【 DAY 1 】念願のテント泊。自分の家を山に持ち込んだ感じです
1・2 井之脇さんが道具で重視するのは「軽い」こと。数年悩んでついに手に入れたテントは仏ブランドのSAMAYAのもの。「2人用なのに1.5㎏と軽いんです」
3 シュラフはモンベルで新調。「軽くてかさばらないブランケットタイプを選びました」
4 テントやシュラフ、調理道具が入っているとは思えないほどコンパクトなザック。「これも、ギア選びやパッキングを連載で勉強したおかげです」
深田久弥の『日本百名山』に「もし日本の十名山を選べと言われたとしても、私はこの山を落とさないだろう」と書いてあるほどの山で、頂上の景色がきれいなのだそう。北沢峠経由のコースではバスの発着場から徒歩約10分でテント場と山小屋があり、重い荷物を背負って長距離を歩かなくていい。だからテント泊の初心者におすすめ。
1日目は、翌日の早朝スタートに備えて、テントを張って、夕ごはんを食べて寝るだけ。昼過ぎに到着すると、テント場にはすでに30張ほどの先客が。荒天が続いた週の唯一の晴日だったからか、テント場にいる人たちも楽しそうな顔!
5〜7 山の夕ごはんはステーキ丼。米を炊く間に、塩こしょう、ニンニクチューブで下味をつけた牛肉を焼くという段取り。メスティンというクッカーでの炊飯にハマり、動画サイトを見てさらに研究中とか。
今回持参したテントは、どれを買うか2年くらい悩んでいて、やっと決心がついたものだからついにデビューできてうれしい。シュラフを敷いたり、着替えを並べたり。まるで自宅を快適に整える感じ。まだ早いのに寝てみたりして、マイホームならぬマイテントを堪能しました。
16時くらいになると、夕ごはんの準備。山ではうどん派だったんですが、最近はいかに燃料を無駄にせずおいしくご飯を炊くかを自宅でも練習していまして……。最初、生状態だったんですけど、もう一度水を入れて炊き直すという荒技で炊飯が成功し、めちゃくちゃおいしい牛ステーキ丼が完成。21時にはもうシュラフに。心配していた雨風もなく、頭上には満天の星。ご褒美みたいな、初テント泊の夜でした。
【 DAY 2 】念願のテント泊。自分の家を山に持ち込んだ感じです
8〜11 山麓の街、小淵沢に映画の撮影で滞在していたことがあるという井之脇さん。「麓から甲斐駒ヶ岳を見ては、どんな山なんだろうと思っていました」。今回は往復で約8時間半ほどの北沢峠コースから。途中にあった岩のクラックに手を入れて、クライミングに思いを馳せたりも(9)。「次は、超健脚向けとされる黒戸尾根コースに挑戦したい」
白い砂の登山道。頂上付近はビーチみたい?
山の朝は早くて、まだ暗いうちからヘッドランプをつけて歩き始める人も多くいます。僕は、ちょうど太陽が出始めた4時半に起きて、5時15分に出発。重い荷物はテントの中に置いて、身軽になって頂上を目指します。甲斐駒ヶ岳は花崗岩の白い岩肌が特徴で、ピラミッドみたいなきれいな形だから、遠くから見ても目立つんです。登山道の最初は樹林帯。その後大きな岩が積み重なった急登が続き、岩場好きの僕としては楽しくて仕方がない。最近、クライミングジムに通っているんですが、岩をつかむ場所に迷いがなくなったと実感しました。
12 甲斐駒ヶ岳は古くから山岳信仰の対象とされ、山頂には駒ヶ岳神社の祠が。前々日の台風から一転、見事な晴天に。山の神様に感謝!
事前に雑誌で写真を見ていたので、樹林帯と岩場の激しさは知っていたけど、予想してなかったのが頂上直下の景色。巨大な六万岩の先から頂上に最短で行ける直登と、ゆるやかに登る巻き道コースに分岐が。巻き道は登山道が白い砂でビーチを歩いているみたい。初めての感覚で新鮮でした。
13・14 六合目の駒津峰からは岩場が多くなり山頂が視線の先に。遠くに富士山の姿もちらり。2019年の台風19号でバスが走る林道や登山道に大きな被害を受けた南アルプス山域。山小屋を運営する登山家・花谷泰広さんとの対談(’20年6月号)で、整備、復旧の大変さを知り、「山で遊ばせていただいている身としては、山に恩返しをしたい」という想いも。
頂上からはパノラマビュー! 雲がなければ富士山もよく見えるはず。頂上から見えた鳳凰三山や仙丈ヶ岳など、南アルプスの山々をつないで歩く縦走も楽しそう。テントを手に入れたから、泊まりながら長く歩くという選択肢もできました。
15 8時間以上のハードな登山帰り、「家に着いたらクライミングジムに行こうかな」と、元気すぎる井之脇さん。「楽しいんですよ。連載でクライミングと出合えてよかった!」
甲斐駒ヶ岳で登った百名山は18座に。ロングトレイルや海外の山にも興味が出てきました。父親の影響で登山を始め、連載で多くの達人に楽しみを教えていただきました。連載は終わりますが、まだまだ、僕は山に登ります!2年半、山行におつき合いいただき、ありがとうございました。
Profile
いのわき かい●俳優。父の影響で登山を始め、日本百名山を制覇することが目標。カンヌ国際映画祭2021「ある視点」部門でオープニング作品に選ばれた『ONODA 一万夜を越えて』が10月8日公開予定。
SOURCE:SPUR 2021年11月号「井之脇海、山と自然を遊びつくす」
photography: Kazuhiro Shiraishi hair & make-up: Shoko Narita edit: Tomoko Yanagisawa