古くからサラリーマンや学生の街として、良心価格のカレー店や中国料理店がひしめき、文化人も通う"都心にある下町"。今や、気鋭のシェフの出店やクリエイティブなニューアドレスも相次ぎ、グルメタウンとしてさらに進化中。神保町の"時をかけるおいしい"を頰張る名店ガイドをお届け!

【神保町グルメ】あの人の行きつけ10店。のタイトルイメージ

【神保町グルメ】あの人の行きつけ10店。尾上右近さん、佐藤栞里さんのご指名メニューは?

古くからサラリーマンや学生の街として、良心価格のカレー店や中国料理店がひしめき、文化人も通う"都心にある下町"。今や、気鋭のシェフの出店やクリエイティブなニューアドレスも相次ぎ、グルメタウンとしてさらに進化中。神保町の"時をかけるおいしい"を頰張る名店ガイドをお届け!

あの人の行きつけ。思い出の味、いつもの味、歴史の味

「神保町で、あれ食べよう」と、出かけたくなる味がある。クリエイターから歴史に残る文化人まで、ご指名メニュー物語

カリーライス専門店 エチオピア/チキンカリー 辛さ20倍

カリーライス専門店 エチオピア/チキンカリー 辛さ20倍

チキンカリー¥980は蒸したじゃがいもつき。辛さは0〜70倍まで選べ、スパイスの相乗効果でうまみが加わるのもこのカレーの特徴

尾上右近さん(歌舞伎役者)
おのえ うこん●1992年生まれ。二代目尾上右近を襲名しつつ、邦楽・清元節の清元栄寿太夫も襲名した二刀流。9月は京都南座にて松竹創業130周年『流白浪燦星』に出演予定。

スパイスの魅力が凝縮。巡りがよくなる薬膳カレー

"歌舞伎界随一のカレー好き"である尾上右近さん。店の存在を知ったのは、兄貴分の中村獅童さんから「ケンケン(右近さんの愛称)、カレー好きなんでしょ? それなら『エチオピア』、おすすめだよ、と教えていただいたのがきっかけです」。

炒めた玉ねぎに、オーナーだけがブレンドの割合を知るガラムマサラやクローブ、カルダモンなど12種類のスパイスを入れ、大量の野菜と自家製のブイヨンを加えじっくり煮込む。とろとろのルウは「薬膳のような、漢方のような、スパイスの鮮烈な香りと独特の味わいが特徴。パンチ力は相当なのに、ルウに溶け合った野菜やつけ合わせのじゃがいもの甘さが寄り添って、後味は非常に爽やか」。赤唐辛子で辛みを追加できるのもこの店の特徴で、「辛さ20倍がデフォルト。かつて40倍にもチャレンジしたことがあるのですが、辛すぎてさすがに震えました(笑)」。

カリーライス専門店 エチオピア 外観

(本店)東京都千代田区神田小川町3の10の6 1F・2F
電話番号:03−3295−4310
営業時間:10時10分〜22時30分(22時LO)、10時〜21時30分(21時LO)(日・祝) 無休

神田錦町 更科/冷やししょうが天ぷらそば

神田錦町 更科/冷やししょうが天ぷらそば

趣豊かな店でいただく冷やししょうが天ぷらそば¥1,500 。江戸三大老舗そば店の麻布永坂総本家「更科堀井」の唯一の分店

原田ひ香さん(小説家)
はらだ ひか●2007年『はじまらないティータイム』で第31回すばる文学賞を受賞。『三千円の使いかた』(中央公論新社)など著書多数。近著に『古本食堂 新装開店』(角川春樹事務所)。

小説の主人公のように。一人昼食も居心地がいい江戸前のそば店

原田ひ香さんの小説『古本食堂』は、神保町の小さな古書店が舞台。街のシンボルとして愛される「食」がたびたび登場する。古書店を営む兄が急逝し、店を引き継いだ妹の珊瑚と、彼女を手伝う親戚の美希喜。主人公二人が食べた神保町グルメを求め聖地巡礼したくなる物語だ。

1869年創業の老舗そば店「神田錦町 更科」もそのひとつ。カラッと揚げたしょうががほのかに香る、冷やししょうが天ぷらそばは、江戸前そばを知り尽くす店主が考案した新名物。原田さんの胃袋も射止めた。「しょうがの細切りの天ぷらがのった珍しい一品は、爽やかで夏や梅雨時にぴったりです。作品の中でも、珊瑚が立ち寄るシーンを描いていますが、女性一人でも入りやすい店です」。細打ち麺は、しなるような弾力の"柳腰"と呼ばれる食感がこだわり。そばつゆは甘じょっぱく、これぞ江戸っ子の嗜みと言える。

神田錦町 更科 外観

東京都千代田区神田錦町3の14
03-3294-3669
営業時間:11時~14時 17時~18時30分(そばがなくなり次第終了)
定休日:土曜夜、日曜、祝日 ※支払いは現金のみ
X: @kandasarashina

さばめしの鯖匠/梅さばめし

さばめしの鯖匠/梅さばめし

梅さばめしのほか柚子味噌さばめし各¥980など全6種。佐藤さんは、マカロニサラダ¥180などのおかずを追加することも

佐藤栞里さん(モデル)
さとう しおり●『BAILA』ではカバーモデルを、本誌では「佐藤栞里と明日のESSENTIALS」を連載。日本テレビ系「有吉の壁」、TBS系「王様のブランチ」などレギュラー出演多数。

強火で炙った肉厚なサバ。ひつまぶし感覚で楽しみたい

「モデルの仕事で長年通っている神保町。早朝ロケから戻って午後のスタジオ撮影の活力になるランチを食べたり、時には仕事の合間に喫茶店で一人静かに過ごすことも。最近は、東京ドームでライブを観たあとに食事をする機会も増えました」。

今回、あまたの好きな飲食店リストから紹介するのは、丁寧に骨抜きして強火で炙ったサバを、味変しながら楽しむ専門店。「サバonだしをきかせた熱々の白飯という見た目のインパクトに驚き! 1杯目は、ふっくらとした肉厚のサバをしゃもじでほぐし、白米とまぜていただきます。2杯目は、薬味や白ごまをトッピングして。さらに鮮魚のごま和えをのせ、鯛のアラでとっただしをかけたお茶漬けに。脂がのったサバと酸味ある梅のペーストが作用しあって、もはやエンドレス……。ここまで満足できるサバ料理には、なかなか出合えないと思います」。

さばめしの鯖匠 外観

東京都千代田区神田三崎町2の21の11 1F
03-3221-8860
営業時間:11時30分〜15時(14時30分LO) 17時〜21時(20時30分LO)、11時30分〜15時(14時30分LO)(日) 無休
Instagram: @sabasyo

キッチン南海/カツカレー

キッチン南海/カツカレー

スプーンでも切れる柔らかい豚カツには、煮込みと寝かしを3回ずつ繰り返し、10時間以上かけた熱々のカレーを。カツカレー¥850

佐久間宣行さん(TVプロデューサー&ディレクター)
さくま のぶゆき●YouTube「佐久間宣行のNOBUROCK TV」は登録者数約280万人、Netflixで配信中の「罵倒村」も大人気のヒットメーカー。本誌で"甘口人生相談"を連載中。

良心とこだわりがそこかしこに宿る街の洋食店

佐久間さんにとって神保町は「出版社と古本と映画館の街。最近は、取材や芸人との打ち合わせで来る機会が増えたので、その流れで腹ごしらえに」。思い出の味を求め足を向けるのは、神保町が本店の「キッチン南海」。理由は「早稲田店や下井草店(現在はともに閉店)に20代の頃に足を運んでいたから」。

ここ神保町店は、初代の右腕で、甥の中條知章さんが、常連客の愛の強さを受け止め、引き継いだ。佐久間さんが必食するカツカレーは、「豚カツとカレーという僕の大好物の掛け合わせ。小麦粉をベースに10種以上のスパイスを加え、大量の玉ねぎや豚肉が溶けるくらい煮込んだ真っ黒なルウが特長。それがたっぷりかかっても、サクサク感を失わない生パン粉をまとわせて揚げた豚カツを300gもの白米と千切りキャベツを絡めながら食す――。うまみへの感動とともに『コレだよ、コレ!』と懐かしさが込み上げます」。

キッチン南海 外観

(神保町店)東京都千代田区神田神保町1の39の8 1F
電話番号:03−3219−1616
営業時間:11時15分〜15時 17時〜19時30分(なくなり次第終了)
定休日:日曜、祝日
Instagram: @nankai_jimbocho

中華料理 やまだ/回鍋肉定食

中華料理 やまだ/回鍋肉定食

やさしい味わいの中華スープつき。回鍋肉定食¥850

杉山佳世子さん(肆-YON- オーナー)
すぎやま かよこ●歯科医として働きながら、渋谷の『ゴールデンボール』などの飲食店を手がける。昨年、神保町にギャラリーと音響ルーム併設のカフェ&バー・肆-YON-を開店。

食べれば元気がみなぎる! つらい猛勉強の日々を支えた町中華

学生時代を神田で過ごした杉山さんにとって、スタミナ源となったのがこちら。歯科医師国家試験前、長時間勉強して疲れ果てたときも、大好きな町中華の味で覚醒し、つらい時期を乗り切ることができた。「大学の先輩に『ここを知らないのはモグリだ!』と連れていってもらったのが最初。相席でギュウギュウになりながら食べることも、回鍋肉のアツアツで濃いめな味つけもすべてが新鮮でした。思い出したら食べたくなってしまった、明日行ってみよう」と杉山さん。

近隣で学び、働く人たちに寄り添う人気店は大正時代からここに。昼時は満席が続くが心配無用、注文してから提供されるまでがすこぶる早い! キャベツが高騰したときも価格はそのまま、ボリューム満点で腹ペコたちを歓喜させた。お客さんファーストが信条だ。ザクザクの野菜とやわらかい豚肉にとろみのあるタレを炒め合わせ、ピリリと辛みがたまらない。油をしっかり使っても絶妙な火入れによりしつこくなく、軽やかにおなかに収まる。

中華料理 やまだ 内観

安くてうまいメニューが充実。店内は絵になるノスタルジックな趣

中華料理 やまだ 外観

東京都千代田区神田駿河台2の10の5
電話番号:03−3233−1905
営業時間:11時30分~15時 17時~20時30分、11時30分~13時30分(土)
定休日:日曜、祝日 ※支払いは現金のみ

スマトラカレー共栄堂/ポークカレー

スマトラカレー共栄堂/ポークカレー

ポークカレー普通盛¥1,300。カレーソースはレトロなグレイビーボートに入って

新井見枝香さん(エッセイスト)
あらい みえか●三省堂書店、HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEにて書店員として勤務し、現在は踊り子、エッセイストとして活動。最新刊は『きれいな言葉より素直な叫び』(講談社)。

ほのかな苦みにハマる。カリスマ書店員が足繁く通ったカレー店

かつて新井さんが神保町の書店に勤務していた頃に何度も通った、カレーの街が誇る老舗。インドネシア・スマトラ島由来の黒褐色のカレーは、休憩時間が限られる忙しい書店員時代を支えてくれた思い出の味だ。「やさしいスープとビターなカレーが最高の相性。カレースタンド並みの超速提供と通し営業がありがたい」。

新井さんを虜にした深みのある味は、20種以上の香辛料を1時間かけてじっくり炒めることで引き出される。浅すぎず深すぎない、ちょうどいいあんばいが難しく、経験と根気のいる作業がオンリーワンの一皿を生む。香ばしいスパイス独特の味わいがスマトラカレーの魅力。3代目の宮川泰久さんによれば、創業1924年の老舗の味は、常連客も気づかない繊細さで、現在も少しずつ進化している。何度でも食べたくなる秘密がそこにある。

スマトラカレー共栄堂 看板

創業して101年。緑の立て看板を目印に

スマトラカレー共栄堂 内観

東京都千代田区神田神保町1の6 サンビルB1
電話番号:03−3291−1475
営業時間:11時~20時(19時45分LO)
定休日:日曜、祝日(不定休)
※支払いは現金のみ
Instagram: @kyoeido_sumatra.curry

あの偉人が愛した味を訪ねて

歴史に名を残す著名人が通った老舗で、心に残る逸品とエピソードを

江戸川乱歩が常連だった/天麩羅 はちまき

江戸川乱歩が常連だった/天麩羅 はちまき

ボリューム満点の穴子海老天丼¥1,500(ランチ)。器からはみ出るほどの大きさの穴子を1本と海老2尾、時季によって変わる野菜2種を盛り合わせた豪華な丼

目と舌で粋を知る江戸前天丼の傑作

現在は3代目が暖簾を守る天ぷら専門店。初代店主の青木寅吉と親交が深かったのが、江戸川乱歩。自身が長年、顧問を務めた「廿七日会 東京作家クラブ」は文壇や画壇、映画界で活躍する人々の文化交流の場で、その会合が行われるたび、店に足を運んだ。白飯に揚げた穴子をのせ、タレをかけるのがお気に入りだったという逸話に、稀代の推理小説家の人間味がにじむ。

天麩羅 はちまき 外観

東京都千代田区神田神保町1の19
電話番号:03−3291−6222
営業時間:11時~21時
定休日:火曜
※支払いは現金のみ、テイクアウト可

池波正太郎が贔屓にした/手打蕎麦切 松翁

池波正太郎が贔屓にした/手打蕎麦切 松翁

二色天もり¥3,700(ランチ)。生粉打ちの十割そばと季節の変わりそばの2種を合い盛りに。セットに活海老と穴子、野菜天が含まれる

心なごむ手打ちそばが食通を虜にする

「山の上ホテル」を定宿にしていた作家、池波正太郎。執筆の合間をぬって通ったそば店が「松翁」だ。昼の混み合う時間を避けて、開店直前に訪れ、そばを手繰るのが常だったという。打ちたての二色そばのほか、胃にやさしい山かけそばを注文することも多く、週3~4回のペースで訪れたとも。食を愛した粋人のようにさっと食べてぱっと帰るのもよいが、豊富に揃う日本酒で昼から一献というのも興趣がある。

手打蕎麦切 松翁 山かけそば

山かけそば¥1,800も人気メニューのひとつ

手打蕎麦切 松翁 内観

東京都千代田区神田猿楽町2の1の7
電話番号:03−3291−3529
営業時間:11時30分~14時LO 17時~20時、11時30分~15時30分(土)
定休日:日曜、祝日、ほか月曜不定休
※支払いは現金のみ、ランチの予約は不可

林芙美子が通った/兵六

林芙美子が通った/兵六

餃子¥710。具材は豚挽き肉にキャベツや長ねぎ、にんにくなど。ビールも合うがぜひ、焼酎のさつま無双¥830とともに

創業時から変わらぬ"味"に満たされる酒亭

昭和23年に創業した、東京屈指の酒亭は多くの文化人に親しまれたことで有名。3代目店主の定位置を囲むコの字型のカウンター席は開店と同時に埋まることもしばしば。壁には壺井繁治や高村光太郎、晩年に訪れた林芙美子の直筆の色紙が。上海で暮らした初代から受け継いだ餃子や、店の名をつけた兵六あげなどをつまみながら酒を飲み、ゆっくりと流れる時間に身をゆだねれば、行きつけの店を持つ心地よさを知るはずだ。

兵六 兵六あげ

店名を冠した、チーズやねぎをはさんだ兵六あげ¥540

兵六 内観

東京都千代田区神田神保町1の3の2
電話番号:なし
営業時間:17時~22時
定休日:土・日曜、祝日
※支払いは現金のみ、予約は不可

周恩來と孫文ゆかりの/中国名菜 漢陽楼

周恩來と孫文ゆかりの/中国名菜 漢陽楼

ここでしか食べられない味、孫文粥¥1,800。来日時に胃腸を弱らせていた孫文のために作られた、という逸話を持つ白粥。白米を2時間かけてじっくりと炊き上げる

歴史的遺産ともいえる中華の滋味を

中華人民共和国の初代首相を務めた周恩來や、革命の父と呼ばれた孫文の胃袋を支えた中国料理の名店。品書きには創業時から受け継がれてきた料理が並び、食を通して中国と日本の歩みに触れることができる。夜はコースのみだが、ランチはアラカルトの提供も。真心と手間を尽くし、日中の架け橋となった孫文粥などの料理を味わえば、感慨深さもひとしおだ。

中国名菜 漢陽楼 内観

東京都千代田区神田小川町3の14の2
電話番号:03−3291−2911
営業時間:11時30分~14時 17時~21時
定休日:土・日曜、祝日 ※ディナーは要予約(コースのみ)

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