みなさんは「Xiaomi(シャオミ)」というメーカーをご存じでしょうか? 私の日々の暮らしを振り返ると、先日購入したスマートフォン「Xiaomi 15」や、毎日のように活躍しているハンディクリーナーやロボット掃除機、空気清浄機など、気づけばXiaomi製品が欠かせない存在となっています。シンプルな佇まいに洗練されたデザイン、お手頃な価格帯。さらに、ユーザーフレンドリーで使いやすく、“安かろう、悪かろう”ではないのが魅力なのです。
それでも、周囲にXiaomiの話をすると「スマホメーカーだよね?」と返されることも多々。確かに、スマホは彼らを代表する製品ではあるのですが、実はボールペンから家電、そして最新のEV(電気自動車)まで、日本ではまだ取り扱いのない製品も多いのですが、びっくりするくらい幅広い製品を手がけているのです。
今回はXiaomiの本拠地、中国・北京を訪問。若く熱気あふれる本社キャンパスや最新のEV製造現場、市中のストア、さらには新製品発表会まで。未来を見据える彼らの情熱と自信を間近で感じてきました。

Xiaomiの北京本社社屋
あの火鍋屋さんも!? 活気あふれるXiaomi北京本社
北京のXiaomi本社に足を踏み入れてまず感じたのは、キャンパス全体に満ちる活気。モダンなガラス張りのビルが数棟並び、最新製品が並ぶストアや、Xiaomi製品が溶け込んだ日常を再現したショールームも。

本社にあるストア&ショールーム。目玉はやはりEV
リビング、キッチン、ベッドルーム、ワークスペースなどを模した空間で家電や照明が連携して動くスマートホームを体験できるようになっており、人・クルマ・家をシームレスにつなぐXiaomiの「Human-Car-Home」という戦略が、実際の暮らしの中でどう生きてくるかを実感することができました。

炊飯器やフライヤーなどのキッチン家電

家具以外の電化製品はほとんどXiaomi製品

スマホの開発ラボの廊下にはこれまで取得した特許のパネルがずらり
キャンパス内には体を動かせるジムや、いくつも点在するスタバなど、設備も充実。広々とした社食「小米食堂」には、私も大好きな有名火鍋チェーン「海底撈火鍋」が入っていてびっくり。お昼から火鍋を楽しむ社員も多いそうで、思わず「ここは本当にオフィス?」と目を疑ってしまいました。

まるで大型フードコートのような社食「小米食堂」

海底撈火鍋が社食で楽しめるなんて!

カフェテリアのような気持ちの良い空間
キャンパス内を行き交うのは、20~30代の若い社員たち。女性も多く、エネルギッシュで、どこか自由な空気が漂っていました。歩いているだけで、「こんなところで働けたら、やる気が出そうだなあ」とこちらまで前向きな気持ちになってくるから不思議。
スマホ、家電からクルマまでが並ぶXiaomiストア
日本にはまだ2店舗しかありませんが、中国全土では1万店舗を超える「小米之家(Mi Home)」が展開され、北京だけでも主要なショッピングモールや繁華街に数十店舗を構えているそう。今回いくつか巡りましたが、北京郊外のショッピングモールにある最大級のXiaomiストアは、まさに今のXiaomiを象徴する場所となっていました。

北京郊外のショッピングモールにあったXiaomiストア
まず目に飛び込んできたのは「クルマ」。店舗の半分以上がクルマの展示スペースになっていて、その日の夜に発表される予定だった新型SUV「YU7」もすでに堂々と展示(!)。「発表まで絶対に見せません!」のような演出もなく、すでに多くのお客さんが見に来ているのが印象的でした。

この時点では“未発表”の新型SUV「YU7」がすでに店頭にありました
クルマの隣には、洗練された空間づくりのスマートホームのショールームも併設。モバイルバッテリーからスマホ、冷蔵庫、エアコン、そしてクルマまでを一つのスペースに並べて販売するショップは、世界中探してもXiaomiのストアだけではないでしょうか……?

スマートホームのショールーム

冷蔵庫、エアコン、洗濯機などの家電

スマホの向こうにクルマが並ぶ、ふと我に帰ると不思議な光景
北京中心部にあるショッピングモールの別のXiaomiストアでは、日本未発売のマッサージガンと電動ドライバーを購入してみました。マッサージガンは出張中の足の疲れをしっかりほぐしてくれて、ありがたかったです。両方買っても1万円いかない程度ですし、デザインも◎。おみやげにもぴったり。
別の日には、北京郊外にあるXiaomiのEV工場を見学。広大な土地に大きな工場が数棟、周辺には真新しいマンションが立ち並び、新しい街が生まれたばかりといった独特な雰囲気。工場の駐車場には、ずらりと並ぶXiaomiのEVの姿が。その光景だけでも圧倒されます。
見学は、エクスペリエンスセンターというミュージアムのような場所からスタート。なぜXiaomiがEVを作るのか、その設計思想やテクノロジーについて、スタッフの方が丁寧に説明してくれました。そこから実際の生産現場をカートに乗ったまま巡る、工場ツアーへ。
工場内部は残念ながら撮影禁止だったのですが、印象的だったのは、ほとんどの作業をロボットが担っていること。人間はロボットが働きやすい環境を整えたり、監視をしたりする役割が中心で、人の姿は驚くほど少なかったです。広く清潔な工場内は空調も整っており、ロボットが黙々と動く静けさ、時折響く溶接の火花の音、ほんのり焦げたような匂い。まるでSF映画のワンシーンのような雰囲気が漂っていました。

工場見学は撮影禁止でした
また、これまで見てきた自動車工場とは大きく違うな、と感じたのが「生産ライン」のあり方。自動車工場では、ベルトコンベアの上を車体が流れていき、決まった順番で人やロボットがパーツを取り付けていく、“固定されたライン”が一般的。
でも、Xiaomiの工場では、そうしたラインが見当たらず、各工程ごとにロボットが独立して配置されており、必要に応じて、その並びや役割を柔軟に変えられる仕組みになっているようでした。まるでスマートフォンの組み立て工場のように、パーツごとに最適なロボットを組み合わせていく——スマートフォンを作ってきたからこそ、これまでの自動車工場の“当たり前”を覆すことができる。EV工場にも、随所で彼らのアイデンティティを感じさせられるのでした。
見学の後は、XiaomiのEV「SU7 Max」に試乗。アクセルを踏んだ瞬間、キュイーン!と一気にスピードが上がり、身体がシートにぐっと押し付けられる強烈な重力を感じます。このまま空に飛び出してしまいそうなスムーズな加速は、これまでにない体験。「未来の乗り物に乗ってしまった……!」という感覚でした。今の日本ではなかなか味わえないのが残念ですが、まるでちょっとした絶叫マシンのようでした。

「SU7 Max」の室内。中央の液晶ディスプレイの表示も動作もキビキビしていて、さすがでした。
熱狂の3時間。暮らしのすべてを網羅する新製品発表会
ここまでも圧倒されっぱなしの日々でしたが、新製品発表会はさらにその上をいく熱気とスケール感。盛り上がる会場の一体感はまるでコンサート会場のようでした。

まるでコンサート会場かのような演出
発表会は19時スタートで、終わったのは21時50分。折りたたみスマホやスマートウォッチ、タブレット、スマートグラス、家電からEVまで、暮らしのすべてを網羅する新製品が次々と登場し、3時間近くにもおよぶ大ボリューム。

壇上にいるのはXiaomi CEO、レイ・ジュン。熱狂的なファンを持ち、Xiaomiの“顔”としても知られている
特にEVスーパーカー「SU7 Ultra」シリーズや新作SUV「YU7」のパートはより熱を帯び、尺も長く取られており、彼らがクルマにかける本気度が窺えるものでした。なお、新型SUV「YU7」は、発表直後から中国国内で爆発的な反響を呼び、なんと3分で20万台、18時間で24万台超(!)の確定注文が入ったそう。スマートフォンから続くブランドへの信頼と、生活者目線のものづくりが、EVという新たなフィールドでもしっかりと根付いているのだと実感しました。

新作SUVの「YU7」
日本での展開は未定の製品が多かったのは残念でしたが、他に特に気になったのはスマートグラスの完成度。実際に手に取ることはできなかったものの、QRコード決済が当たり前の中国だからこそできる「見つめるだけで決済が完了する」デモ動画には、会場のオーディエンスとともに思わず私も「すごい!」と声を上げてしまいました。

オーディエンスの熱量にも圧倒されました
今回の北京出張では、Xiaomiのものづくりへの情熱や、「暮らしをもっと楽しく・便利にしたい」という発想、そして圧倒的なスピード感を肌で感じることができました。スケールの大きさと熱量に触れ、「世界には、まだ知らない日常がたくさんある」ことを改めて実感。

街の至るところにあるデリバリーサービス「美団」の宅配ロッカー
なかでも印象的だったのは、社会の仕組みや価値観の違いが生み出す、日常の風景。たとえば、QRコード決済がごく当たり前になっていたり、スマホひとつで生活の多くが完結していたり。背景が違うからこそ、こうした技術が一気に広がったのだと実感しました。日本の暮らしは快適だけれど、時に変化を遠ざけてしまっている面もあるのかも……?と思うこともあります。だからこそ、外の世界に触れることが新たな視点や発見につながるのだと、改めて感じました。
私自身も、もっと柔軟に、もっと好奇心を持って、新しい体験や価値観を楽しんでいきたい——そんな前向きな気持ちで、北京を後にしました。