働く人の労働環境も適正である、ということを証明する「FSCⓇ認証」も取りました。

(左)植えられたばかりの杉の木。隣の自然に生えた木よりも小さいけれど、枝を落とすなど、手間を惜しまず数十年かけて大きく育てる。
(右)断面が青く塗られているのが「FSCⓇ認証」を取った山林で伐採、製材された木材の印。他の木材と交ざらないようにマーキングされている。


 SDGsへの取り組みも長くされているんですよね。林業って、知らなかったことばかりです。
 僕も檜原村の山に来て作業道をつくったり、先のことを考えて植樹をしたり、いまだに"未開の地だらけだな"って思っています(笑)。
 これから登山をするときに、山や木を見る目が変わりそうです。

会社員から転職したという社員の加藤真己さん(写真右)からも、やりがいを聞いた。自然のなかの職場は厳しくも、気持ちがいいそう。



代表の青木亮輔さん

地形図を読みながら、森林を管理するための作業道も自分たちでつくる。

Profile
いのわき かい●俳優。1995年神奈川県・横須賀生まれ。父の影響で登山を始め日本百名 山制覇(ただいま13座)が目標。ドラマ「ハルとアオのお弁当箱」(BSテレ東)出演中。インスタグラム(@kai_inowaki)で、山の写真も発信しています。

あおき りょうすけ●株式会社東京チェンソーズ代表取締役。1976年大阪府出身。東京農業大学林学科在学中から植村直己に憧れ、探検部に所属。1年間の会社勤めの後、「地下足袋を履いた仕事がしたい」と林業に従事。2006年に4人で会社を創立。

SOURCE:SPUR 2021年1月号「井之脇海と、山の話」
photography: Masaru Tatsuki styling: Kentaro Higaki 〈tsujimanagement〉(Kai Inowaki) hair & make-up: AMANO (Kai Inowaki) edit: Tomoko Yanagisawa

FEATURE
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